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少女も両親を知らない。それどころか自分の名前もどこで住んでいたのかも分からなかった。
過去の記憶はうろ覚え。何度辿っても霧の中にいる感じになる。
少女が覚えてる記憶は、雨の中、東京の人混みの交差点の真ん中に突っ立っていた。握りしめてたサイコロがやけに熱かった事だ。
熱かったのは自分の身体だった。熱を出してゴミ置き場でうずくまってた少女をアケミさんに拾われてずっと居候をしていた。
名前はアケミさんがつけた。
えっちゃん。
少女の口にした名前がエ・・なんとかだったらしい。
居候の代わりに家事はえっちゃんがする事に。だが、えっちゃんは米を知らなかった。味噌汁も知らない。知ってるのはパンや卵焼き。肉やハムやミルク。豆類のスープ。
調味料もほとんど知らなかった。
えっちゃんは不安になったが、アケミさんは、教えたら解決する話だわ。と笑って言った。
えっちゃんの質問にアケミさんは文句言わず全て教えてくれた。
でも、アケミさんはもう居ない。
えっちゃんは、自分が日本人でない事は自覚している。その事を皆で何回か話しあった事がある。リンが地球に居るから地球人だよ。と言い、ミヤビが東京に住んでるから東京人だよ。と言った事で全員、地球人で東京人。と解決した。
えっちゃんは、一人の時、図書館で色々な本を借りて読んだ。
日本人ではないはずなのに日本語も英語も理解出来ていた。それどころか、たいがいの言語は聞けば分かる事も知った。
物覚えはアケミさんが驚くほど早かった。
えっちゃんが驚いた事は、生きるのに凄くお金がかかる事だった。
アケミさんの仕事はなんとなく分かっていた。一度だけ、私も仕事をしたい。と
言った事があったが、ものすごい勢いで怒られた。
それでもアケミさんに甘える訳にもいかないので仕事を探した。なかなか見つからない。未成年で国籍も無い少女のやれる事はたかがしれていた。
危ない仕事はアケミさんが許さなかった。
日本や警察に頼る事も考えたが考えるだけでずっと引き伸ばしにしていた。
そうこうしてるうちにリンと出会いアケミさんのアパートへ連れて行った。
アケミさんは、リンの服をチラリとめくり、何も言わずにリンを抱きしめて泣いた。
リンは身体中アザだらけだった。
それからケン。ケイナ。そしてミヤビ。
えっちゃんが連れて来た。
アケミさんはため息を吐くも、全員を受け入れた。
アケミさん一人の稼ぎではとても暮らしてく事は出来なくなった。