背中が冷たい?
黒井羊太さまの主催の万物擬人化企画「ヤオヨロズ企画」参加作品です。
「***」以降、人間ではないあるものが喋ります。
どん。
レンくんの手が、壁を突いた。大きくて、ゴツゴツとした手。レンくん、こんな手をしてたんだ……
「こっちを見て」
そうだった、手なんか見てたってしょうがない。恥ずかしくたって、顔を見ないと。
でも私は、いつもの自信なさげな、はにかんだような表情が好きなのに……目の前にあるのはきっと、いつになく真剣なレンくんの顔なんだろう……
「こっちを見て、カエデ」
ああ、その静かな声。熱のこもった声。バリトンの声……
私はようやく、彼の顔を見た。やっぱり恥ずかしい……。
そこで私は、ちょっとだけひねくれてみた。
「ちょっと、どいてよ」
「え……」
「背中、冷たいんだから……」
レンくんは、バツが悪そうにはにかんで壁ドンをやめると、私の背中に腕を回してくれた。
***
さてと。
あの人たち、もう行ったかしら……?
まったくもう、なんなのよ、あの男。
毎日毎日、思わせぶりなそぶりをして、本当はあの女が好きだったのね。
いっつも私に寄り添ってくれていたのに、本当はあの女が好きだったのね。
これ見よがしに、壁ドンだなんて……
もう、なんなのよ。いっつも私に寄りかかって、スマホを見てたくせに。
本当はあの女が好きだったのね、それがわかって私……
思いっきり、冷たくしてやったわ。
……逆効果だったけど、フン。
ということで、壁さんでした〜
「なんなのよ、その軽〜い紹介、フン」