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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第一章 崩壊した世界
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1-7 温度差

 通路の終わりごろに、四人の男性の姿が見えた。


 その四人組は、黒色の防弾チョッキに深緑色のズボンという、隼人と同じ服装をしている。体格も隼人とほとんど変わらない。年齢は、三十歳前後が三人、二十代後半が一人といったところだ。


 通路から出てすぐのところで、彼らはコンクリートの床に腰を下ろし、何やら話し込んでいるようだった。


 第一層の奥からは夕日が差し込んできている。そのことが、この拠点と外が繋がっているということを実感させる。夕日に照らされているその突きあたりを左に曲がると坂道があり、そこから地上へ行くことができる。


 第一層はまったくと言っていいほど改修がされておらず、自動車や装備の類も置かれてはいない。電灯も本来の役目を果たさず、ただそこにあるだけ。柱や壁がそれなりに修理されていること以外、人の手が加えられている点は見当たらなかった。


 隼人は四人組を視界に収めると同時に舌打ちをした。


 彼らはどうでもいいことを話しながら、声を上げて笑っている。見張りという、警備面では最も危険で重要な役割を任されているのにもかかわらず、この四人組には見張っているという様子はなかった。


 隼人は苛立ちを覚えた。だが、彼はそれを表に出すようなことは決してなく、足音を忍ばせて通路を上っていく。

 四人組は隼人の存在に気づいていないようで、話を続けている。隼人は彼らのすぐそばまで来ると立ち止まり、


「お前ら、そこで何をしているんだ?」


 抑揚のない声で問いかけた。

 その直後、四人組が口を閉じた。話を遮られたことが癪に障り、彼らは顔をしかめてゆっくりと視線を上げて声のした方向に顔を向ける。


「ん? げっ!」


 そして、彼らの表情が一変した。目を見開き、表情を引きつらせる。見張りをサボっていた四人組の目に映し出されたのは、無表情で見下ろしてくる隼人。無表情ではあるのだが、彼らにとっては、隼人の視線が恐ろしく冷たいものに感じた。


 彼らのうちの一人が、乾いた笑いをしながら口を開く。


「よ、よう、隼人。交代に来たのか。ずいぶん早いじゃないか」


 髪を顎のあたりまで伸ばしているその男は、少し食い気味な調子の声を出した。彼は睨み付けるかのように隼人を見ている。どうやら、隼人のことをあまり快くは思っていないようだ。

 隼人はそれ相応の態度をとろうとして、鼻で笑った。


「そうだよ、秀明。悪かったな、邪魔して」


 そう言って、隼人は四人を見渡す。


「あまり音は立てていないだろうな? 光孝」

「あ、あたりまえじゃないかそんなこと」


 隼人は髪の短い二十代後半の男に問いかけた。光孝は隼人に対し、声を震わせて答える。明らかに動揺していた。


「そうか。それならいいんだが、喋っていても、見張りはちゃんとやっていたんだよな? 拓真」

「ちゃんとやっていたさ、なあ! 雄一」


 坊主頭の拓真は、隼人を見ずに、隣に座っている雄一に顔を向けて同意を求めた。どうやら、この男は隼人を恐怖の対象として見ているらしい。


「白コートは一体も来てない。俺たちからの報告は以上だ」

「……なるほどな。一応、見張りはしていたんだな」

「そ、そうだよ」


 短髪の雄一は、隼人の目を見て短く言葉を交わした。この男とは少し距離を感じる程度で、他の三人のように、隼人を疎ましくは思っていないらしい。

 隼人は小さく頷いた後、再び口を開く。


「だが、ここは前線ではないにしろ、防衛圏内は戦場であることに変わりはないんだ。白コートが防衛線を抜けてくることもあるんだ。あまり気を抜くな。見張りだって大事な仕事なんだ。二日前に、北東エリアの片岡自警団が壊滅したってことくらい知っているだろ。南東エリアのここも、いつ危険にさらされるかわからないんだ」


 隼人は少し声を低くして、四人組を注意するかのように言葉を吐き出していった。顔をしかめながらも、四人組は隼人の話を遮るようなことはせず、最後まで耳を傾けていた。そのことだけは、隼人は感心した。


「わかってるさ、それくらい」


 長髪の秀明は、うんざりしたようにそう吐き捨てた。


「わかったなら、ちゃんと位置につけ」


 隼人がそう言うと、短髪の雄一は拍子抜けしたかのような表情を浮かべた。


「え? 交代してくれるんじゃなかったのか?」

「お前ら、あと十分間くらい残ってるだろ。ちゃんと時間通りに役目を果たしていけ。雑談は続けていいから」

「それだけでいいのか? じゃあ、やるよ」


 隼人に穏やかな口調でそう言われ、四人組は少し晴れやかな表情をして立ち上がった。そして、彼らはすぐ近くの壁にもたれかかり、地上への出口の方向を眺め始めた。




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