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指定されたホテルのロビー。重厚なドアをドアマンが開けてえっちゃんを中に招き入れる。すぐボーイが華やかな笑顔で、ご用件は。と聞いてくる。ロビーで待ち合わせ。とえっちゃんは答え案内される。
リョウさんは奥の席で何誌もの新聞を読んでいた。
えっちゃんに気づくと手を上げて真向かいに座るように指指しする。
[おはようございます]
えっちゃんは座って言う。机の上には携帯電話が四個。新聞の束。飲みかけのコーヒー。
リョウさんはチラリとえっちゃんを見て、挨拶を返し、あと五分で読み終わるから。と新聞に目を戻す。
リョウさんは新聞から目を離さないまま、手さぐりでウェイトレスを呼ぶボタンを押し、えっちゃんに、飲みたいの好きに頼んで。と言う。
えっちゃんはメニューを手にし、その値段を見て驚く。飲み物がどれも四桁。紅茶で千二百円。コーヒーで千円。
机の上にあるリョウさんのコーヒーカップは普通の大きさ。
ウェイトレスが来る。えっちゃんは要りません。と答えた。がリョウさんが、ここのダージリンが美味しいから。と言い、ダージリンを注文した。
メニューにはダージリンティ千五百円。と書いてある。
[ホント美味しいから]
リョウさんの言葉で、えっちゃんは矛盾してる事に気付く。
五分で読み終わるから待ってるはずなのにお茶を注文した。
予定があって急いでるのではないみたいだ。
五分経ってダージリンティが運ばれてくる。ポット付き。
鼻腔に凄く良い匂いが刺激される。
[私にもカップを。あと、これ下げてくれる?]
ウェイトレスにリョウさんは言った。
すぐ違うウェイトレスが来て新聞と飲みかけのコーヒーカップを下げる。
[飲んでみてよ]
リョウさんの勧めるまま、えっちゃんはカップに口をつける。
爽やかだけど濃く、ほのかに甘みのある紅茶だった。
えっちゃんはあまりの美味しさに、思わずリョウさんを見る。
[美味しいでしょ。えっちゃんに飲ませたかったのよ]
リョウさんは微笑んで満足そうに言った。
[お代わりもできるから]
飲むたびにゆっくりと肩を押されて沈むような感覚。一口飲み鼻で息を吐く。鼻腔を通る香りでその度に落ち着いてくるというか、心が穏やかになっていく感じに陥る。
リョウさんは穏やかな目でえっちゃんを見つめてる。
[気に入ってくれて嬉しいわ]
リョウさんは、文字通り嬉しそうに言った。
[本当、これ、なんと言っていいか分からないですが、美味しいです]
素直な感想を答える。えっちゃんの知らなかった世界の飲み物。




