足跡を見つけたボク
初めての投稿なので緊張します。
文芸部にいた学生時代を少し思い出しました。
ピーピー、ガー、ガー……パチッ!
「ム……朝、です」
朝が来るたびに、ボクはその音で目を覚まします。ボクの体内時計はとても精密に作られているので、寝坊することはありません。こんな環境で寝坊して困ることなんてなにもないので、今のボクには必要ないプログラムだと思うのです。
いつも通り、ボクは木から抽出した油を体にさします。昨日のうちに用意していたものです。ニンゲンでいうところの朝食というものでしょうか。ニンゲンと一緒にいたころの、朝の風景を思い出すのもいつも通りです。
「今日の、油も、おいしかった、です」
ボクに味覚はありませんが、便宜上、そう言うことにしています。ニンゲンと共に暮らしていたころからの習慣です。
油の入っていたボトルを脇によけ、簡単な体のチェックをします。特殊な金属でつくられたボクの体は錆びにくくできています。たとえ少々錆びたとしても、簡単に削り落とせます。今日のチェックでも錆びた部分は見つかりませんでした。
ボディのメンテナンスが終了すると、ボクは周りを見回しながら立ち上がります。周りの草木の長さを観察。ほんの少しだけ生長しているのを確認しました。青い空を見上げます。ボクにもあの空を自由に飛んでいた頃があったのだと、懐かしく思います。
ボクがこの島に落ちてきて、十年が経過しました。落ちてきた当初は、すぐにスクラップになるだろうと思っていました。でも予想に反して、ボクはこの年月、一度も壊れませんでした。やはり油の純度がいいからでしょうか? 昔、ニンゲンから油をもらっていた時よりも、調子は良いように思えます。
ふと、ボクが作られた国のことを思い出しました。ボクの同僚たちはまだ元気でしょうか? あの時から一〇年も経ったのですから、きっと少し偉くなったでしょう。もしかしたら、戦争で戦果を得て英雄扱いを受けているかもしれません。
まさか彼らも、ボクのようなロボットが無人島で生活しているとは思わないでしょう。
ボクは戦闘機のパイロットでした。その時代、大きな戦争で活躍していたボクらロボットは、貴重な戦力として扱われていました。ボクらの主な仕事は、ニンゲンが乗っている敵国の戦闘機にミサイルを打つことでした。積んでいるミサイルがなくなれば、戦闘機の機体で直接ぶつかるようになっています。
ボクも例外ではなく、何年も前にこの無人島の上でニンゲンと戦い、機体による体当たりで偶然、この小さな島に墜落してきました。運がよかったのか悪かったのか、ボクは壊れずに、この島に落ちていました。
戦闘で壊れることが前提で作られているボクは、墜落したこの地で途方に暮れました。通信機器がすべて壊れていたので、ニンゲンからの指示を仰ぐことはできません。
目の前に広がるのはジャングルと、目もくらむような青空だけ。
あらゆるものが必死に生きている、弱肉強食の世界で、ただなんとなく生き残ったのはボクだけでした。最初はただ途方に暮れるだけだったのに、日が経つうちにボク自身は何者なのだろうとも考えるようになりました。
ボクは割と高性能に作られていたので、当時としては画期的な「考える」ということができました。でもその能力が及ぶのは、戦闘や飛行機の操縦だけであって、ボク自身のアイデンティティを理解するためのものではありません。
ボクはそれが知りたくて、この無人島で生き延びています。いえ、生き延びるというか、なにかが起こるのを待っている、と言うほうがしっくりきます。
ボクの中でなにかが変わることを願いながら、変わらない日々を過ごすしかない。
そんなもやもやしたものを抱えながら、ボクは毎晩、眠りにつきます。
明日も、ピーピー、ガー、ガーという音に起こされるのでしょう。
ピーピー、ガー、ガー……パチッ!
「ム……朝、です」
なにも変わっていないことにがっかりしながらも、ボクは木から抽出した油を体にさします。この油だけがボクの生命線です。ニンゲンでいうところの朝食というものでしょうか。何年も前に見た、朝の風景を思い出すのもいつも通りです。
「今日の油も、おいしかった、です」
便宜上そう言った後、ボクは久しぶりに遠出の準備をします。今日は海辺に向かう日です。
言うまでもなく、ボクは海水が苦手です。ロボットが海水につけられて無事だったためしはありません。三年前より技術が進歩している今なら可能かもしれませんが、ボクは海水を避けます。基本的にロボットに感情はありませんが、水を怖がるようにはプログラムされています。しかし、浜辺には便利なものが流れ着いてくることがあるので、ボクは一〇〇日に一回だけ浜辺に向かうことにしています。ちなみに、木から抽出した油を入れるボトルはここで回収しました。今日も便利なものが見つかればよいのですが。
そう考えながら一時間ほど歩くと、浜が見えてきました。ぱっと見たところ、いつもと変わりはありません。
「探索、開始、します」
そう言って足元を見た瞬間、なにか不自然なものを見つけました。砂浜に、足跡がついています。これが野生動物のものなら、珍しいことではありません。でもこの足跡は、島に住んでいるオオカミやシカのより大きく、縦に長いような気がします。砂が深く沈んでいるので結構な重さがある動物のものでしょう。
妙に気になって、ボクはその足跡をたどっていきました。近くの岩場に続いているようです。塩がついている部分に極力触れないようにしながら、その影を覗き込みます。
「え……? あなた、誰?」
「……………………この島の、住人、です。あ、ヒトでは、ない、です」
ニンゲンでした。そこにはニンゲンの、若い女がいました。海水で体がびっしょりとぬれていて、表情は疲れているように見えます。意外なものを見たように目をぱちくりとさせていました。
しばらく黙りこみながら、ボクはなにかが変わったことを喜びました。




