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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第三章 奪還作戦
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3-8 壮行会

 食堂は賑やかだった。多くの団員が机の周りに集まって談笑している。女性の団員や非番の警備係たちが、派遣部隊の団員を取り囲むようにしていた。

 隼人とクロが団長室から出て数歩進んだとき、美佳と真由美が彼らに気付いた。


「二人とも遅いよー」

「せっかくの料理が冷めてしまいますよー」


 美佳と真由美は手を大きく振ってくる。彼女たちは他の団員と距離をとっており、そのうえ食事に口をつけていないようだった。


 彼女たちは隼人とクロを待っていたようだ。自分たちを待っていてくれたのは嬉しいが、同時に申し訳ないと二人は思った。

 隼人とクロは彼女たちのテーブルに駆け寄った。


「悪かった。少し話が長引いてな」

「ごめん」


 二人が軽く頭を下げると、美佳は「別にいいよ」と笑った。そして、彼女は団長室のほうに目を向ける。


「ところで、お父さんと松永さんは?」

「後で来るってさ」

「そう」


 隼人の言葉に、美佳は少し落胆したような様子を見せた。彼女としては、団長と副団長にも壮行会に早く参加してもらいたかった。しかし、用事があるので遅れるというのならば仕方ない。美佳は気分を切り替えて明るい表情を浮かべた。


「まあいいや。それより見てよ。今日の料理、すごいと思わない?」


 彼女がそう言うので隼人はテーブルに視線を移した。そこに並べられている料理は確かに豪勢だった。しかし、隼人は浮かない顔をした。


(出撃前だから食欲ないが、食べないと美佳に悪いな)


 彼はそう思って、大げさに声を上げる。


「おお! チキンステーキに親子丼、夏野菜カレーにトマトと桃と梨まで付いてるだと!?」

「すごい、おいしそう」


 隼人に続き、クロも期待の声を出した。ただ、クロは隼人と違い、演技をしていなかった。彼女はよだれを垂らし、慌てて吸い込んでいる。


「どうしたんだよ、これ?」


 隼人が美佳に顔を向けてそう尋ねると、美佳と真由美は揃って胸を張った。


「昨日、作戦に参加するからって、四輸隊の人たちが食料をたくさんくれたんだ。すごいでしょ」

「気合い入れて作りました」


 彼女たちは得意げに言った。そんな二人に対し、隼人は感心したような笑みを浮かべてみせた。


「こんなの、中央にいてもなかなか食えないぞ」


 彼がそう言ったそばで、クロはすでに料理を食べ始めていた。取り皿に夏野菜カレーを山のように盛り付け、ものすごい勢いで口にかき込んでいる。


「おい! クロ! いただきますもせずに食ってんじゃねえよ!」


 隼人はクロの抜け駆けに気づき、彼女の首根っこを掴んだ。クロは慌てて皿をテーブルに置き、口の中のものを呑み込む。そして、隼人に向かって両手を合わせた。


「いただきます! はい! した!」


 早く食わせろと言わんばかりにクロは隼人を睨み付ける。そんな彼女の必死な様子に、隼人は怒る気も失せてしまった。

 隼人がクロを解放すると、彼女は皿を手に取って一心不乱に食べ始めた。隼人は食欲を感じていなかったが、クロを見ていると食欲が湧いてきた。


「ちっ。まあいい。じゃあ、俺もいただきます」


 彼はため息をつきながらそう言って、緩やかなペースで食事を進めていった。



 隼人が食事を始めてから十分ほど経過した頃、団長と副団長が食堂に姿を現した。二人は美佳や隼人たちのいるテーブルに来ると、料理を見渡し感嘆の声を上げた。


「おー、これは豪華だな」

「美佳には頭が上がんねえな、これは」


 副団長にそう言われて、美佳は腰に両手を当ててあきれたようにため息をついた。


「わたしだけで作ってるわけじゃないから、調理係みんなで作ったの。あと、あなたたちの分はないから」

「うそ!?」


 美佳の言葉に、団長と副団長は絶望したような表情を浮かべた。二人の顔の変わりようが可笑しくて、美佳は肩を揺らしながら短く笑った。


「冗談だよ。どうぞ、好きなだけ食べて」


 彼女がそう言った直後、団長と副団長は表情を一気に明るくした。


「よし! そういうことならとことん食うぞ!」

「おう!」


 彼らは意気込んで取り皿を掴み、目の前の料理にありつこうとした。しかし、美佳は瞬時に彼らの後ろへ回り込み、団長と副団長の頭へ同時に拳を振り下ろした。


「いただきますしなさい!」


 美佳の打撃が脳天に軽く当たり、団長と副団長はわずかによろめく。彼らはよろよろと背筋を伸ばすと、意気消沈したような顔で両手を合わせた。


「い、いただきます……」

「よろしい」


 美佳が満足げな様子で許可を出すと、団長と副団長は慎ましやかに食事を始めた。



 その後、壮行会は賑やかに行われた。団員たちは出撃する者それぞれへ激励の言葉を送り、派遣部隊の人間はそれに笑顔で応えている。そんな様子が各テーブルで見られた。もちろん、隼人とクロ、副団長の三人のもとにも多くの団員たちがやってきて、彼らの活躍と帰還を望む気持ちを示した。


 そして、壮行会は十時に終了し、作戦参加者は装備を整えるためにそれぞれの部屋へ向かった。美佳たち調理係や清掃係は後片付けに専念した。





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