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掴まれた手をほどこうと身を翻す。掴んだのはキャサだった。
[あんた、何やってんのよ]
キャサは周りを見渡し言った。
[とにかく中へ]
キャサはえっちゃんの腕を掴む。えっちゃんは掴まれたまま店内へ入る。
ドアを閉めたとたん表の喧騒がピタリと消える。ピンクの光の通路。向こうのドアを開けた瞬間、大音量の音楽がこぼれ出る。表通りとは別の世界のように思えた。
キャサは掴んだ手を離さないまま奥へ入っていく。小さなステージを堂々と通り、蛍光色の派手な布切れをくぐる。ドアがある。キャサは当たり前のように中に入り、鍵をかけた。中は従業員待機場所だった。たくさんの衣装が壁一面にかけてある。何人かの踊り子が居たが、キャサとえっちゃんを見ると皆、黙って部屋から出て行った。
[何があったの?仕事はどうしたのよ?]
キャサの矢継ぎ早の質問。語気が強かったが心配してるのは目に見えて分かる。えっちゃんが口を開こうとした時、
[あら、ごめんなさいね。お水でも飲む?]
と机にあった真新しい飲料ドリンクをえっちゃんに渡す。えっちゃんは開けずに口を開いた。
今日起きた事を一から話した。コースケの事は言わなかった。
[あのトンネルって確か◯◯町よね]
[全員、中国人だったの?]
間に挟んだキャサの質問はその二つだけだった。
えっちゃんは最初の質問には、うなづき次の質問には[おそらく二世だと思います]と答えた。
キャサはハサミを持ち、壁にかけてある服からメガネを一つ外した。その服はキャサが前に着ていたメガネだらけの服だった。
[これあげるわ]とキャサは黒フチのメガネをえっちゃんに渡す。
[携帯持ってないわよね]
えっちゃんはうなづく。
[お金は…ないわよねぇ。ユダがなんとかしてくれるかもしれない。えっちゃんの事を気に入ればね。明日の昼過ぎ。そうね。ステラマリスってお店知ってる?]
えっちゃんはうなづく。聞いた事はある。
[そこに12時でどう?連絡はしとくわ]
[ありがとうございます。あの、ユダさんってどんな人ですか]
えっちゃんは尋ねる。たった一回しか会った事がないのに、助けてくれるとは思えない。あてにはしない方がいい。行くだけ無駄なら行かない事も考える。
[そうね。ある世界では一番有名な人だわね]
ヤクザには見えなかった。
[ヤクザとかそっち方面じゃないから安心して。とにかく、気に入れば助けてくれるはずよ。ダメ元でも会っときなさい]
キャサはえっちゃんの態度を察して先回りの答えを出した。キャサさんが間に入ったのを無下にも出来ない。考えを改め直す。困らせたくないなら最初から言わなければいい。
[必ず行きます。よろしくお願いします。ありがとうございます]
えっちゃんは丁寧にお辞儀した。
[いいのよぅ。私が動くわけじゃないから]
キャサはそう言って豪快に笑った。




