第三話-幻蝶蚊帳の存在達
この世界には、様々な参加者と呼ばれるプレイヤーがいる。
だいたいは単独で、脳制御と高度な情報処理を行う。
それは、この夢世界に存在を確立、降臨、定着させられる程の、いわゆる頭の一線越えていい、天才達だ。
そうでなければいけない、絶対的な理由がある。
この世界を直観的に理解し、解釈をおこなう事は、常人には不可能だ。
一見して現実と変わらない此処は、沢山の人間の高次元なネットワークによって成り立っているからだ。
だから、ネットワーク内に己を存在させて、ネットワークの一部として己を世界に組み込まなければいけない。
さらに言えば、その後もネットワーク内で己を持続させて、オリジナリティーのような存在感を保つ必要もある。
それによって初めて、この世界に存在できるのだ。
大抵の例外を除いて、参加者は奇跡のような経験知によって世界を処理して、己を世界に存続させ続けているのだ。
まあ難しく考えるような必要は無い、
全員が世界の、世界を構成する、言うならキャラクターとして、欠かせない要素として、そうなるように考慮しながらやってるってこと。
まあ俺のように、かよに存在を補完してもらい、
様々にバックアップを受けた上で、プレイしている奴もいるがね。
これは稀に含まれるだろな。
ちなみに補完作業だが、片手間程度に、かよの場合は行なえるらしいぞ。
今でもどっかで、何かしているのか知らない。
さて、そんな世界に存在するのは、何もプレイヤーだけではない。
NPC、所謂モブキャラクターも沢山いる。
特に上位NPCと呼ばれる存在は、キッパリと人間と変わらないレベルまで、存在が昇華される。
上位NPCとは簡潔に言うと、多くの人間の頭の中に共通して存在する、そんな様々な方面の有名人だ。
集合的無意識を集積、集合させた単一存在だ。
大抵は多くのプレイヤーの脳の空き容量を、分散コンピューティングの様に間借りしている。
それによって、その超高度な人工知能を獲得している。
このように、プレイヤーも上位NPCも沢山いる。
そうなれば派閥や闘争も、自然と発生するわけだが。
だいたい派閥は大きく分けて四つ、争いに関しては年中無休で行なわれている。
大きい派閥は四つに分けられた世界で、それぞれ一つある。
それぞれ最大派閥が、ほぼその世界を牛耳る形で成立している。
それぞれの主張は、この世界の支配率を高めて、
世界をもっとメルヘンチックにしたい。
もっと想像科学を高度発展させたい。
もっと殺伐と混沌とさせ、神性を高めたい。
お前ら全員どっか行け!。
とか色々だ。
それぞれの派閥は、この世界で己の欲望を、より効率的に満たす為に、稀というレベルでなく闘争を起すって訳だ。
まあ俺は、そんなの全く気にしないし、知らないのだがねぇえっ。
この世界を、ただただゲームの様に、ただ楽しめればそれでいいのさ。
そんな平和主義で快楽主義なのが、俺だ。
しかしこんな俺を、そっとして置いてくれない奴らが二人いるのが、最近の俺の大きな悩みだ。
「わお?ここの料理って噂通り最高ね!
どうよイツキ?!苦労した甲斐があったっしょ!」
「ああ、確かにこりゃ期待以上だ。
でも、苦労以上かって問われると、首を傾げざるを得ないね」
「あら?あんなにもサービスしたのに、何か不服だったの?」
「もういいよ。
俺は疲れたんだ、速く全部終わらせてくれ」
「じゃー終わらせるけどいいかな?」
「ええ、もう第一の目的も済ませたところですし、第二の目的に移っていいでしょう」
「おい、お前ら何する、、」
「きゃぁあああ!!!変態ですぅ!!変態がいますぅ!!変質者が女の子に猥褻な行為を働いています!!!」
「キャーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
あたりが一気にざわめき出す。
ある程度予想していたシチュエーション、とはいえ、実際やるとは思って、、いたけど、思っていたけどぉ!!
「それじゃ!イツキはしっかりと城の中を混乱させるような!大立ち回りを演出するように!できなければ調教よ!」
「悪いわね、上手く立ち回ればご褒美を、失敗すれば悪夢を見せてあげるわ、それで勘弁して頂戴ね」
そして、兵士達の所に掛けて行く彼女たち。
言葉にするのも憚られる、猥褻な事をされたと、涙ながりに語る、見た目だけは純真無垢な乙女達。
とうぜん、義憤に燃えた筋骨隆々の守衛達が、俺を取り囲むように迫ってくる、そういう寸法だ。
はあぁあ、たく、
まったく陽動とは言え、こんな正義感の強い一般人に、こんな壮絶な嫌悪の視線を浴びせられるとは、なんだか悲しくなってくるがねえ。
だが捕まってあげる訳にもいかない。
俺はその場から逆方向に、全力で逃げ出した。
「とりあえず、ここに居れば大丈夫かな」
俺は今、さっき着替えをしたばかりの部屋にいた。
その衣装が入っている、人が入れるレベルの所に逃げ込んだのだ。
騒動は既に臨界まで高まり、もう俺が今更かき回す必要もないだろう。
噂に尾ひれが沢山付き、俺がトンでもない事をした、そういう事にされていた。
はあぁっ、もうどうでもいいと思うねえ。
「ああ、暇だな、、」
「じゃーお話しする?お兄ちゃん」
「おお!かよか?、、???
どこに居るんだ?」
「お兄ちゃんの頭の中だよ!」
「はぁ?どういう事だ?ここに居る訳じゃないのか?」
「うん、そこにはいないよ。
お兄ちゃんを見てるよ」
「だからどっから見てるんだっての」
「観測者って知ってる?」
「ああ?知ってるよ、かよの事だろ?この世界を裏から操る黒幕だろ」
「そうそう、そういう認識でいいや。
この不安定な世界を、破綻させない為に尽力してるの」
「放置しておくとヤバイのか?」
「まあね。
基本、少年漫画のインフレばりに、どんどん設定が後付されて、この世界は収集が付かなくなるから」
「それをお前は、てかお前達か?どうしてるんだ?」
「そうだね、わたしだけじゃない、みんなで毎日会議して、強さの在り方や、スキルの存在意義などを会議してるよ。
もっとゲームとして最も面白くなるように。日々みんなで議論を戦わせて、論戦とかしてるよ」
「ほぉ、だからかよは、何時もこの世界では忙しそうなのか?」
「うん、まあそんな感じだね」
「暇だし、最近のこの世界の近況とか教えてくれ」
「気になるの? お兄ちゃんにはあんまり関係ないように思えるけど」
「まあないわな。
でもあの二人には直接関係しそうだしな。
あいつらのやろうとしてる事に、すこしでも助けになるならな、聞いておきたい、まあそんなところだ」
「ふっふ、そうか。
ちょっと妬いちゃうけどいいよ。そうだね最近は、、、」
かよは、己が生み出した世界を紹介するように、その内容を誇らしく、興奮気味に話してくれた。
俺は妹が楽しくいられる場所を、絶対に守ってやりたいと思った。
過去において、それは前世、七人の最愛の内の一人、女性だった俺の前世の、同性の恋人として、一緒に旧世界を滅ぼさなくてはならなくなった、
そう、あの悲劇を繰り返したくないから、、、
そう思って、思いながらも途中寝そうになりながらも、俺は耳を傾けて聞いていたのだった。




