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早乙女さんと恋したい  作者: 春滝
ヴァルキリー編
3/7

3話『神槍ヴァルキュリアス』

翌日、その日は休日でもあり学校は休みだ。天気も程良い快晴で何処かに出かけるなら調度良い日であると言えるだろう、今日が早乙女さんとの買い物でなければその言葉に文句の一つも言わずに同意するのだが。


「ついに来たか、この時間が」


口にする事で何とか冷静さを保とうとするが難しい。考えてみればただの買い物なのだからそれほど気にする必要は無いのだが、そうは分かっていても難しいものはある。女性との接触が少ないとはいえ玖水先輩や他の部との協力時にそこの女性とも接するのでそれなりにはある。しかしそういう仕事関係を除いた場合は全くと言っていいほどに女性と接した機会は無かった、それこそ今回が初めてなのではと考えるくらいにはだ。

しかし緊張しようがしまいが変わる事は無い、ここは諦めて早乙女さんの事を待つ事にした。しかしここまでこちらが緊張しているのに向こうは全く気にしてもいなかったら少しショックを受けそうだが。


「お、お待たせ」


と、声の調子からおそらく少しは緊張しているであろう早乙女さんの声が聞こえてきたのでそちらに振り向く。当然のごとく初めて見る早乙女さんの私服姿、思っていたより少し活動的な感じがした。じろじろと見るのも悪いので素早く頭の中身を回転、そして早乙女さんとの会話に意識を戻す。


「待ってない、待ってない。それより思った以上に活動的な感じがするな」


あんまり戻って無かった。


「あ、服の事?最近、何故だかそういう服を買っちゃって」


理由がわかった、おそらくヴァルキリーがいざという時の為に動きやすい服を選んだのだろう。しかしイメージとは少し違っていただけで似合っていないという事は無かった、となるとちゃんと言わないといけないだろう。


「似合ってるな、そういう服も」


「そ、そう、ありがとう」


俺の言葉に早乙女さんはちょっと照れた様に返事をした気がした。

その後、2人で買い物する為に歩きまわった。今回俺達が買い物に来たのは住んでる街から電車で数駅の場所にあるショッピングモールだった。多くの種類の店がある為、買い物といえばここと言われる様な場所だった。勿論今回みたいな男女でのお出かけにも適しておりカフェやレストランに映画館など、大体の物は揃っていた。


「それにしても、バイト先の先輩の誕生日だったんだね」


「あぁ、女性だし俺が選ぶよりは、って思ってさ」


当然、玖水先輩の誕生日等は近くも無いが、今回の相談内容に関してはこれで押し切るつもりだった。これが咄嗟に他の内容を思いつかなかった俺の最大限、これなら女子を買い物に誘ってもそこまでおかしく無い理由だろうとなったのだ。ちなみにバイト内容に関しては適当な事務仕事であると誤魔化している。


「それで、どの様な物が好みなの?」


「先輩が、か」


と言われて玖水先輩に関して考えるが、何が欲しそうかは何も思いつかなかった。確かに空き時間とかに話す機会はあるのでそれなりには玖水先輩の事を知っているが、彼女は欲しい物は余り無い人で、欲しい物は自分で買う様な人だった。前の誕生日も結局思いつかずにお菓子を贈った事を思い出した、ちなみに良上さんとの合同でだ。


「あー、水に関わる物かな」


結局、無難な所に逃げた。玖水先輩の好みの一つで水に関わる物が好きであった、水のアートとか。しかし買えるサイズで気にいる物は少なく、気に入った物はすぐに買うので重なる危険があった。とはいえ既に持っているとなったら俺の部屋にでも置けばいい事に考えが至った、別に本当の誕生日でも無いのだから。


「水か、それならあそこね」


そう言って早乙女さんが連れて来てくれたのは色々な置物がある場所だった。置物と言ってもただの置物では無く、色々なギミックの物が置かれていた。それこそ水が使われている物まで。


「これ、この前見かけたんだけど」


そう言って早乙女さんが教えてくれたのは小さな水車だった。電池式で水を組み上げ、その水で水車が回る物だった。値段も思ったより安かった、何も無い日に送る物としては高かったが。いっその事、先輩に送らずに自分の部屋にでも置こうかと思った。


「あぁ、多分先輩も喜んでくれるよ」


「それなら良かったよ」


俺は早速購入、早乙女さんも見ているので仕方なく贈り物様の梱包をしてもらった。これで一応の用事は済んだ事になるが、流石にこのまま帰るのは早乙女さんに悪い気がした。護衛している側、護衛しているのはヴァルキリーだが、としてはこのまま直帰してもらい家に居てもらった方が良いのだが利用しただけでお礼もしないのはあれなので。


「早乙女さん、もし時間があるなら何か奢るよ」


「え!?でも、菅くんに悪いよ」


「むしろ相談にのってもらって何もしない方がな」


「それじゃあ」


そう言って早乙女さんが選んだのはアイスクリームであった、チェーン店で様々な味が味わえる場所で値段も手頃だった。1階だからなのか店外席もあったため、折角なのでそちらを選ぶ事にした。


「今日が晴れで良かったね」


「だな、外で食べる方が贅沢な気がするし」


そう言って俺はチーズケーキ味のアイスを味わう、早乙女さんはショートケーキ味であった。味が違うとはいえ味見の提案は出来なかったけど、心地よい日差しと風を感じながらゆったりアイスを味わいながら過ごした。そうして2人ともアイスを味わい尽くしたのでこれからについて考える、時間としてはもう帰ってもいいけどもう少しだけ歩くのも悪くない。個人的にはもう少し静かなここでゆったり過ごすのも悪くないが早乙女さんの意見を聞く必要があるだろう。そう思って早乙女さんに声をかけようとその顔を見た時だった。


「敵が来る」


そう言った早乙女さんの瞳は金に染まっていた。咄嗟に周囲を見渡すとそこには誰もいなかった、そりゃ静かな筈である。急ぎ携帯を弄り、荷物の中から取り出した物を身につける。見た目は手袋だが少し物騒な物であり、有事の時には役立つ物だった。そしてこちらの準備か終わり、ちょうど良いタイミングでヴァルキリーの言う敵が来た。

それは二本の足で立つ黒い獣であった。全身が真っ黒に染まっており目が何処にあるかも分からないが獣はこちらを見ていた。そして支える足に対して大き過ぎる身体を、人ならば安安と潰してしまいそうな腕で支えながらこちらに近づいて来た。そしてこちらへの威嚇か、それとも獲物を見つけた歓喜か、黒い獣は咆哮する。


「獣一匹で私を消せると考えたか」


「このままなら、可能だな」


しかし咆哮に身を竦ませる訳にはいかない、何故なら

黒い獣は既にこちらに向かって来ていた。

俺は近くにある、先程まで座っていたアイスクリーム屋の店外席の椅子を掴むと黒い獣に投げつける。一直線にこちらに向かっていた黒い獣にそれを避ける術などある訳も無く直撃、動きを止める事には成功したがすぐにでも立ち上がりそうだ。

俺は続いて机を蹴り倒して壁を作るとすぐさま次の椅子を投げつける、だが黒い獣は腕を払う事で簡単に椅子を打ち払っていく。しかし黒い獣は次々と投げつけられる椅子に苛立ちを感じているのだろうか、段々と椅子を払う腕の動きが滅茶苦茶になってきた。

そこで黒い獣への椅子の雨が止む。黒い獣は好機だと思っただろう、すぐさまこちらに向かって来ようとする。そこに俺は隙を突いて最後の椅子を直接叩きつける、投げつけられる椅子に比べて威力のある椅子が黒い獣の頭を襲う。その椅子の一撃は黒い獣にとって大きかったのだろう、黒い獣の意識が完全にこちらに向かう。


「それでいい、こっちに来い」


そう言って俺は黒い獣と対峙する、後は時間を稼ぐだけだ。特保として戦う為の力を持つが今回の黒い獣の様に巨大な相手に対する術は少ない。そういった時は敵の意識をこちらに移して援軍を待つのが一番であると考えている。無理に立ち向かってもその後に何があるか分からないのだから。


「よく時間を稼いでくれた」


しかしその声は俺の思っていたのとは違う人物の声であった。声のする方向、黒い獣の後ろにはヴァルキリーがいた。その手には何故か神々しい槍、というよりはランスを持っており投擲の構えだった。

ヴァルキリーは現在早乙女さんの身体に憑依していおり、早乙女さん自身の力を底上げした状態で使用出来る。とは言っても元は体育会系では無い女子、いくら底上げしようが限界というモノがある。

あの槍を投擲したとしても黒い獣に対して効果があるかは不明だ、しかしヴァルキリーは確信に満ちた顔をしていた。


「貫け、神槍ヴァルキュリアス」


その言葉と共に槍、神槍ヴァルキュリアスは黒い獣に向かって投擲された。神槍は力を放ちながら真っ直ぐに黒い獣に向かって飛ぶ、神槍の通り道はその衝撃によりボロボロだった。

俺に意識を向け気付くのが遅れた黒い獣は神槍を正面から受け止める事になった。しかしもし早く気付けたとしても神槍の放つ力に捕らわれ、回避する事は無理だったに違いない。

神槍はまず周囲に纏う力を黒い獣に対してぶつける、それだけでも吹き飛ばされそうだが黒い獣はその力を受け切った。しかし残念な事に神槍自体の一撃が続いた、本体の一撃は周囲に纏う力とは違った。

気がつくと、役目を終え地面に突き刺さる神槍と、その身体に大穴を開けた黒い獣がいた。神槍は直撃と同時に黒い獣の活動を終わらせた、周囲に力を撒き散らしながらも。


「ふむ、こんなものか」


驚く俺を他所にヴァルキリーは神槍をその手に戻す、そして瞬く間に何処かへと消し去った。


「普段は異次元に置いてあるからな」


俺の顔に書いてあった疑問に答えるヴァルキリー、そして何事も無かったがごとく離れた場所に置いてあった水車の入った袋を回収した。いつの間にか安全な場所に置いてあったらしい。


「あの力、一体何なんだよ」


「いずれ話す、二度も話すのは面倒だからな」


後で良上さんから聞かれる事を予想したのだろう、そう答えたヴァルキリーは何やら悩み始めた。何を悩んでいるのかと考え、俺もある考えに辿り着いた。

早乙女さんの記憶の補完である、今回は俺と出掛けた時に起こった事なので俺とヴァルキリーがしっかりと話し合っておかないと面倒になる。


「もしかして、記憶の事か?」


「いや、そちらは適当に合わせておこう。アイスクリームを食べた後で解散、その後にここで事故があったとでも補完しておく」


気になって聞いてみたらしっかりとした答えが返ってきた、ここまでしっかりと補完出来るなら今回の外出の原因となった時もちゃんとして欲しかった。

その他の事でとなると、今回襲って来た黒い獣の事だろうか。気がつけば近くにおり強力な力を持つ獣だ、結果としてより厳重な対策を強いられてしまった。これからより厳しい護衛をしていく事を考えると少しげんなりするが、これぐらいの事はたまにあるので諦めるしかないだろう。


「あれを、誰が連れて来たのかを考えていた」


色々と考えていた俺にヴァルキリーが自分の考えについて話してくれた。しかし考えてみればそうだ、あの黒い獣には獲物に向かう程度の知性があってもここまで気づかれずに来るという事は出来ないだろう。

そう考えると誰かが今回の襲撃を手引きした事になるが俺には全く思いつかない、しかし襲われたヴァルキリーなら心当たりがあるのかもしれない。

しかし神槍の事を考えるとここでヴァルキリーが答えるとも思えない、後で事情を聞くであろう良上さんから聞く事にして今は聞かない事にする。


「研究者か」


なのでヴァルキリーの呟きも聞いていない、けど何か関係あるんだろうと思うのだった。


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