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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第六章 戦場の黒い花
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6-12 連携

 地上の白コートを一体狙撃した後、美佳と隼人は第一層を走った。三体いた白コートのうち一体を削れたことは大きな収穫だった。

 興奮したように隼人が口を開く。


「やったな! 美佳!」

「うん! でも、ここからが本番だよ!」

「ああ。拳銃持ちの白コートだ。気をつけていくぞ」


 二人はそう言葉を交わした後、中央付近で左右に分かれて柱に隠れた。入り口から見て、隼人が右に、美佳が左に位置している。


 第二層を移動しているときに、ライフル銃を見つけたのは幸運だった。その銃には弾が一発しか残されていなかったため、狙撃の機会は一度しかなかった。

 本調子ではない隼人は、遼子の援護を美佳に託した。

 そして、それは成功した。


 一体を殺し、一体を遼子から引き離せた。残りの白コートは二体。消耗した遼子でも、一体だけであれば倒せるだろう。もう一体は、隼人と美佳で撃破すればいい。

 隼人と美佳は、自分たちを追ってくる白コートが拳銃を手にする瞬間を目撃していた。この第一層で、二人は強敵と戦わなければならない。


 美佳は柱にライフル銃を立て掛けると、右脚のホルダーから拳銃を引き抜いた。両手に持った拳銃を顔の高さまでもっていき、大きく息を吐く。

 隼人も美佳と同じように拳銃を構え、深く呼吸をした。二人は自分の心の奥から湧き出てくる恐怖を抑えつけ、入り口をうかがった。


 白コートはまだ下りてきていない。

 第一層は静寂に包まれ、周囲の空気が張り詰める。


 そして、拳銃持ちの白コートが入り口の坂を駆け下り、姿を現した。


 その直後、隼人は柱に隠れたまま白コートに銃口を向け、すぐに引き金を引いた。それに続いて美佳も発砲する。

 白コートは隼人の銃撃に気付き、回避行動をとった。だが、避けた先で美佳の銃弾が右肩に命中し、白コートはよろめいた。


 しかし、白コートはすぐに体勢を立て直し、左手で拳銃を構えた。美佳に向けて引き金を引くが、彼女はすでに柱へ身を隠していた。

 そこへすぐさま隼人が弾丸を放つ。白コートはそれをギリギリの位置で躱した。隼人はすぐに手を引っ込める。白コートの銃弾が柱に当たり、コンクリートの破片が飛び散った。


 その瞬間、美佳が柱から身を出して発砲した。その弾丸は白コートの左わき腹を捉えた。美佳はすぐに体を隠す。


 大きな動きは必要ない戦いだった。しかし、一つ動作を間違えれば、白コートの前進を許してしまう。敵から身を隠すことが出来なくなれば、確実に撃ち殺される。隼人と美佳は、極度の緊張と興奮で目を見開き、肩で呼吸していた。


 美佳の銃弾が命中した直後、隼人は発砲しようとした。しかし、白コートは隼人に向けて撃った。隼人は攻撃に移れず、白コートは前に進む。

 白コートは美佳の隠れている柱に銃弾を撃ち込み、彼女の動きを封じた。


 隼人は壁側に飛び出し、白コートの後ろからその右脚に一発撃ち込んだ。すぐに手前の柱の陰へ飛び込み、白コートからの銃弾を二発ともやり過ごす。


 そのとき、白コートの背中が美佳のほうに向けられた。彼女はこの好機を逃さず、敵の左脚に向けて引き金を引く。命中したのを確認し、美佳は即座に柱へ身を隠す。その直後、白コートは美佳に向けて発砲するが、標的に当たることはなかった。


 美佳の心拍がより一層激しくなる。隼人との連携は、白コートに拳銃の弾を撃ち尽くさせるのが目的だった。だが、敵の残弾数がわからない。あと何発撃たせればいいのかわからない。この戦闘がいつまで続くのかわからない。


 常に戦線に立ち続けた隼人とは違い、美佳が戦闘に参加するのは二年ぶりのこと。彼女の精神は確実にすり減っていた。


 白コートが美佳に向けて撃った直後、隼人が敵の背中に二発命中させる。白コートは被弾したにもかかわらず、ひるまなかった。すばやく隼人に銃口を向け、彼の体が隠れ切らないうちに引き金を引く。

 放たれた銃弾が隼人の髪を掠る。間一髪だった。隼人の鼓動が急激に高鳴り、彼の全身から汗が噴き出す。


 敵が隼人に向けて二発撃っている最中に、美佳は身を乗り出して白コートの肩に二発の弾丸を命中させた。


 二方向からの絶え間ない銃撃により、白コートは完全に翻弄されていた。拳銃を持った白コートは脅威であるが、隼人と美佳の連携はそれに対抗できるほどのものだった。


 それまでの動きを繰り返すように、白コートは美佳に二発銃弾を放った。美佳はギリギリのところで身を隠し、その銃撃から逃れる。

 そして、そこで白コートの拳銃が弾切れを起こした。白コートの隙をついて隼人が一発撃ち込む。拳銃による攻撃ができなくなった白コートは、隼人に反撃できなかった。


 白コートは拳銃をその場に投げ捨てると、美佳に向かって駆け出した。隼人がもう一発命中させたところで、敵の動きは止まらなかった。

 柱に隠れている美佳の前に、白コートが回り込んでくる。隼人と美佳に十発ほどの銃撃を受けたにもかかわらず、その白コートはヒトを越えた身体能力を保っていた。


 急激に接近され、美佳は目を見開く。

 白コートは左手を握り締め、その拳を美佳に突き出した。


 強烈な破壊力を誇る打撃が美佳に襲い掛かる。しかし、美佳は怖気づいたりしなかった。彼女は身を屈め、跳び込むように前転。白コートの左拳はコンクリートの柱に激突し、その箇所にヒビを入れた。

 美佳はすぐに立ち上がって白コートに体を向け、後ろ方向に走った。銃を向けながら、白コートと距離をとる。


 そして、美佳はあることに気付いた。左脚のホルダーに差し込んでいたシルバーの拳銃が、白コートの足元に落ちている。美佳は自分の拳銃を整備した覚えはある。しかし、父親の拳銃の状態を確かめた記憶はない。迂闊だった。もしあの拳銃に弾が入っていれば、拳銃を落としてしまったことは、敵に武器を与える行為と同じだった。


 体勢を立て直した白コートが直也の拳銃を右手で拾う。その銃口が美佳に向けられる。引き金に指がかけられる。


 終わった。

 美佳はそう思った。


 しかし、白コートの指が途中で止まった。シルバーの拳銃からは弾が発射されず、白コートに隙が生まれた。


 美佳は戸惑う自分を制し、引き金を連続で引いた。両手で構えた拳銃から弾が放たれ、白コートの眉間に命中する。そして、柱から飛び出した隼人が、白コートの額に一発撃ち込み、敵にとどめを刺した。


 頭部に三発の銃弾を受けた白コートは背中から後ろに倒れた。


 第一層での戦闘が幕を閉じた。


 静けさに包まれたその場所で、美佳と隼人は拳銃の構えを解く。美佳は呼吸を整えながら、白コートの死体に歩み寄った。


 彼女はシルバーの拳銃を手に取る。先ほど弾が発射されなかったのは、どうやら弾詰まりを起こしていることが原因のようだった。この拳銃は、奪還作戦での激しい戦闘から還ってきた。それから、美佳はこの拳銃をまったく整備していなかった。


 そのことが、功を奏したようだった。

 まるで、小笠原直也が娘を守ったかのようだった。


 美佳は銀色に輝くその拳銃を見つめながら、小さく笑う。


「ありがとう、お父さん……」


 彼女はそう言って、再び立ち上がった。




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