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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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イベント――2

 こうして見ると、砦の区画は意外と広いのに驚かされる。歪な長方形をしているが、下手なスポーツのコートより大きいだろう。

 区画は光る線で区切られているが、それに沿って建物も立っていた。

 隣接する建物の屋根はスタジアムなどの観客席、建物と線の間はコートの余白。そんな印象すら感じる。もちろん、いわゆるエンドライン側の一つは砦だ。

 俺達の様子――と人数に驚いたのだろう、たむろっていた決闘者(デュエリスト)達が逃げるように区画から出ていく。

 その内の逃げ遅れた――もしくは暢気な決闘者(デュエリスト)の一人が、俺に話しかけてきた。

「な、なんだよ……大勢で……物騒じゃないか」

 戦争用の区画内で物騒も何もないとは思う。そもそもこいつらだって、物騒に腕試しをしていたはずだ。

「悪いな、使わせてもらう」

 そう答えるに留めておく。こいつだって説明して欲しいわけじゃないだろう。

「……あっ。そういうことか。見学しても良いか?」

「好きにしてくれ。……区画からは出ていたほうが良いぞ。安全は保証できない」

 俺の返事に肯き、そいつが移動しようとしたところで……後ろの方で何か口論が起きた。

 ……第一小隊がいる辺りだ。大方、話しかけてきた奴とハンバルテウスあたりが揉めたんだろう。おそらく、どっちもどっちの言い争いなんだろうが……ため息が出てきそうだ。

 そんな様子を観察されていたことに気が付き、目の前の決闘者(デュエリスト)に肩を竦めておく。仲間への悪口や愚痴を、部外者に言うわけにもいかない。


 決闘者(デュエリスト)の一人が予想した通り、俺達はここへ演習しにやってきた。

 イベントでの『RSS騎士団』の方針は簡単なものだ。

 個人での参加は禁止。参戦は検討するが、ギルド単位とする。

 ようするに、とりあえずは参戦するということだ。

 だが、参戦を決めても、いくつかの選択肢が残る。

 ギルド単独、どこかと協力しての参戦、主体的ではなくどこかを助ける形……自分達で勝利と報酬を得てもいいし、俺達の力をどこかへ売るでもいい。

 俺の予想では……イデオロギーをすり合せられる戦争チームに協力、ただし本来の任務を疎外しない程度になると思う。

 戦争の報酬など高が知れているのだ。金貨なのか、レアアイテムなのか判らなかったが……時間や経費まで考えれば、たいした実入りは期待できない。現実とは違う。

 結局は『戦争』という名のスポーツやゲームに過ぎないのだから……参加することそのものが報酬で、楽しめない奴には意義がない。『RSS騎士団』としては、本腰を入れることじゃなかった。

 ただ、一つだけ興味を惹かれる報酬が判明している。

 それは『砦』の命名権だ。

 おそらく第二回でも報酬になるだろうから、第一回が決着してから第二回が開始されるまでの間だけなんだとは思う。

 それでも魅力的だった。

 素直に『RSS騎士団の砦』と名づけてしまっても良い。だが、例えば――


 『リア充は死ね。殺す。砦』


 などはどうだろう? 全てのNPCがその名前で『砦』を呼ぶのだ!

「『リア充は死ね。殺す。砦』へようこそ、新米冒険者の君!」

「全ての冒険者は『リア充は死ね。殺す。砦』から旅立つんだ」

「『リア充は死ね。殺す。砦』こそ自由の象徴。俺達の誇りなんだぜ」

 などと二十四時間、休み無く言い続けてくれる。

 それまでのプレイヤーはもちろん、始めたばかりの初心者にいたるまで『RSS騎士団』の威光が届くことだろう。

 それは公式記録にも残るはずだ。未来永劫、第一回の記録して……目立つだろう第一行目に――


 第一回勝者ギルド『RSS騎士団』。砦への命名『リア充は死ね。殺す。砦』


 などと表記されるかもしれない! 考えただけでワクワクしてしまう!

 そこまでの多大な効果は無いとしても、万が一にも実入りが良いイベントだったら資金源として活用もできる。

 どこかへの協力なんて、それこそ出稼ぎのバイト感覚だ。

 しかし、どの方針を選択するとしても……俺達『RSS騎士団』がどこまでやれるか? それが一番の問題となる。

 とりあえず練習してみよう。そんな考えで演習となったのだ。


 目的の『砦』前に着いたが……そう思って見れば、大きくて頑丈そうだ。

 本日参加している首脳陣――ヤマモト副団長、サトウさん、シドウさん、俺、カイの五人がなんとなく集合した。ハンバルテウスの奴は……まだ口論を続けてやがる。

 ジェネラルには総大将として、是非とも参加して欲しかったのだが……珍しくリアルの都合が合わずに不参加だ。

 絶対にはずせないジェネラルの用事……詳しくは知りたくないな。今日だけはニュースや新聞を控えよう。……何も連想したくない。

 その首脳陣から会話が聞き取れる程度に離れて、グーカやリンクスなどのポジションの……軍隊で言うところの下士官レベルも集まってきていた。

「小さな砦だと思っていたけど……攻めるとなると大きいね。この砦の中で戦うのかい?」

「細かなルールはまだ発表されていないですけど……内部も使うと思います。最終的に砦のどこかへ旗かなんかを立てる――立ててからも一定時間を維持する。そんなルールじゃないかと噂されてますね」

 なんとかヤマモトさんの質問には答えたが……不明点があり過ぎではあった。

 それにそれだけだと、だだっ広い区画の意味が判らない。何かしら『砦』の外でもありそうだった。

「まだ開かないみたいだな。本当に場合によっては……この門を打ち破るのか?」

 そう言いながらシドウさんは、愛用の大剣で『砦』の門をガンガンと叩いた。門の方は、その程度ではびくともしない。

「そういうゲームもあるみたいです。一応、それ用の武器や……もっと本格的な攻城兵器――破壊槌なんかの計画もしてあります」

 ヴァルさんやディクさんは大喜びで図面を引いていたが……俺的にはできれば作りたくない。金が掛かりそうだし、運用も面倒臭そうだ。

「破壊槌を使うほど人員が割ける? 本当に攻城戦やるなら……他の方法のほうが良いんじゃないかな? 例えば……梯子とか?」

「攻城梯子も計画はあります。今日に合わせて用意したかったんですけど……」

 そうカイが答えながら、俺のことを睨んできた。

「つ、作ってみたけど要りませんでしたじゃ勿体無いだろうが! それに今日は平地での……基本的な陣形作りの練習ですから」

 後半は他の首脳陣へ向けてだ。

「いや、でも……タケル君の言う通りだったね。これは練習が必要だよ。現地に来たのも大正解だったね」

 そうヤマモトさんは褒めてくれたが……呆れてもいる。まあ、それは『砦』を攻略するという概念へだろう。

 建物を攻めるなんてのは、現代人の想像の外にある。それどころか普通の人なら、複数対複数の争いなんて考えることも無いはずだ。

「まあ、基本的な陣形から実地でやってみましょう。動く団員のほうもあれですけど……指示する俺達もど素人なんですから。それから軽く模擬戦でも」

 戦争のような集団戦と、PKのような偶発的な戦いはまるで違う。

 今日のところはそれを全員が理解して、基礎中の基礎程度のテクニックが身につけば十分だ。

 そう思って首脳陣を促したのだが……なんだか騒がしい。ハンバルテウスの奴か?

 だが、すぐにメンバーの叫び声に否定された。

「……て、敵襲なのか? 敵襲だぁ!」

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