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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第一章 崩壊した世界
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1-6 上層へ

 医務室の扉を閉めた隼人は、扉の反対側でペンの当たる音を聞いて鼻で笑った。あの住山という医者と軽口を叩き合ったりするのも、彼らなりのコミュニケーションの形。見張りに行く前には医務室へ行き、気分を和ませる。それは、隼人がこの自警団の団員として過ごし始めた頃から、続いてきたことだった。


 もちろん、医務室を訪ねない日もあった。今日は医務室へ行かないつもりだったが、副団長と美佳の件もあって、高ぶった精神を静める目的で、住山と短い会話を楽しんだ。

 今は恐怖心も闘争欲もない。落ち着いた気分で居られた。


 それから、隼人は食堂へと歩き、周りの様子を観察した。団長と副団長の姿はない。おそらく団長室に居るのだろう。ほかの団員たちは食事をとったり会話を楽しんだりしている。肝心の美佳は、調理場で忙しそうに動いていた。


(あの様子だと、大丈夫そうだな)

 隼人は安堵のため息をつき、そのまま食堂を通り抜けて上の階へと上がっていった。美佳は隼人に気づいていたが、彼についていこうとはせず、調理場での仕事に専念した。


 隼人は食堂のある第五層から第四層へ上がった。

 両端の個室スペースからは男性の話し声がちらほらと聞こえるが、隼人は気にも留めず歩き続ける。木材で仕切られた個室群を抜けると、壁側には女性用トイレと男性用トイレが並んで存在している。改修前のものをそのまま使用しているようだ。隼人はこれも無視し、上の層へ続く通路へと足を踏み入れた。


 通路は曲がり道の片道一車線で、蛍光灯がまばらに点いている。

 隼人はその通路を上りながら、遠い目をして口を開いた。


二歩隊にふたいね」

 そう呟き、隼人は鼻で笑う。

「懐かしい響きだが、今の俺には関係ない」

 彼はそう言って口を閉じ、歩みを進めた。


 第四層から第三層への通路は長い。第五層と第四層の間のものよりも倍以上はある。隼人はその通路を上りきり、第三層へ到着した。


 そこは、下の層のように大規模な改修はされておらず、駐車場の姿をそのまま残していた。第四層からの通路を出た場所では、数か所に土嚢が積まれており、第四層と同じように銃や弾丸も置かれている。また、十人ほどの武装した男性がその近くに待機していた。


 第三層のほとんどの団員はおしゃべりをしていたが、彼らは隼人を見た直後に口を閉ざし、表情を強張らせた。


 恐怖と尊敬が入り混じったような視線を向けられたまま、隼人は進んでいく。会話には参加していなかった団員は、いたって普通の眼差しを向け、軽快に挨拶をしてきた。そのような団員に対しては、隼人は微笑みながら挨拶を返していった。


 面積は下の二つの層と変わらないのだが、ほとんど改修されていないので、第三層は広く感じた。端から端まで歩いたとき、隼人はかなりの距離を移動したような気分になった。


 第三層から第二層への通路は、第五層と第四層の間のものとほぼ同じ長さだった。隼人は無言でこれを上りきる。


 第二層はこれまでの層とは様子が違っていた。軽装甲機動車が五台止まっており、それ以外にも数台の自家用普通自動車や大型バイク、中型バイクがその場に留まっている。この層は地下駐車場としての役割を残しているようだ。


 また、第三層や第四層と同じように、土嚢や武器も用意されている。ここにも男性が十人ほど控えており、会話に花を咲かせていた。

 隼人が来ると、彼らは第三層の団員と同じような反応をし、隼人もまた同じような態度をとった。


 第二層を抜け、第一層への通路を上っていく。

 隼人が通路の中ほどについた頃、その先から話し声が耳に入ってきた。男性四人の楽しげな声を聞くと、隼人はあきれたようにため息をついた。


「ったく、どいつもこいつも緊張感のない連中だな。世界崩壊の日から今まで生きてこられたのが嘘みたいだ……いや、拠点が比較的安全になったから、気が抜けているだけか。だが、二日前のこともあるのに、これは少しマズいんじゃないか?」

 隼人は再び息を吐き、歩みを進めた。




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