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[玄関の隅に缶詰があります。鳴き出したら一缶だけあげてください]
コースケはそう言って駅の方へ向かった。またどこかに出かけるのだろう。
外に長く居過ぎた。
早く戻ろう。とえっちゃんは皆を階段へ促す。
ガリは階段手前で寝転び、運べ。と言わんばかりに、地面をシッポで何回か叩いた。
ケンがガリを持ち上げようとする。ミヤビが手伝う。
[なんなの。この猫]
えっちゃんは言ったが、それでも運んでるミヤビとケンを止めなかった。
登りながら、えっちゃんはケイナにコースケの事を聞く。ケイナの意見を聞きたかった。この短い期間でこの子達を手なづけさせた事が少しだけ面白くなかった。
[どうなのよ?あの男]
[まだ分からないわ。でも良い人かもよ]
ケイナまであの男の味方なのね。とえっちゃんは思った。
[分からないって言ったわよ]
ケイナはえっちゃんの気持ちを察したのか、同じ言葉を言った。
[重てえな。こいつ]
笑いながらも悪態を吐くミヤビの声でえっちゃんは振り返る。ガリは抱かれながら、えっちゃんの顔を見続けている。
この子達のいい暇つぶしになるわね。
とえっちゃんは思った。ケイナとの話は立ち消えした。
[あまり表に出ないようにね]
と、皆に釘を刺した。
この生活は薄氷の上で生活してるようなものだ。踏みどころを間違えたり、振動を起こすとあっという間に溺れてしまう。
えっちゃんは自分自身にも言い聞かせた。
愉しさという光はそれ同等の影を産む。
だがすでに他の人に比べて遥かに黒い影の中に居る。
コースケに甘えて愉しさを覚えた皆はコースケが居なくなった時の寂しさや哀しみを誰も考えない。
ガリが居なくなったら何人かは探しに外へ行くかもしれない。
もう一度後ろを振り返る。
ミヤビが抱いてるガリをケンが抱きたがってる。リンはガリを見てる。
これも幸せなひととき。
壊せない。壊したくない。
えっちゃんは、落ち着いてから、その事を言おうと決めた。
ガリはまだえっちゃんを見つめていた。




