第5話 雨のち晴れ
今年の梅雨は例年よりはやいのか、最近は雨が降る日が多かった。
そんなある日の放課後。
友人の小次郎と別れ一人で帰っていると、シャッターの閉まった軒先で雨宿りしている牧野先輩を発見。
そのまま通り過ぎようとすると、牧野先輩に摑まってしまった。
「無視しようとしてたでしょ? 鳴沢くんひどいよ」
さしていた傘を閉じ、牧野先輩と一緒に軒先に並んで立つ。
「そんなことありませんよ」
「ほんとにー? 鳴沢くんって私のこと避けようとしてない?」
唇を尖らせて怒っているつもりなのかもしれないが、正直全く怖くない。
それより、もっと重要なことがあるだろうに。
駒場学園指定の白いセーラー服が塗れて肌にぴったりと張り付き、身体のラインを浮かび上がらせている。
牧野先輩は気付いていないのか、気にしていないのか、無防備にもうっすらと透けた下着まで晒している。
「──ああもう。先輩これ着てください」
俺は着ていたブレザーを脱ぐと、先輩の細い身体にそっとかける。
「どうしたの急に? 別に寒くないよ?」
どうやら前者だったらしい。
きょとんとした顔で見当違いなことを言う牧野先輩。
「言いにくいんですけど、先輩透けてますよ」
それで理解したのか、自分の身体を見てボッと頬を上気させる牧野先輩。
羽織ったブレザーをきゅっとかき抱いて、恨めし気な目でこちらを見てくると。
「……えっち」
「なんでだよ!」
「だって見たんでしょ? その……わたしの……」
後半になるにつれ尻すぼみになる言葉。恥ずかしいなら言わなきゃいいのにと思いつつ。
「見てませんよ」
「なんかそれはそれでショックなんだけど」
と意味不明なことを言う牧野先輩。どっちなんだよ。
「やっぱり鳴沢くんも、澪みたいに大きいのが好みだったりするの?」
何でこんな話になってるんだと思いつつ、俺は無難に答えておくことにする。
「別に皆が皆そうじゃないでしょう。俺だって別に気にしませんよ」
「ほんとに? じゃあ、鳴沢くんは私の……どう思う?」
だからなんの話だ。もう牧野先輩の顔は真っ赤になりすぎて、卒倒しそうな様子だった。
俺は後頭部をかきつつ、明後日の方向へ視線を向けながら言った。
「先輩のも、その、普通より大きいと思いますよ」
「やっぱり見たんじゃない! うそつきー!」
牧野先輩はぽかぽかと俺の肩を叩いた後、羽織ったブレザーを大事そうに両手で抱き締めると。
「でも、ありがとうね。“これ”嬉しかったよ」
そう満面の笑みで言ったのだった。
俺は火照った顔を見られないように踵を返すと、「帰りますよ先輩」とぶっきらぼうに言った。
「待ってよー」と追いすがる先輩が俺の傘に入る。
ワンワン喚く牧野先輩との帰り道。そんなに悪い気分でもなかった。
ちょっとしたおまけ話のつもりで書きました。
少しづつ縮んでいく距離。これからどうなるのか。
それでは次回もよろしくおねがいします。