6-6 泥沼
松永自警団の拠点では、第三層警備隊と白コートの銃撃戦が続いていた。
自警団側にも白コート側にも死傷者は出ていない。三十人の警備隊はバリケードに隠れて弾幕を張り、白コートを寄せ付けないようにしている。五体の白コートは柱に隠れ、断続的に射撃を行っている。
互いが互いを牽制し合い、第三層は膠着状態に陥っていた。
鼓膜が破れそうなほどの銃声が鳴り響き、銃弾を受けた壁や柱は徐々に削り取られていく。そのようななかで、団長は最後列で声を張り上げた。
「一班交代! 二班はリロード!」
団長の指示により、待機していた半数の団員が銃撃を開始する。それからすぐに、今まで撃っていた半数の団員が、バリケードに完全に身を隠した。
弾の装填で隙を作らないよう、団員を二班に分けていた。片方が銃撃を行っている間に、もう片方は弾を詰める。そのようにして、第三層は絶え間なく発砲することができていた。
団長は団員たちを見渡ながら、彼らの懸念を察した。
「弾の心配はするな! あと少しで四歩隊が来る! それまで足止めするだけでいい!」
団長はそう叫び、即座に次の指示を出す。
「二班交代! 一班リロード!」
団員たちはそれに従い、すばやく交代した。そこで一人の団員が異変に気づき、団長に向かって声を上げた。
「白コートの銃撃が止みました!」
「油断するな! 撃ち続けろ!」
確かに白コートからの攻撃は止まっていた。五体とも柱に隠れたまま動きを見せていない。だが、団長は弾幕を張り続けろという指示を出した。
団長の頭には、少し引っかかることがあった。武器持ちの白コートが五体もいれば、強行突破も容易いはず。こっちは、たった三十人の自警団員だ。普通に考えれば、白コートが突撃してきてもおかしくなかった。
それなのに、なぜか白コートは長期の銃撃戦に持ち込んだ。まるで、時間稼ぎをしているかのようだった。
団長は思考を一旦止め、団員の状況を確認した。
「一班交代! 二班リロード!」
先ほどまでと同じように団長が指示を出す。だが、そのとき。白コートが一斉に柱から飛び出し、団員に向かって突撃を始めた。前方に二体、後方に三体という隊列を組み、前の二体は小銃を乱射しながら走っている。
白コートを足止めすべく、団長を含めた三十人全員が銃撃を行う。
「絶対に通すな!」
団長は声を荒げた。白コート五体を倒したいところなのだが、前の二体が壁の役割を果たしているため、後ろの三体に弾が届かない。
白コートとの距離が近づく。前の二体は全身に弾丸を受けているはずなのだが、ひるむ様子も見せない。
団長は焦った。だが、そうしたところで何も変わらない。
バリケードを目前にして、壁役の二体が力尽きて倒れた。だが、無傷に近い残りの三体が瞬土嚢を瞬時に飛び越えた。その三体は空中で発砲を続け、団員たちに銃弾を喰らわせていった。着地した白コートは足を止めることなく、第四層に続く通路を駆け下りていった。
嵐のような一瞬だった。
白コートを二体倒せたが、三人の団員が射殺された。六人が負傷し、団長も左腕に一発被弾した。
団長は痛みに顔を歪めながら、腰につけてあった通信機を手に取った。
「第三層突破された! 三体が第四層に向かっている!」
彼は美佳と英志の通信機に短く連絡を入れた。通信機を元の位置に戻し、団長は被弾した箇所を右手で押さえる。そして、辺りを見渡した。
銃器や弾薬、空の薬莢、土嚢から飛び出た砂が床を覆い尽くし、焦げ臭いニオイが漂っている。壁や柱には無数の銃弾の跡があり、コンクリートの破片が散らばっている。死傷者の体からは血が溢れ出し、無傷の団員でも動揺している者が大勢いた。
「ちくしょう。動ける団員は第四層の援護と負傷者の手当てを! できることをやるんだ!」
団長は力を振り絞り、声を張り上げた。
だが、団員たちはなかなか動き出せない。
そして、団員の一人が悲痛な声を上げた。
「団長!」
「なんだ!?」
声を上げた団員は、第二層側の入り口を指差している。彼の目は見開き、全身は震えていた。団長は眉をひそめて、その方向に目をやった。
視線の先には、数体の白い影があった。
「ははっ、最高だな」
その光景に、団長は笑うしかなかった。




