1話『早乙女さんに恋してる?』
1個の作品に集中できないので思い付いた作品を上げていく作者
何の変哲も無い日常の話。
「お前さ、早乙女さんの事好きだろ」
「はぁ?」
学園の友人のうちの1人から、そんな事を言われた。
「いや、そんな事は」
「あぁ、確かに俺もそう思ってた」
「俺も俺も」
否定しようとしたが、その前に周囲の他の友人達の賛同の声で出来なかった。気がつくと周りではいかに俺が早乙女さんを好きなのかを話していた。
こうなっては俺にはどうする事も出来ない、友人達には関わらない為にも黙っておく事にしておく。こういう時は頭の中で宇宙にでも意識を飛ばしておくのが一番だろう。
しかし、悲観している訳ではないが望んだ通りにいかないのがこの世の中だ。友人達の1人が俺に声をかけてきた。
「お前さ、自分の行動を振り返ってみろよ。どう考えたって早乙女さんの事が好きにしか見えないぞ」
「そうか?」
テキトー、に流して意識を再び宇宙に飛ばそうかと思ったが、こう言われてしまったので自分の行動を振り返ってみる事にしてみる。
(まずは学園に登校中から)
昨晩は遅くまで用事があって少し寝不足だった俺は、眠い目を擦りながらも必死に登校していた。そういえば今朝も宇宙に意識を飛ばしそうだったなと思い出した、そして早乙女さんは俺の少し前を歩いていた。
(次は、授業中か)
当然の事ながら、朝から意識を宇宙に飛ばしそうだった状態で授業に集中出来る訳も無い。学園に通っていれば自ずと覚える教師達の特徴からだらけても問題無い教師は全力で休憩させてもらった、そういえば早乙女さんは見ている限りしっかりと授業を受けていた。
(そして昼休みだな)
俺は朝から弁当を作れる程の早起きは出来ず、かと言って弁当を作ってくれる相手もいない。となると昼飯は何処かで買うしか無い、しかしこの学園に限った話では無いがこの時間は何処も混んでいる。そこに突撃する気の無い俺は事前に買っておいたコンビニの惣菜パン等が主な昼飯である、食事中にふと視線に入ったが早乙女さんは友人達と弁当箱を持ち寄っていた。
(今は放課後)
今日は特に用事の無かったのでこうして友人達と喋りながら時間を潰していた、時折連絡が来てないかを気にしながらも普通の学生を過ごしている。その途中でこの様な状況になったのだ、ちなみに早乙女さんはすでに下校を確認してみる。
(振り返ってみるとだ)
登校中は早乙女さんの後ろにつけ、授業中は授業を受けないくせに早乙女さんを見て、昼飯を食べながらも早乙女さんに集中、そして早乙女さんの帰宅をしっかりと確認している。
そんな人を他人はこういうだろう。
(ストーカーだ、これ!)
「どうだ、絶対意識してるだろ」
友人達は良い方向に解釈しているが、どう考えてもかなりヤバい奴にしか思えなかった。実際、俺が早乙女さんを恋愛的に好きかと言われれば否となるのだが、そうじゃないなら何故という話になるのが面倒だ。ここはいっその事、嘘でも認めてしまった方が今後も楽だろうが流石にそれは無いだろう。
そう俺が悩んでいると携帯にメールが届いた通知が出る。ここぞとばかりに俺は何か良い解決策になるかとメールを確認する事にする。
「どうかしたのか?」
「ん、ちょっとな」
メールの内容を確認した俺は了解の返事を送ると、早急に帰り支度を始める。この現状の解決策はメールを理由にさっさとこの場を去る事となった。
「帰るのか?」
「あぁ、用事が出来たからな」
「そうか、それじゃあまた今度聞かせろよな」
俺はその言葉に返事をする事なく出た、この話題が二度と出る事が無い様に願いながら。
メールの内容に了解した俺が向かったのは近くの公園だった。そこには1人の少女が立っていた、周囲に複数の男達が倒れている中で。
「ん、遅かったな」
少女はこちらに気付いたらしく、ゆっくりとこちらに歩いてきた。
先祖帰りらしい少し銀色染みた長い髪、身長は俺より低いが比較的整った体型、そしていつもとは違い鋭い眼光を放つ金色の瞳。
「無茶してないだろうな、その身体はお前の物じゃないんだからな」
「わかっている、私も無理はせん」
そうは言っているものの、彼女は一般的な女性の身体でこの現状を作り上げたに違いない。こちらからすれば一体何をしたのか気になる所である。
「貴様、信じていないな」
「そんな事はない」
余程疑ぐり深い顔をしていたのだろう、彼女が何か聞いてくるがまともに相手をする必要もないだろう。彼女への返事もそこそこに自分の仕事を開始する。
倒れている男達の持ち物等を探り身元を確認、それに加えて今起こった事を上に連絡するだけだ。幸運な事に直接の上司は良い上司と言えるので問題無い、その上から何か言われるとしてもそこは上司に任せるしかない。
「まぁ、怪我が無くて良かったよ、本当に」
「私が何者か知っていてそれを言うのか?私は」
「ヴァルキリー、だろ」
異人、それは人とは異なるも人に限りなく近い者。近年、とある異人が人との接触を図り、それを機に様々な異人が人との接触を始めた。そうして今では多種多様な異人達が人の生活圏で暮らしている。
「それに知っているだろう、私の強さを」
「そうだな、これまで特保がどれだけ働かされた事か」
しかし人と異なる者は様々な問題を起こした、そうして出来上がったのが異人対策委員会、そしてその中でも更に特殊とされている異人に対して動くのが特殊異人保護衛部、通称特保だ。どの様な異人が来ても相手出来る様に大量の人、しかも才能のある人が働いていた。しかしそれも今や昔の話、時代が進み多彩な異人に対して多彩な専門の部署が出来上がるにつれて縮小、今では他の部署の手伝いくらいに思われる程だった。
だが今回やって来たこのヴァルキリー、彼女には特殊な性質があった。それは自分達の適した環境以外では他者に憑依するという性質だと言う。そして今回憑依した人物と特保の人物が近いという事で仕事が回ってきたのだ。
「それじゃあもう帰っても大丈夫か?」
「また問題を起こすなよ」
「・・・決めた、後は任した」
「って、おい!?」
そう言うとヴァルキリーは憑依した人物の内側に眠ったらしい、鋭い金の瞳が穏やかな黒の瞳に変わったので確実だろう。そして、それと同時に憑依された本来の身体の持ち主が意識を浮上させる。
「う、うん?」
「や、やぁ」
俺は何とか良い言い訳を考えながら、にこやかに挨拶をする事にする。かなり怪しい感じだがこの際仕方ないだろう。いっその事気絶させて色々誤魔化したくなるが、それをやったら色々と台無しだろう。
「あはは、えっと、早乙女さん?」
彼女の名前は早乙女郁、ただいまヴァルキリーに憑依されており、俺が好きであると言われている相手。
「えっと、菅くん?」
俺の名前は管理人、そんな早乙女さんを影ながら護衛し、早乙女さんが好きだと思われている人物。
ただいま、都合の良い言い訳を思案中。
「あはは」
おそらく、人生最大の危機である。