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1戦目 幕開け

1939年9月1日 ポーランド ドイツ国境付近

悲劇とは突然に訪れるものである。同胞の死、仲間の裏切り…世界恐慌もそうだった。しかし、今度は悲劇ではなく、恐怖劇と言った方が正しいのかもしれない。

日の出がポーランドを照らす頃、空に陽の光を反射する「何か」があった。それも無数にだ。ポーランドの人々の中にはこれを星か何かと勘違いした人も多かったことだろう。しかし、その勘違いは一瞬にして崩れ去る。

空を割くエンジンの轟音と共に、その何かはポーランドの村々の上空を飛び去った。誰かが指をさして叫んんだ。

「あれはドイツ軍の戦闘機だ!!」

光照らす轟音の主はドイツ空軍爆撃機『Ju 87 シトゥーカ急降下爆撃機』と『ハインケル He 111双発爆撃機』そしてそれらを護衛する戦闘機の大群だった。ポーランドへの投入数は当時のドイツ空軍機3000機の半数を超えると言われている。これからのすべての悲劇…世界大戦の始まりを告げる轟音だったことは、これを聞いた皆が思ったはずだ。鉄十字(ハーケンクロイツ)の描かれた爆撃機はポーランドの都市『ヴェルニ』へと真っ直ぐに進んでいった。

そして、朝4時40分。遂に時が来た。


A.M4:40 ポーランド市街地 ヴェルニ

夜明けから鳴り響く航空機の轟音。街の人々は何事かと目をこすりながら外へと顔を出す。そして、息をつく暇もなくーーー

ヴェルニの街を炎と爆音が襲った。瞬く間に都市は炎に包まれる。都市爆撃が始まったのだ。ドイツとの戦争が起きるかもしれないことは皆感じていただろうが、誰が自分住む街から攻撃されると思っただろうか。悲鳴と呻き声を爆弾の音がかき消してゆく。地獄絵図となんら変わりない光景がそこにあった。体が黒焦げになって尚逃げようとする人、火ダルマとなって水を求める人…これが戦争なのだと改めて人々は気がついた。だが、これはもう戦争ではなくただの虐殺である。しかも前例(第一次大戦)ではあり得ない程の虐殺だ。この爆撃で街の75%が破壊され、1200人もの罪なき一般市民が犠牲になったという。

ストゥーカに乗ったパイロットが、燃えゆく街を見ながら言った。

「司令部、司令部、こちら第一攻撃隊。ヴェルニ爆撃は成功。繰り返す、爆撃は成功!『Fall Weiß(白の場合)』を予定通り続行せよ!」


A.M4:45 ポーランド 自由都市ダンツィヒ郊外

ダンツィヒ沖合のバルト海に錨を下ろした1隻の戦艦があった。ドイツ海軍前弩級戦艦『シュレスヴィヒ=ホルシュタイン』だ。

「艦長、司令部より入電!『Fall Weiß(白の場合)』開始!」

「始まりましたな、艦長。」

副艦長らしき人物が艦長に一言言った。

「ああ、総統閣下に栄えあるドイツ海軍の力を見ていただかねばならんな。」

艦長は笑うこともなく、ただ一言放った。

「全砲門展開!目標『ヴェステルプラッテ』!」

Ja!(了解!)

戦艦シュレスヴィヒ=ホルシュタインは艦長の命令ですぐさま動き始めた。主砲である連装28cm砲、15cm砲がヴェステルプラッテの方を向く。甲板退去の警報が鳴り響いた。

Feuer!!(放て!!)

Feuer!!(放て!!)

号令と共に、28cmと15cm砲が勢いよく爆炎を吹いた。同時に轟音が静かだった海を切り裂く。放たれた砲弾は、目では追えない速さでヴェステルプラッテへと向かった。第二次世界大戦初となる戦闘『ヴェステルプラッテの戦い』の幕開けとなる号砲だった。

ヴェスペルプラッテとはポーランドのグタニクスにおける岬のことで、マルトゥファ・ヴィスワ川(ヴィスワ川の支流)の河口にある街のことである。ここは1925年、『国際連盟』によって軍の駐屯地として認可されており、88人のポーランド兵士が配備されていた。しかし、ドイツ侵攻の危険性を見て、9月までに182人へ増強されていた。彼らの装備は『75mm野砲×1、37mm対戦車砲×2、歩兵砲×4、中機関銃(配備数詳細不明、ただし多数配備されていた模様)』であった。しかし、ここは軍基地ではあったが、要塞というわけではなく、コンクリートトーチカが存在するくらいであった。

「隊長!バルト海より砲撃です!ドイツ海軍のドイチュラント級からのようです!」

ヴェステルプラッテ司令部にポーランド兵士が駆け込んできた。それを聞いた守備隊隊長『ヘンリ・スハルスキ少佐』は持っていた書類を思わず落としてしまった。

「…大尉、今なんと!?」

見開いた目が焦点を定めていない。「大尉」はそれを見てスハルスキの容体を心配したが、それどころではないことは分かっていた。

「ドイツ海軍の攻撃です!ナチ公が攻めてきたんですよ!」

スハルスキは全く動かなくなってしまった。まさかここから始まるとは。

「じ、事実確認をしろ!演習の砲弾がこっちに飛んできただけかもしれん!」

絞りでた声が弱々しく司令部に響く。しかし、大尉はそれを怒声を持って消し去った。

「何を呑気なことを仰ってるんですか少佐!!既に前衛隊から負傷者が出ているんです!砲撃は今もなお続いていまーーー」

と言った途端、爆音と振動が司令部を襲った。この近くに着弾したようだ。

「砲撃だ!倉庫に被弾したぞ!」

「消化班!こっちを優先しろ!」

「寝てる奴をたたき起こせ!砲撃の最中に寝てるバカがいるか!」

外から兵士の慌てふためく声が聞こえる。司令部も大騒ぎになってきた。

「第6守備隊!被害状況を伝えろ!」

「消化剤が足らない!?だったら倉庫から引っ張り出してこい!」

HQ(総司令部)!HQ!応答せよ!こちらヴェステルプラッテ!ドイツ海軍に砲撃を受けている!」

「少佐!総司令部より緊急入電!!ドイツ空軍によってヴェルニが空爆を受けたとのことです!!」

スハルスキは固まったまま動かなかった。

「少佐!指示を!少佐!」

大尉が少佐の肩を揺らす。すると少佐は

「終わった…もうポーランドは…」

と言い残し、意識を失ってしまった。(のちの研究で、スハルスキは『神経性の不調』で倒れたということが分かった)

「少佐!少佐!…畜生、こんな時に!」

大尉は机を思いっきり殴ると、一深呼吸してこう言った。

「少佐を医務室へお連れしろ!それから全守備隊へ伝達!スハルスキ少佐が倒れられた為、私『フランチシェク・ドンブロフスキ大尉』が指揮をとる!」

「了解!」

ドンブロフスキは殴った机にヴェステルプラッテ周辺地図を広げ、すぐさま行動に出た。


A.M4:55 ドイツ参謀本部

───空軍第1攻撃隊、ヴェルニ・『ウッチ』の爆撃に成功。補給の為撤収する。

───こちらホルシュタイン!ヴェステルプラッテに向け予定通り砲撃開始!参謀本部の指示を待つ!

───空軍第2攻撃隊まもなく『ワルシャワ』・『クラフク』に到達。着き次第爆撃を開始する。

参謀本部には続々と戦況が伝えられてきた。攻めた側というだけあってやけに落ち着いたムードだった。陸軍総指揮官の『ヴァルター・フォン・ブラウヒッチュ』は腕を組んだままポーランドの地図とにらめっこを続けていた。次々に飛び込んでくる戦況を元に、地図の上のコマがあっちへこっちへと動く。ブラウヒッチュの隣に陸軍参謀総長『フランツ・ハルダー』がやってきた。

「作戦は順調だな、ブラウヒッチュ。」

「ん、そのようだな。」

二人は多くを話さなかった。仲が悪いというわけではない。この作戦を起案したハルダーはともかく、ブラウヒッチュもこの作戦を完璧に把握しきっていた。余計な話をする必要がなかったからだ。

「ブラウヒッチュ指揮官!陸軍より入電です!」

「読め!」

「はっ!「全部隊の配置完了。即時行動可能なり」とのことです!」

「予定より早い完了だな…これも『グデーリアン君』の電撃作戦(ブリッツクリーク)の力か…」

快速部隊総監『ハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン』。ドイツの今後の諸戦の主力戦術となる電撃作戦(ブリッツクリーク)の生みの親である。彼は参謀本部にはいなかった。


前線にいたのだ。

ポーランド

○ヘンリ・スハルスキ…ヴェステルプラッテ守備隊長 階級少佐

○フランチシェク・ドンブロフスキ…ヴェステルプラッテ守備隊 階級大尉


ドイツ第三帝国

○ヴァルター・フォン・ブラウヒッチュ…ドイツ陸軍総司令官 最終階級元帥


○フランツ・ハルダー…ドイツ陸軍参謀総長 最終階級上級大将


○ハインツ・ヴィルヘルム・グデーリアン…快速部隊総監 最終階級上級大将

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