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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第三章 奪還作戦
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3-20 分散

 隼人は副団長と協力して光孝の死体を二号車の後部座席に乗せた。続いて、英志と宏和が勇樹の遺体を光孝の隣に寝かせた。


 英志は顔を歪めていた。勇樹は英志と同い年で見張りも同じ組だった。最も親しい仲間が帰らぬ人となってしまったのだ。隼人は英志の気持ちを察しつつ、険しい表情を保った。


 副団長は背負っていた通信機器を二号車の荷物置き場に置くと、隼人・英志・宏和を見渡して口を開いた。


「これで、あとはクロちゃんを待つだけだな」


 彼はそう言って周囲のビルを見上げた。数秒待ってもクロが現れる気配はない。少しでも生還者を多くするため、撤退できる者は戦場から離脱したほうがいい。一人を待つために全員がここに居る必要もない。


「英志、宏和。お前らは先に……」


 副団長が順次撤退の指示を出そうとした。

 その時だった。


「クソッ! 内側五十メートル! 白コート一体!」


 隼人が白コートの出現に気づいた。行動可能な他の三人も瞬時に反応する。隼人の言う方向に顔を向けると、ここから五十メートル離れた場所に一体の白コートが立っていた。

 四人は一斉に拳銃を構える。

 だが、ここからでは射程範囲外だ。引き金を引いたところで無駄弾を撃つだけ。副団長は銃口を白コートに向けたまま声を上げる。


「タイミング悪いな! 英志! 宏和! お前らは一号車で先に帰ってろ!」

「でも!」


 英志が副団長の命令を拒否しようとしたところで、白コートが隼人たちに向かって駆け出した。隼人は無言で銃撃を開始し、白コートに回避行動をとらせる。


「いいから行け!」


 副団長はそう怒鳴り、白コートへ発砲を始める。

 このまま白コートに攻撃されれば、せっかく救出した団員たちが死んでしまう。それに、行動可能な四人でさえも命の安全は保障できない。

 英志は歯を食いしばり、うなだれるように頷いた。


「はい……」


 そう言って英志は口を閉ざした。宏和は彼の肩に優しく手を当て、今やるべきことを無言で示す。

 そして、英志は顔を上げ、宏和とともに一号車へ乗り込んだ。ほぼ無傷の英志が運転席に乗り、右肩を負傷している宏和は助手席へ。


 後部座席から負傷者たちのうめき声が聞こえてくる。それによって英志は焦るが、自分を落ち着かせて軽装甲機動車のエンジンを始動させた。

 英志は車をバックさせながら方向転換を行った。フロントガラスの先に白コートを足止めしている隼人と副団長の姿が見えた。


「後は、任せました」


 英志は心苦しそうにそう呟き、百八十度の方向転換を終える。隼人、クロ、副団長を残し、彼はアクセルを全力で踏んだ。負傷した団員を拠点に送り届けるため、英志は攻略目標地域から離脱した。




 一号車が撤退を始めた頃には、白コートと隼人との距離は半分以上縮まっていた。回避の隙をつき、隼人は白コートに三発の銃弾を命中させている。だが、それはすべてコートに当たっていたため、致命傷にはならなかった。


 突如、白コートが副団長に向かって直進を開始した。隼人は胸に一発撃ち込むが、白コートはひるんだ様子も見せずに走り続けた。


「直也気をつけろ!」


 隼人がそう警告した直後には、白コートが副団長の間近に迫っていた。白コートは右拳を振り下ろすが、副団長は左に体を移動させてそれを躱した。

 白コートは勢いを殺さず、副団長の横を通り抜けた。そして、急激な方向転換をして副団長の背中を蹴り飛ばす。


 副団長の体が荒れたアスファルトの上を転がる。だが、蹴りを繰り出した白コートには大きな隙が生まれていた。

 隼人はこの機を逃さず、白コートの頭部に向けて引き金を引く。白コートは銃弾を回避しようと頭を動かすが、体勢が安定していないため避けきれなかった。


 隼人の放った弾は白コートの右頬を撃ち抜いた。致命傷には至らないが、これで注意を隼人に向けさせることができるはずだ。

 しかし、そうはならなかった。白コートは顔から血を噴きだしながら、立ち上がろうとしていた副団長に殴りかかった。副団長は再び地面を転がる。


「なんなんだ? あの白コートは」


 隼人は白コートの行動に困惑しつつも、敵の背中に銃弾を命中させた。それでも、白コートは隼人を無視して副団長に追い打ちをかけた。

 白コートは副団長の髪を鷲掴みにすると、未調査領域に向けて駆け出した。副団長の体が引きずられ、徐々にダメージを蓄積していく。


「直也!」


 隼人は白コートを追いかけようとした。敵の速度はそれほどでもなく、隼人が全力で走れば追いつける程度だった。

 しかし、それはできなかった。近くのビルから、一体の白コートが隼人に向かって飛び降りてきたのだ。別の個体が勇樹を殺したときと同じように、それは隼人の首を狙って拳を振り下ろした。


 だが、見えている攻撃を受ける隼人ではない。拳が振り下ろされる寸前、彼は身を屈めて横に低く跳ぶことでそれを回避した。地面で前方に一回転した後、すぐに立ち上がって白コートに銃口を向ける。

 それと同時に、着地した白コートが体勢を立て直して隼人と向き合った。


「クソが……」


 隼人はそう吐き捨て、目の前の白コートを排除しにかかった。





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