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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第五章 血塗られた記憶
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5-7 二歩隊結成

 告別式から四日後の十二月十日。俺以外の連合創設メンバーが死んだことにより、幹部は連合の実権を握った。

 俺はそのとき、前線拡大作戦は警備側のリーダーを殺すための作戦だったのではないかと思うようになった。幹部が俺の恩人たちを殺した。俺は奴らを恨んだ。


 それから、幹部は連合の改革を行った。

 まず、連合を「中央」と「周辺自警団」に分けた。さらに、前線を防衛線と改称し、連合の領土を防衛圏と安全圏に区別した。


 周辺自警団は防衛圏の警備を担当することになった。基本的に防衛圏の中継拠点に常駐部隊として配置されたが、領土が狭いうちは防衛線の警備も行っていた。前線警備隊だった自警団はそのまま防衛線に残り、その他の自警団は中継拠点に入った。


 中央は安全圏内にいた。安全圏では農業と工業が主に行われた。また、歩行隊と輸送隊と防衛隊が作られた。歩行隊は移動する戦力として輸送の護衛と領土外の攻略を、輸送隊は物資の輸送を、防衛隊は安全圏の警護を担当した。


 幹部は歩行隊による領土拡大作戦を実行に移そうとしていた。

 だが、俺は創設メンバー最後の生き残りとして、偵察の重要性を説いた。そして、比較的装備の充実した攻撃部隊と、軽装の偵察部隊を編成するべきだと主張した。


 唯一の生還者である俺の意見に反発する奴はいなかった。

 そうして、第一部隊と第二部隊が誕生した。


 第一部隊には歩行隊と輸送隊と防衛隊が揃っていた。第二部隊にも三つの部隊が名前だけあった。だが、実質的には歩行隊しか存在しなかった。

 第二部隊の権限は俺が持つことになった。


 偵察部隊に適した人材を探すため、俺は領地内を一通り巡回した。

 死にたがりのくせに死ぬ勇気のない臆病者。肉親がいない。二十歳未満。身軽で拳銃の扱いに長けた者。そういった人材を探した。


 優秀な団員は多く居たが、成人済みが多かった。年上すぎると俺の言うことを聞かない可能性があるため、スカウトしなかった。美佳も部隊には入れたかったが、父親がいたため断念した。

 隊員集めには一週間ほどかかった。


 そのなかで最初に見つけたのは、高山楓という少女だった。俺と同じ十五歳で、切れ長の目が特徴的な美人だった。楓は平均的な身長で、体の線は細かった。貧乳で尻も出ていなかった。だが、筋肉はそれなりにあり、戦闘技術は申し分なかった。髪は少し赤っぽいショートカットだった。俺は楓を第二歩行隊の副隊長として迎えることにした。


 俺と楓を含めて、初期の二歩隊には十人集まった。俺と楓以外は十六から十八歳の男女だった。一番年下の俺たちが隊長と副隊長を務めたが、隊員は俺に従ってくれた。


 スカウトする前の楓は目が虚ろだった。だが、二歩隊の副長になってからは常時厳しい目をするようになった。彼女が言うには、生きる目標ができたらしい。


 二歩隊が結成された頃から、中央第一部隊では訓練が始まっていた。自警団が軍隊化しつつあることを感じながら、訓練をするのは合理的だと思った。だから、二歩隊でも独自に訓練を行うことにした。他の部隊とは比べものにならないほど厳しい訓練だったが、隊員は弱音を吐くことなくメニューをこなした。

 初めから選抜部隊だった二歩隊だが、ハードな訓練によって正真正銘の精鋭と化した。また、生還することを第一目的とする臆病者の精神も忘れていなかった。


 やがて、二歩隊は初陣を迎えることになった。

 その日は年明けからあまり経っていない頃だった。その最初の偵察は南西方面だった。俺たちは慎重に進み、できる限りの情報を攻撃部隊に送った。白コートとの戦闘になることもあったが、単体の白コートなど二歩隊の敵ではなかった。


 偵察途中、五体ほどの白コートを発見した。さすがに二歩隊だけでは対処できないので、後方の一歩隊に攻撃要請を送った。俺たちは白コートに気付かれないよう細心の注意を払いながら後退した。


 一歩隊と二歩隊が合流し、協力して白コートを一体ずつ確実に殺していった。

 その日の犠牲は一歩隊では数人出たが、二歩隊ではゼロだった。偵察部隊の導入は成功だった。そして、無事に領土を拡大することができた。


 それから、二歩隊は毎日のように偵察へ向かった。白コートと遭遇することのない日が大半を占めていた。しかし、いつ敵が現れるかわからない状況では、隊員たちの精神がすり減っていく一方だった。


 そこで、安全圏に泊まる日は、避妊具着用を条件に隊員同士での性行為を許可した。そうでもしないと部下の頭がおかしくなると思った。あいつらは最初こそ戸惑っていたが、すぐにやりたい放題ヤるようになった。


 だが、俺と楓は性行為に参加しなかった。俺は春見さんが忘れられなくて、他の女を抱けなかった。高頻度で自慰をして、過去を思い出しながら泣いていた。楓はある理由で体を許さなかった。楓もまた、自分を慰めてばかりだったらしい。


 そして、幹部にこき使われながら、二歩隊は慎重に偵察を行い、防衛圏と安全圏の拡大に貢献した。

 だが、二歩隊結成から三か月ほど経った頃、幹部が調子に乗り始めた。幹部は罰則をちらつかせ、偵察の速度を強引に上げさせた。その結果、一歩隊の犠牲者は増え、ついに二歩隊でも死者が出るようになった。


 兄弟のようだった部下が次々と死に、俺は激怒して幹部と衝突した。だが、その時の俺は感情的でまともな意見は言えなかった。


 そんな俺に幹部は、「安全圏が広がり、農業と工業が充実。生活に必要な物資と戦闘用具の質と量が向上した。連合全体のためには、一刻も早く安全圏を拡げるべき。多少の犠牲は仕方ない」と言った。

 俺は自分たちが軍隊ではなく自警団であることしか言えなかった。結局、幹部の方針を曲げる事は出来なかった。


 二歩隊の欠員の補充は、第一歩行隊の中から俺が直接選ぶようになった。

 それから、出撃回数が増加し、死者や戦闘不能者が続出した。偵察要員を増やすしかなかった。部下には交代で休みを取らせてあげたかった。


 二歩隊の増員については、幹部はあっさりと許可を出した。そして、隊員は三か月で二十人ほどに増えた。その間、新隊員が死ぬことはもちろんのこと、歴戦の部下も死んでいった。二歩隊で死んだ奴らのほとんどは、白コートを道連れにした英雄だった。


 何度も何度も地獄へ赴き、攻撃部隊の一歩隊に情報を渡して白コートを殺していくうちに、安全圏と防衛圏はさらに拡がっていった。

 連合外自警団も順調に連合へ加入させていき、連合は大きくなっていった。


 そして、二歩隊結成から約八か月が経った七月三日、あの男と出会った。

 そのときに初期メンバーで残っていたのは、俺と楓を含めた五人だった。




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