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早乙女さんと恋したい  作者: 春滝
ヴァルキリー編
6/7

6話『輝く刃、貫く雷』

私、研究者の求めていたものが放たれた。

純然たる輝きを持つそれ、神槍ヴァルキュリアスの一撃が私に向かって放たれた。

神槍ヴァルキュリアス、それは幾人もいるヴァルキリーの中からただ一人に託される神の武器。

私は研究者だ、常に様々な事が知りたくなる性分である。そしてそれ故に私は様々な事に手を出してきた。

常識を歩み、偉業を成し遂げ、禁忌に踏み入り、そして私は神に拾われた。

そこは私にとっての未知に溢れており、そこでも研究を続けた。中でもヴァルキリーと呼ばれる存在は中々に興味深い存在だった。

そして神槍の存在にたどり着いた。

ヴァルキリーという存在に個という物は存在しない、あくまで群にして一である存在だ。しかし神槍がそれを覆す。

神槍はただ一人のヴァルキリーにしか与えられない、つまりその時点でそのヴァルキリーは群から抜け出した特別であるのだ。

私はそのヴァルキリーを研究したかった、しかし神はそれを許さなかった。当然、私は気にしなかったが問題があった、それはヴァルキリーを個にした原因でもある神槍だ。もし神槍を以って抵抗されれば私は瞬く間に消されてしまうだろう。

だから研究した、そして生み出した。神槍に抵抗する為の術を、作戦を、武器を。

そして今、私に向かって神槍が投擲された。相手もこちらに誘われていると気がついているだろう、その上で選択したのだ。

私は身体中の触手を解放する、触手の真の用途は神槍の一撃を受け止めることだ。その為に様々な技術を十分につぎ込んだ。


「っ!?」


ヴァルキリーの驚愕に染まりつつも、それでいてやはりという顔が見えた。触手はヴァルキリーの持つ力を解放して神槍の一撃を受け止め様とする。

神槍は強力だがヴァルキリーの力を込めて投擲される、つまりヴァルキリーの力なら受け止める事が出来ると推測した。そして群のヴァルキリー達の力を奪い、それを触手につぎ込んだ。

そして今、神槍はその威力を落としつつある。いくつかの触手は吹き飛んでしまったが、それでも受け止めきれるだろう。

そうして、神槍は動きを止めた。


「くひっ」


口から笑いが溢れるのが止められ無かった、これで後はヴァルキリーを捕獲するだけだ。障害はあるが神槍すらも受け止めきれる私の技術を以ってすれば問題無いだろう。

そう考えていた私にヴァルキリーの姿が映る、神槍と共に飛び込んできていたのだろう。しかし既に神槍はその手になく、手には傘があるだけ。ヴァルキリーと身体を一つにしていた存在が持っていた物だ、それぐらいしか武器が無かったのだろう。

確かに今の私は消耗している、神槍を受け止めるのに力を費やしたからだ。しかし神槍に近しい一撃でも無い限り問題は無い、私は触手を動かした。


「あ?」


筈だった、触手が動かない。驚愕に染まる私の瞳にヴァルキリーと共に抵抗していた青年が映った、そして青年はこちらに手をかざしていた。

何かしたのか、しかしまだ問題は無い筈だ。そしてヴァルキリーは傘を振りかぶっていた、そして傘は姿を変えた。

剣だった、細いかもしれないが十分に武器であり、私をさらに追い詰める。だがそれだけでは終わらなかった。ヴァルキリーはその剣に力を込めた。

それは神槍の如き輝きで。


「所詮貴様は研究者だったというわけだ」


そして輝きは私を斬り裂いた。




「ぐっ!?」


「大丈夫か!」


研究者を斬り裂いたヴァルキリーは膝をつき、俺は急いでヴァルキリーに駆け寄った。

ヴァルキリーは神槍を投擲した直後に近くに置いておいた傘を回収、ヴァルキリーが俺に言って用意させた汎用武器だ。そして俺に触手の動きを止めさせて、自身の全力で斬りつけたのだ。

しかし二回も力を込めたのでヴァルキリーは倒れてしまったのだろう。傍目は荒い呼吸をするだけだがその消耗は激しいのだろう、その場から動けないでいた。

俺は警戒して研究者の方に視線を向けるが、そこにあったのは真っ二つになった研究者の身体だった。

だが血を流さず、傷口が黒い何かで染まった研究者の姿は変わり身かと思ってしまう程だった。

とはいえヴァルキリーの事もあるのでこちらから何か仕掛ける事も出来ず、警戒しながらヴァルキリーを離す事にした。


「もういい、感謝するぞ」


研究者から少し離れた場所でそう言うと、ヴァルキリーはこちらの肩を借りずに一人で立った。そして研究者に視線を向けた後、手から放さずにいた武器に目をやった。

見た目は傘だが剣にもなるその武器はヴァルキリーの力を流し込まれたせいか、それとも研究者を斬った為なのかボロボロだった。


「そう言えば神槍以外にも力を込められるんだな」


「代わりに効率は悪く、力を込めた武器は内から崩れるがな」


確かに神槍の投擲は遠距離からでさらなる威力があった、もしそれを直接叩き込んでいたら研究者の体は跡形も無く吹き飛んでいただろう。


「後は良上さん達を待つだけだな」


「そうだな」


そう言ってヴァルキリーがその手に持った剣を捨てようとした時だった。

音がした、研究者のいた方向から。


「なんだ、あれ?」


「私にも分からない、天の世界でも見た事が無い」


黒だった、まるで子供の落書きの様な物体がそこにいた。一応手足はあるがこちらから何があるのか分かるのはそれぐらい、それほどに黒かっただった。

そしてそれはこちらに襲いかかって来た。

俺は咄嗟に前に出る、ヴァルキリーは既に体力を使い尽くした。

おそらくは研究者だったモノだろう、それならばヴァルキリーを見逃す訳が無いのでここで倒す必要がある。

一応、研究者という事にした黒い何かは真っ直ぐにこちらに向かって来る。


「バースト!」


俺はバーストで迎え撃つ、触手だろうが黒い獣だろうが、距離はあるが足止めくらいは出来ると考えて。

しかし甘かった、研究者は片腕を犠牲にしてきた。研究者の片腕は動きを鈍らせたが両足は健在だし、もう片腕が残っている。

距離はもうない、研究者は腕を振りかざした。避けるには容易い一撃だが、その場合はヴァルキリーがどうなるかわからない。

なら受けきれるかと言われればそれは難しい、おそらく簡単に吹き飛んでしまうだろう。

ならばやる事は簡単だ、俺も踏み込んだ。

バーストを放った直後だがバッテリーを変えている時間は無い、なので残った電力を全て構えた腕に集中させる。

その一撃で倒す、最低でもこちらに意識を向けさせる。穴だらけだろうが、今出来る選択。

しかし、遅かった。ただこちらを潰す為だけに行動していた研究者、対しては様々な事を考えていたこちら側、その迷いとも言えない選択の時間が命取りだった。

しかしもう引き下がれない、俺は相打ちも覚悟する。


「!!!」


その瞬間、研究者の動きが鈍る。

そしてその直後、こちらの一撃が研究者へと直撃した。


「突貫!」


バーストとは比べ物にならない程の電撃が研究者を襲い、途中まで振るわれていた腕が俺に襲いかかった。

こちらの全力のお陰か思っていたよりは低い威力だったが、攻撃の事しか考えてなかったので容赦無く吹き飛ばされる。

しかしそのまま何かに衝突という事にはならなかった、何故なら水で出来た腕に受け止められたからだ。

事態を理解した俺は功労者に感謝する。


「ありがとうございます、玖水先輩」


「謝罪、でも遅れた」


先程、研究者の動きを鈍らせたのも異人である玖水先輩の力のお陰だ。

玖水先輩が持つ力で研究者の影を水に変えて操り、そのお陰で俺が先に一撃を入れる事が出来たのだ。先程、俺を助けた水の腕も玖水先輩が俺の影を変えて生み出した物だ。


「そうだ、研究者は!」


玖水先輩のお陰で安心していたが研究者の姿を確認していない事に気付く。すると、玖水先輩がとある方向を指差す。

そこには元の姿に戻った研究者の姿があった、意識は無いのかすぐに動きそうな気配は無かった。それを確認した俺は力が抜け、その場に座り込んだ。


「普通はこちらを先に心配するのでは?」


「玖水先輩がいたからな、何とかしてると思って」


そんな俺に差し込んできた影を落としてきた声の主にそう返す、ヴァルキリーだった。最後に一撃を貰った俺に対して、力を使い果たしていたヴァルキリーは怪我は無い。

分かってはいたが無事なその姿を見た俺は後の事は玖水先輩が何とかしてくれると信じ、疲労等の理由から意識を手放すのだった。

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