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着信音で現実に返る。リョウさんから。
[おはよう?寝れた?]
電話越しのリョウさんは昼間と変わらない声質だった。目覚めの声ではない。
[おはようございます。よく寝れました]
[そう。なら良かった。そっちの仕事の方はうまくいったのかしら?]
そっちの仕事。清掃と皿洗いの事。うまく長期休みを取れたか心配してくれている。
[はい。大丈夫です]
元々いい加減な世界。無断で辞めたり、出勤して突然クビと言われるのが当たり前。
リョウさんは配慮や気配りできる人だとえっちゃんは思った。が、
[◯◯ホテルのテラスに居るわ。一緒に朝ご飯食べるから少し早めに来れる?]
五百万という重たい足枷を付けられた気分になる。
食べたいから来れる?ではなく、食べるから。という断定した言い方。
もちろん圧倒的にリョウさんの立場が上。それはえっちゃんは重々理解している。
えっちゃんはなんて答えたらいいか分からず。すると、
[ごめんなさいね。出来たら一緒にご飯食べたいのよ。無理なら構わないわ]
リョウさんから訂正とお詫びの言葉。
[いえ、ありがとうございます。すぐ向かいます]
えっちゃんは言った。リョウさんは
[ありがとう。待ってるわ]
と言って電話を切った。
今までに出会った事がないタイプ。支度をしながらリョウさんの事を考える。考えまいとしても頭を占領する。
バイタリティは人一倍ある。起きた瞬間から動けるのだろう。
自信家でそれを裏付ける経験と実績もあるのだろう。
多忙過ぎて細かな点に気付けない?いやそれなら、私の仕事先の心配はしないはず。
バカにされたり、女だからと見下されるのが嫌なのかもしれない。
一番まっとうな服に着替えて、ミヤビを起こし、仕事に出掛ける事を伝えて、リョウさんの元へ向かった。




