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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
エピローグ それぞれの歩む道
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extra 開幕

 松永自警団から旅立ち、一時間ほど経った頃。遼子は片岡自警団の拠点跡地にたどり着いた。ホワイトコート保管施設の入り口から離れた場所にバイクを置き、遼子は沈黙した街を歩き始めた。


 そびえ立つビル群。汚れた看板。何一つ映し出さない電光掲示板。瓦礫やひび割れなどで荒れたアスファルトの道路。建物の中はおろか、大通りにさえも人の気配はない。


 この街はもはや人間の支配地ではなかった。

 誰もいない。

 静寂に包まれている。


 彼女が目覚めてから二週間が経過したが、今は八月の中旬。蒸し暑い期間の真っただ中で、おまけに日が最も高くなる時間帯。強烈な日差しが空気や人工物の温度を上げていく。動くのも苦痛になるほどの暑さだが、虫は活発に動き回っている。


 セミの合唱を聞きながら、遼子は涼しげな顔で目的地へと向かった。


 遼子がこの場所を訪れるのは、これで三回目。


 一回目は、目覚めたときだった。ホワイトコート保管施設の最深部から上がり、自分が何者かもわからないままさまよった。そのときにはもう、ホワイトコートの攻撃によって片岡自警団は壊滅していたため、異様なほどに静かだった。


 二回目は、松永自警団の一員として奪還作戦に参加したときだった。異様な緊張感の中で偵察を行い、待ち伏せしていたホワイトコートによって派遣部隊は大きな被害を受けた。そのときは、全派遣部隊の撤退を支援するために奮戦した。小笠原直也が亡くなった戦いでもあり、遼子としては苦い記憶になっていた。


 そして三回目。今回は、単身で施設を破壊しに訪れた。

 連合による第二次奪還作戦が行われる前に、片を付けなければならない。それが隼人や美佳を守り、連合を救うことに繋がる。


 また、自らの罪を償うための第一歩にもなる。

 遼子は片岡自警団の団員たちに黙祷を捧げながら、歩き続けた。




 施設の入り口が近くなってきた頃、遼子の後ろで物音がした。

 遼子はすばやく振り向く。


 彼女の視線の先には、一体のホワイトコートが立っていた。その強化生命体は立ち止まり、光の宿っていない目で遼子を見据える。

 両者の距離は十メートルほど。彼女たちの身体能力をもってすれば、一瞬で詰めることのできる間隔だった。


 遼子とホワイトコートはその場から動かず、睨み合う。

 静寂の後、風が吹く。砂埃が舞い上げられ、彼女たちの髪が揺れる。

 そして、両者は同時に地面を蹴り、激突した。


 遼子の新たな戦いが、今、始まった。




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