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戦場の黒い花  作者: 武池 柾斗
第二章 クロと自警団
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2-6 入団

 団長とクロが顔を合わせた後、隼人とクロは団長とともに第四層へ向かった。隼人は副団長にもクロの紹介をし、第五層へと下りた。そして、隼人、クロ、美佳、団長、副団長の五人で今後のことを話し合った後、団長の指示で食堂に団員が集められた。


 第四層以上の警備に二十人程度残しているが、それ以外の団員は全て食堂にいる。そのため、クロは約八十人もの団員と向かい合うことになった。


 クロの両隣には団長と副団長が立っている。団長と副団長は顔を引き締めているが、クロは相変わらず気の抜けたような表情をしていた。


 隼人と美佳は少し離れたところで、団員たちの背中を眺めていた。


 第五層の団員が静かになったことを確認すると、副団長は口を開いた。


「えーと、みんなも聞いてるとは思うけど紹介するぞ。今日からこの自警団の一員になるクロちゃんだ」


 副団長はそう言ってクロに視線を向けた。

 クロは副団長と目を合わせると、打ち合わせの内容を思い出してほんの少しまぶたを上げた。そして団員のほうへ向き直り、


「ク、クロです。みなさん、よろしく、おねがい、します」


 その場にいる全員に聞える程度の声で自己紹介をして頭を下げた。


「クロちゃんはここに来る途中で記憶喪失になってしまったみたいだから、クロちゃんにはあまり無理をさせないで欲しい。当分は、生活面は美佳ちゃんが、警備面は隼人が面倒を見ることになっている。みんな、クロちゃんと仲良くしてあげて」


 団長がそう言うと、団員は「はい!」と声を上げた。


「紹介は以上、解散」


 副団長の号令で団員は一斉に動き出した。警備の仕事がある者は第三層以上へ、調理係の当番は調理場へ、特に用事のない者はそれぞれの部屋へと向かっていった。


 団員は誰一人としてクロに話しかけずに食堂を離れた。その光景を見て、安心したように口元を上げた。


「ちゃんと気を使ってくれたみたいだな。転校生が来たときみたいにキャーキャー来ると思ってたけど」

「そのあたりはお父さんと松永さんがしっかりとやってくれてるからね。隼人さんが来たときも、みんな少しずつ近づいて来たでしょ」


 左隣に立っている美佳が誇らしげに笑みを浮かべた。


「そういえばそうだったな。あのときは本当に助かった」

「そうでしょー。でも、ここに逃げてきたときの隼人さんは近寄りにくい雰囲気だったけどね」

「あの二歩隊の隊長が血まみれで転がり込んで来たら、そりゃ誰だってビビるだろ」

「はは、それもそうだね」


 美佳は控えめに笑った。その後、彼女は思い出したように口を開けた。


「あ、そうだ。クロちゃんにここでの暮らし方を教えなきゃ」

「そうだな。俺も、あいつに装備の手入れの仕方とかを教えないと」


 団員の行動に感心している場合ではない。隼人と美佳には、入団したばかりのクロにこの施設での生活の仕方を教えるという役割がある。

 二人は会話を切り上げてクロのもとへ歩き始めた。


 団長と副団長は団長室に入ったようで、食堂にはクロが一人取り残されていた。彼女は天井を眺めながら立ちつくしている。何を考えているのかは隼人にはわからなかった。案外、彼女は何も考えていないのかもしれない。

 隼人と美佳はクロのすぐそばで歩みを止めた。


「クロちゃん」

「ん? なに?」


 美佳が呼びかけると、クロは視線を下げて美佳と目を合わせた。


「改めてあいさつするね」


 美佳はにこやかに笑って続ける。


「クロちゃんの生活面指導を担当する、小笠原美佳です。よろしくお願いします」

「クロの警備面指導を担当する、中川隼人だ。よろしく」


 美佳が上半身を前に倒して丁寧にお辞儀をした後、隼人も小さく礼をした。二人に頭を下げられ、クロは不思議そうに首をかしげる。


「ん? 二人とも、どうした、の?」

「まあ、なんだ。一応これから、クロの世話をするわけだから、その確認みたいなもんだよ」


 頭を上げた隼人はクロから目を逸らし、右の人差し指で頭をかきながらクロの問いに答えた。隼人としては真面目に挨拶したつもりなのだが、こうも純粋に意味の分からない行動をしたと思われると非常に恥ずかしい。

 だが、クロは隼人の言葉で二人の行動の意味が分かったようだ。


「なるほど。うん、わかった。よろしく、おねがい、します」


 クロは団員の前で自己紹介をした時とおなじように頭を小さく下げた。彼女が頭を上げると、美佳が明るく笑いかけた。


「よろしくねー。というわけで、さっそくだけど、わたしの部屋に来てくれるかな」

「うん、いいよ」

「俺は必要か?」

「隼人さんは来ちゃだめ」

「はいはい。じゃ、俺は自分の部屋に戻るから」


 隼人がそう言って第四層に繋がる通路へ歩こうとしたとき、美佳が彼の右肩を掴んで動きを止めた。


「それもだめ。わたしたちが出てくるまで、ここで待ってて」

「まじかよ」


 隼人は美佳に振り向いて顔を歪めた。しかし、美佳の威圧するような笑みに恐れおののいた隼人はため息をつき、彼女に従うことにした。


 美佳は隼人から離れ、クロを連れて奥の生活スペースへと歩いていく。足首まで伸びたクロの黒髪が揺れているのを眺めながら、隼人は再度息を吐く。隼人は彼女たちの後ろ姿を見送ってから食堂の椅子に腰を下ろし、美佳とクロが返ってくるのを静かに待った。




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