表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第三章 奪還作戦
44/85

3-13 進行

「松永自警団第一列、進め」


 二歩隊隊長からの命令を受け、副団長である小笠原直也は指示を出した。前列の宏和、光孝、英志、拓真の四人は拳銃を構えて歩み始める。彼らは等間隔に並んでゆっくりと進んでいく。

 前列が五メートルほど進んだところで、副団長は次の命令を出す。


「第二列、進行開始」


 その言葉の直後、中列の雄一、和希、直也、勇樹の四人が前進を開始した。彼らも前列と同じように、横に広がって歩んでいる。

 隼人は中列が自分たちから五メートル離れたのを確認すると、一呼吸置いた。そうやって覚悟を決めた隼人は、秀明とクロへ声をかけた。


「第三列、行くぞ」


 そして、後列の秀明、隼人、クロの三人は歩き始めた。銃を両手で構え、周囲を見渡しながら進んでいく。


 白コートがどこに潜んでいるのかわからない。その恐怖が隼人の脳内を支配していく。そのうえ、炎天下のなか歩いているため、体のいたるところから汗が滲み出してくる。雲はそれなりに浮かんでいるが、天気としては晴れ。のどがすぐに乾く。恐怖と暑さによって心身を侵されていくが、隼人は冷静さを保った。


 偵察部隊がやることは、道を進むだけではない。その周辺すべてを確認していかなければならない。裏路地や建物の中にも入り、白コートの有無を確かめる。非常に手間と時間のかかる行動だが、犠牲を出さないためには重要なことだった。


 最初のビルを確かめて道路に戻ったとき、秀明が隼人にこう尋ねた。


「なあ、車には誰も残らなくていいのか?」


 すると、隼人はあきれたように眉をひそめた。


「貴重な戦力を分断するつもりか? そんなことをしたら、白コートが出てきたら偵察隊も守備隊も全滅だ。車がなくても、生きてさえいれば拠点に帰れる」


 隼人はそう言って鼻で笑う。


「まあ、あと五人いれば守備隊を残しても良かったんだがな」

「あっそ」


 隼人の言葉に、秀明はうんざりしたような表情を浮かべて会話を断ち切った。

 その直後、隼人は団員の配置を見て不安を覚えた。

 彼は副団長に自分の意見を伝えに行こうと思った。しかし、それよりも先に自分の口が動いてしまう。


「気をつけろ。お前ら堂々と道の真ん中を行きすぎだ。もう少し身を隠しながら、慎重に進め」


 隼人がそう言うと、団員たちは隼人に顔を向けた。そして、それぞれ違った行動をとった。宏和、英志、和希、勇樹の四人は隼人の言葉の意味をくみ取り、道の両端に寄った。だが、秀明、光孝、雄一、拓真の四人は顔をしかめるだけだった。

 副団長は隼人の言うことを理解し、その通りにするべきだと考えた。しかし、今の隼人に命令する権限など無い。そのため、副団長は隼人の言葉を少し変えたうえで、団員に指示を出すことにした。


「前列、中列は二人ずつ道の両端に寄れ。白コートが現れたときに、奴らの攻撃から身を守りやすくするんだ。周囲をよく確認しながら進め」


 隼人の発言後に動きを見せなかった団員も、副団長の命令には従った。団員たちは道の両端に分かれ、建物に沿うように歩き始める。

 団員たちの行動を確認した後、副団長は隼人に顔を向けて小さく頷いた。それは、「これでいいか?」という問いと等しい行為だった。隼人はそれに親指を立てて応えた。


 それから、松永自警団の派遣部隊は順調に偵察を進めていった。作戦開始から一時間が経ち、百五十メートル地点まで確認が終了した。だが、白コートは一体も現れなかった。それは隼人たちの部隊だけでなく、他の部隊からも白コートの目撃報告は一切なかった。

 二百メートル地点を目前にしても、それは変わらなかった。

 隼人はこの状況を不審に思った。


(何かがおかしい……二歩隊が撤退を繰り返した場所にしては静かすぎる。白コートがうじゃうじゃいるって話じゃなかったのか? ……まさか!?)


 頭の中で情報が繋がり、隼人は目を見開いた。彼の考えに決定的な根拠はないが、充分に起こりうることでもある。

 隼人はそれを伝えるため、足音を殺して副団長のもとへ向かった。


「松永自警団、二百メートル地点まで偵察完了。白コートの発見数ゼロ」


 副団長が二歩隊への報告を終えた直後、隼人は彼の肩を掴んだ。


「おい副団長、今すぐ撤退だ」


 切羽詰った声で隼人がそう言うと、副団長は隼人に振り向いた。副団長は怪訝そうな表情を浮かべて尋ねる。


「どうした? まだ白コートには遭遇してないだろ」

「白コートは中央部に密集して待ち伏せしている。やつらにはもう、この全方位からの特攻がバレているんだ。このままでは白コートの集団との戦いになる。そうなれば勝ち目はない。やつらに見つかる前に逃げよう」


 隼人が少し早口でそう言い終えると、副団長は両目を固く閉じて考え始めた。数秒後、副団長は首を横に振って目を開け、隼人の双眸を見据えた。


「お前の勘は正しいかもしれない。だが、俺たちだけ撤退するわけにはいかない」

「なら、今すぐ蒼司のところに連絡を入れて全員の進行を止めさせてくれ」

「それは難しい。いくら隼人が二歩隊の初代隊長とはいえ、今は周辺自警団の一員にすぎない。それに、隼人は死んだことになってるんだろ? 隼人だって名乗っても、相原隊長は信じない」

「俺が言うんじゃない。副団長が言うんだ」

「白コートの姿が見えないのにか?」

「見えたことにしよう。どうせ嘘をついたところで分かりはしない。これ以上進んだとしても、攻撃部隊がいないのなら死人が出るだけだ」


 副団長は隼人の申し出を却下しようとした。だが、それは立場を考えてのことだった。本当のところは、元二歩隊隊長の隼人の言うことに従いたい。

 副団長は再び目を閉じた。優先すべきは中央の命令か、それとも団員の命か。それを、この作戦の意義と照らし合わせながら考える。答えはすぐに出た。

 彼は目を開け、隼人に告げる。


「わかった。だが、嘘の報告をしたことがわかったら、物資の支援を止められるかもしれないぞ」


 副団長の言葉を受けて、隼人は険しい表情をしながらも口元をわずかに上げた。


「今死ぬよりはマシだ。特攻と変わらないこの作戦なんて、もともと意味がないからな」


 これで、副団長の決意は固まった。もうすでに二百メートル地点までの状況は確認できたのだ。充分だろう。これより先の三百メートルは、攻撃部隊が編成されたときに調べればよい。嘘の報告をしたとしても、何の問題もない。

 副団長は団員の命を優先することを決め、隼人に頷いた。


「そうだな。よし、それでは、これから二歩隊に連絡を……」


 二歩隊に白コート発見の虚偽報告をしようと、副団長は通信機器を操作し始めた。

 だが、そのとき。


「ああ! もうやってらんないっすよ!」


 辺りの静けさを吹き飛ばすかのように光孝が叫び声を上げた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ