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リンの買った画用紙セットと色ペンは、コースケに絵をあげる為だった。
ミヤビは工具を何種類か。
えっちゃんはケイナの化粧品を。ケンにはオモチャ。そして自分に帽子を一つ。
外を見渡す。万引きしようとした女の子を見かけなくて、えっちゃんはホッとしながら帰路につく。アパート。階段入り口にケイナとケンがしゃがんでいた。リンが急に駆け出す。アパートの入り口に猫がいた事にえっちゃんが気付く。
丸々と太ってる。太ってるというよりも普通よりも大きい猫。飼い猫だと人目で分かる毛並みの良さ。チェーンの首輪にコインが付いている。コインには剣のマーク。周りに英字の刻印。
[迷子かな?]
[なんて書いてあるの?]
[え、えくす、エクス…カリ、バー?名前?]
[なんか聞いた事あるよ]
皆が口々に言う。猫はふてぶてしい態度で寝転んでるが、皆のなすがままにされている。
[重たいよこいつ]
ケンが持ち上げようとするが猫は嫌がらずダラリと動かない。
[あ、こいつ男だ]
[オスよ。ピンイン]
リンがケンに中国語でも教える。
ピタリと会話が止まる。えっちゃんは振り向く。そこにコースケが立って居た。
[ただいま]コースケの言葉。猫に向けての言葉。
えっちゃんはなんて答えていいか迷っていると、猫が足元をスルリと抜けコースケの足元へまとわりつく。
[コースケの猫なの?]
リンが聞く。えっちゃんは驚いた。
リンは私達以外の他人からかなり離れていた。とくに大人には絶対的な程、頑なだった。レジでの会計すらしたがらない。
[ガリって言うんだ]
[太ってるのにガリはおかしいだろ]
コースケの言葉にミヤビがツッコミを入れた。彼は笑って言った。
[いや、ガリバーだからガリ]
えっちゃんはコースケの挙動を一手一足観る。ケイナがえっちゃんの肘の服を掴んだ。えっちゃんが警戒してる気配を察したからだ。
必要以上に身構えてるのは何かを隠してるのと同じ事。
えっちゃんは警戒を解く為に地面に目を動かす。万引きしようとした彼女の事を考える。ケイナがえっちゃんの服から手を離す。
[いつも色々とありがとうございます]
えっちゃんはコースケに丁寧にお礼を言った。
[いや、こちらこそ。この猫、ガリが居る事は大家さんには内緒にして欲しいんですよ]
コースケの物腰は柔らかい。子供相手に敬語を使う。下手に出てるわけではない。気持ちのこもらない癖のような言い方でもない。きちんと敬意を払っての敬語。
[僕が居ない時に可愛がってくれたら嬉しいな]
[大丈夫よ。私達が面倒みるわ]
リンがガリに触る為にしゃがみ込んで言った。
えっちゃんはあいまいにうなづく。




