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玄関の開く音。えっちゃんは部屋の隅に身を寄せる。コースケが、大丈夫。という視線をえっちゃんに向ける。
部屋に入って来たのは女性。
[ごめん。遅くなった]
両手にスーパーの袋。誰ともなく袋から中身を取り出す。ジュースにお菓子。山のようにある。
[リョウさんね]
コースケは紹介する。リョウさんと呼ばれる女性。えっちゃんの前に立ち手を出す。えっちゃんはその手を握って握手した。
[はじめまして。えっちゃんね。よろしくね]
自信に満ち溢れてる笑顔で言った。どこでもイニシアチブ、優先権を取る性格っぽい。その為の労は、いとわないタイプ。実際に功績は凄いのだろう。
えっちゃんは頭を軽く下げ、よろしくお願いします。と答える。
皆、学生みたいな雰囲気だが二十代半ばから三十代前半。
[まずは乾杯しましょ]
当たり前のようにリョウさんが仕切る。他の人は従う。えっちゃんも倣う。
大人達の会話は仮想通貨の話だった。えっちゃんは邪魔にならないように話を聞くだけ。コースケも仮想通貨話に加わっている。その世界に長けてるようだった。
もっと私の話が中心になると思ってたえっちゃんは少し拍子抜けする。
ようやく、えっちゃんに話が向かう。
[コースケからどこまで話を聞いてるか分からないけど、ここでは私生活の事はタブーなのよ。だから質問されても答えたくない事は答えなくていいからね]
リョウさんが言った。
[目的はお金儲け。そうね一億くらいは儲けたいわね。純利でね]
リョウさんがサラリと言う。
[それにはえっちゃんが必要なのよ。もちろん皆の力も必要だけど]
わずかなイントネーションでリョウさんは生粋の日本人ではない事に気づく。中国か韓国かのクォーターかもしれない。が質問はしなかった。
それよりもどうやって一億円も稼げるのか知りたかったが、質問はせずにリョウさんの言葉にうなづくだけにした。
[えっとね。数ヶ月、三ヶ月後には二千万円。コースケ話した?]
コースケはうなづく。
[二千万円がえっちゃんの最低取り分。いいかしら?]
えっちゃんもうなづく。
[仕事休める?]
屈託無くリョウさんが言う。が、目は真面目だった。辞めろとは言われない。
[休みます]
えっちゃんは答えた。
[ハンハオ]
リョウさんは言った。很好。とてもいいねの意味。中国語。
[この子達の為にもやるわよ。いいわね]
リョウさんの言葉に皆がうなづく。リョウさんがカバンから雑誌を取り出すかのように百万円の束を取り出す。
[とりあえず五百万円先払い]
えっちゃんの前に積む。えっちゃんはコースケを見る。コースケはうなづく。
[逃げたりしません]
えっちゃんは言った。
[もちろんよ。でも当分は私と一緒に住むのよ]




