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朝靄の中から、四時間程前はあんなに人がいたはずの通りに、小走りにやって来る少女。看板の消えた店の中では人は居るのだろうが、表通りには彼女以外は誰一人居ない。
向こうから車の音が聞こえ、少女は道路の端に身を寄せて耳をすます。車はまだ見えないがまた走り始めた。
車はゴミ収集車。ゴミ置きで止まり、運転席から老人が降りる。助手席からは髪を金色に染めた若い男。どちらもオレンジ色の作業服。老人の作業服は汚れていたが、金髪の男の服は新しい。
向こうから少女が来るのに金髪の男が気付く。少女も気付き立ち止まる。
[大丈夫だ]
老人が少女に声をかける。女の子は歩き出す。
[へー]
金髪の男が物珍しそうに声をあげた。無理もない。近づいてくる女の子の目は青かった。帽子からはみ出てる髪の色は淡い金色。自分のように脱色した金髪ではない。おそらく外国人。それよりもなんでこんな所に。こんな時間に。
[なんで]
と、金髪の男は声をかけようとしたが、老人が手で遮る。
[えっちゃんだ。コイツは新しく務めるヤツだ]
老人は金髪の男に言い、少女に言った。少女は金髪の若い男に小さな笑顔を見せて顔を下げる。つられて金髪の男も頭を下げた。
[欲しいのあるかい?]
[いつもありがとうございます。大丈夫です]
優しく言う老人に少女が遜色のない日本語で答えた。金髪の男は再び驚く。外国の子供かと思い込んでいたからだ。
[日本人?]
思わず口に出る。
[そういう詮索はするなと言ったろ]
老人は金髪の男をキツく睨む。男は気付かないフリをした。がすぐに少女に謝罪の意味での頭を下げた。少女は首を振る。
少女がやって来た道の方からカラスの一鳴き。少女がビルとビルの隙間に入る。その途端向こうから自転車に乗った警察官が二人。見廻り。
金髪の男は確信した。この子は不法滞在の親から産まれた子供だと。でも信じられなかった。中国人やフィリピン人の子供なら何度か見た事はある。でもあんな可愛い子が。
警察官は通り過ぎる。警察官は老人と金髪の若者を一瞥する。老人と金髪の若い男は警察官など見えないかのようにゴミを詰め込む作業。
なかなか女の子が出て来ないので、金髪の男はビルの隙間を覗き込む。が少女はすでに居なかった。
モゾリと動くモノに目を取られたが、それは肥大したネズミだった。
[行くぞ]
の老人の声に金髪の男は名残惜しそうに車に乗った。