イベント――3
すぐには意味が飲み込めない。敵襲? どういうことだ?
だが、みんなの視線の先を追えば、事実と判る。なぜか正体不明の勢力が、俺たち目掛けて突進していた!
いや、正体不明じゃない。一目で判断できたし、ご丁寧にも自己紹介までしてくれた。
「ヒャッハー! 遊ぼうぜ、タケルぅー! パーティだぜぇ!」
この煽るような甲高い声――モヒカンの奴だ!
そして奴が従える集団は……『モホーク』か!
「ヒャッハー!」
リーダーに唱和するように、『モホーク』の奴らも叫ぶ。
しかし……酷い絵面だし、凄いインパクトだ。
想像してみて欲しい。自分達に害をなそうと奇声を上げながら走ってくる……近未来的な野盗の群れ。手には恐ろしげな斧やら、トゲトゲがいっぱい付いた武器を持ち、それを振り回している。
それに最悪なのが……相手がこの襲撃を心の奥底から楽しんでいることだ。それは奴らの表情から、簡単に見て取れる。
気の弱い者なら、失禁してもおかしくなかった。
だが、理解不能な出来事はまだ続く。
「あっ、タケル! タケルなのか? タケル達もグルだったのか? 許さないぞ……許してやらないからな!」
と叫びながら、なぜか秋桜が仲間を従えて現れていた。
従えているのは『不落の砦』のメンバーだろう。統一性のない装備で――というより色取りどりで華やかですらあるが……早くも第一小隊の奴らと戦端を開いている。
どういうことだ?
『モホーク』と『不落の砦』が共同で……俺達『RSS騎士団』に戦いを挑んできた。そういうことか? なんで?
いや、ここは戦争用の区画だし、個人なら起きなくもない。
この区画にいたから攻撃してもいいと思った。そんな理解しがたい理屈で、辻斬りのごとくPKなんて聞く話だ。システム側でも自己責任と注意している。
だが、それはあくまで個人レベルの話でだ。ギルド単位で適用する奴なんて、見たことがない。
いや、違う! いまはそんなことを考えている場合じゃない!
逃げるか?
……駄目だ。逃げるにしても、無秩序にだと各個撃破されてしまう。集団から逃げるのなら、集団として逃げなきゃならない。
それに襲撃されたから、とにかく逃げました? ギルドメンバーが半分以上がいる状態で?
そんな恥さらしなことができるものか!
「総員戦闘態勢! 副団長と後衛を守れ! シドウさん、手はず通り壁をお願いします! グーカ、シドウさんにヘルプ回せ! それと壁作るフォロー! リンクス、山猫集めろ!」
急いで指示を飛ばす。
それで全員が弾かれたように動き出した。吃驚している場合でも、考えている場合でもない。いまは行動のときだ。
ぎりぎり間に合ったか?
いや、間に合わなかったのかもしれない。戦闘に頭を切り替えることはできたが、陣形までは組めなかった。すでに『モホーク』の奴らに踏み込まれている。
……乱戦が始まろうとしていた。
「タケル、駄目だ! もう敵があちこちにいる! これじゃ壁なんて無理だ! それに人数が足らん! 第一小隊からのヘルプが来ない!」
「構いません! 敵ごと陣を組みます! グーカ、中の掃除してくれ! あと、第一小隊?」
そう思って戦場を探してみれば……遥かかなたで孤立してやがる。なんで合流しようとしないんだ? 勝手ばかりを――
「『砦』を背にしましょう! それに支給したアレを使ってください!」
「た、隊長? アレは秘匿する予定じゃ?」
驚いてカイが口を挟む。
「いま使わないで、いつ使うんだよ! 『魔法使い』部隊は集結したか?」
「合流済みです。どこか集中攻撃を?」
「中の掃除を優先してくれ!」
「中なんて無いですよ!」
「これから作ってもらうんだよ!」
怒鳴りあいになっているが、別に喧嘩になっているわけじゃない。大声でなければ通じないぐらい、騒がしくなってしまっているのだ。
怒声や剣戟の音は止むことがないし、たまに爆発の音もする。火の玉やら稲妻、矢なども飛び交い……もはや完全に戦場だった。
それに敵味方が入り乱れてもいる。話ながらも身を守らねばならなかった。
まずい状況だ。
なにより浮き足立ってしまっているのが良くない。これでは普段の半分も実力がだせないだろう。奇襲に先制攻撃……見事にしてやられてしまった。
対応策は知っている。だが、俺にできるか?
そんな不安に囚われながら、ギルドメッセージのスイッチを入れた。
「総員、そのまま聞け! 俺達は何だ?」
ギルドメンバー全員に俺の言葉が届く。
別に答えは求めていない。ほんの一瞬、落ち着いてもらいたかっただけだ。
「俺達は『RSS騎士団』だろうが! 『RSS騎士団』だってことは……最強だってことだろうが!」
思いのままに言葉をぶつける。
全員に共通した心の拠りどころ……それは最強であること。
はっきり言って俺達は無茶苦茶だ。言ってることも、やっていることも……誰一人として認めはしないだろう。
だからこそ、最強でなければならない。
強さと勝利だけが、俺達の矜持を支えているのだ。
どこかで折れてしまえば……全ては負け犬の遠吠えに堕する。
「勝つぞ! 俺が勝たせてやる! 俺達は最強だ!」
胃が痛くなってきたし、腰が抜けるような脱力感にも襲われた。
失敗か?
それにリーダーという人種が嘘を吐く理由が、痛いほど理解できた。
勝てるかどうかなんて、俺に判るはずもない。どちらかといえば、すでに劣勢だ。
しかし、「勝てる」と言う必要があった。誰よりも、全員の為にだ。
昔の俺なら、無責任なことを言うリーダーに食って掛かったことだろう。……ああ、だから俺は煙たがられていたのか。
メンバーの一人が叫び声をあげた。
それは感極まって思わず、そんな風だったし……俺でも一人ぐらいは火を点けれたということか。大きな落胆と、小さな満足を感じる。だが――
それに全員が続き、鬨の声となった!
ゲーム的には何の意味もないそれが、大気を振るわせる。ただそれだけで相手を威圧するのに十分だった。
あまりの大音量に吃驚してしまったし、そのまま腰が抜けるかと思ったくらいだ。
……俺の拙い言葉を、最大限好意的に解釈してくれたのか?
これなら精神的に立て直せる!
軽く興奮状態にも思えるが……浮き足立ってるよりは遥かに良い。あとは舵取りを間違えないようにして、なんとか勝利を引き寄せて――
「タケル君、危ない!」
サトウさんの声が、俺を現実へと引き戻した!
「し、死ねぇー!」
「ご覚悟なさいませ!」
いつの間にか『モホーク』の大男――たしかデクと呼ばれていたか? ――とリリーに接近されていた。




