表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/511

イベント――1

 なんとかここまで漕ぎ着けた。一緒に行進する『RSS騎士団』のメンバーを見ながら軽く感慨に……耽れなかった。

 なんというか、整然としていない。少なくとも軍隊の行進とはいえなかった。

 いや、『RSS騎士団』は軍隊ではないのだから、多少は緩くてもいいのだが……遠足の小学生のほうが、よほど規律は取れていただろう。

 ……まあ良いか。これもうちのギルドの味だ……たぶん。

「……行進の訓練方法を調べておきますか?」

 やや不機嫌そうにカイが話しかけてくる。おそらく、この行進の体たらくに我慢できないに違いない。

「まあ良いんじゃないか? 別に行進するのが目的じゃねえし」

 その程度に流しておく。放っておいたら行進の特訓を企画しかねない。

 俺達はいま、砦の区画へ向かっている最中だ。可能な限りのメンバーを動員し、ギルドホールで集合して、街を練り歩くように行進……その道中となる。

 この行進を目撃した一般のプレイヤー達は、一様に驚いていた。

 曲がりなりにも統一された装備を身に纏い、多少でも行進らしさを残して進む集団は……それだけで強烈なインパクトがあっただろう。

 それに、これでも自他共に認める、この世界最強の武力集団だ。多少は畏怖も感じさせたはずだ……たぶん。


 こんなことをしているのには理由があった。イベントの告知があったのだ。

 それは『第一回・砦争奪戦』とシンプルな名称だった。しかし、それだけで内容は十分に理解できる。

 ついに来たか。それが慣れているプレイヤー達の感想なはずだ。

 砦周辺の区画はそれ用――戦争用にしか思えなかっただろうし、予想通りだっただろう。

 まあ、一般プレイヤーはその程度の感想でも良かった。だが、俺のようなギルド運営側の人間にとっては、デスマーチ開幕の合図となる。

 とにかく急いでギルドの方針を決める必要があった。それは『RSS騎士団』のようなイケイケのギルドから、非抗争永世中立を謳うノンポリなギルドまで同じだ。

 例えば『自由の翼』のようなノンポリなギルドの動きを予想してみよう。

 おそらく、かなり初期の段階で『ギルドとしては戦争には不参加』と決めるはずだ。そこまでは間違いない。

 だが、ギルドメンバー個人での参加はどう扱うか?

 そちらもおそらく『ギルドに揉め事を持ち込まない範囲での活動を認める』となるはずだ。参加禁止まではしない。そうしなければ、戦争に興味があるメンバーの脱退を招く。

 つまり、どこの勢力にも組していない戦争に興味があるプレイヤーというのが、一定数生まれることになる。

 それらはギルド単位での参戦を表明した集団にヘルプ――傭兵として雇われるかもしれない。

 もう一つの方法として、戦時だけ機能するギルド――チームに属するかもしれない。

 細かくは色々となるだろうが、自分の所属ギルドが戦争参加せずとも、個人での参戦は可能ということだ。

 ただ、これは不思議な現象を引き起こす。

 昨日まで仲良く同じギルドで冒険していた仲間が、今日は敵として相手の軍勢にいる。

 もしくは昨日は戦争で必死にやりあった相手が、今日は同じギルドメンバーとして仲良く共同作業。

 ……中々に複雑な気持ちになることだろう。

 シドウさんみたいなスポーツマンは全く気にならないらしいが、俺にはそうは思えない。多少は気まずくなるのが普通じゃないだろうか。

 もしかしたら『自由の翼』ほどに大きなギルドなら、自主系列の戦争チームを立ち上げるぐらいはするかもしれない。

 そのチームに戦争をしたいギルドメンバーを所属させれば、ギルド内に微妙な空気を持ちこまれないで済む。あそこのギルドマスターのクエンスは、そんな誤魔化しが嫌いそうだが……参謀役の『お笑い』――ジンあたりは企てそうだ。

 とにかく、ギルドとして参戦を決めようと、チームでだろうと、個人でフリーランスの傭兵となろうと……それまでの人間関係は無視できない。多少は配慮しないと駄目だ。

 すでに親しい者や有力な個人の動向、新しく作られたチームの評価などが、街のあちこちで話題となっている。

 また個人レベルと同じように、ギルド単位でも動きは活発化していた。

 戦争参加を決めたギルドは、すでに当日を見据えた同盟などを模索しているし……どうあがいても敵となる勢力の情報収集にも熱心だ。

 チームを作る奴はメンバー集めに奔走しているし……そこでも色々な駆け引きが展開されている。

 『RSS騎士団』にだって同盟や専属ヘルプ契約、共同でのチーム設立などの打診が何件も来ていた。

 そう、もう戦争は始まっている。

 まだ細かなルールも、勝利者に与えられる報酬も不明なのにだ。

 戦争に関わらないことにしようと、世界のほうが変動すれば無関係とはいかない。

 すでに消耗品の類はジリジリと値上がり始め、戦争参加を検討しているプレイヤーはピリピリしているし……俺のような裏方は滅茶苦茶に忙しく駆けずり回っている。

 この熱気に当てられない奴はいないだろう。

 ようするに、誰も彼もが当事者だ。

 珍しく告知から実施までに、一ヶ月という長めの猶予を取ってくれて助かった。それが全てのプレイヤーに共通した感想だったと思う。


「それでその……決闘を持ちかけてきたリア充はどうしたんです?」

「うん? 軽く捻ってやった。あまり歯ごたえのない奴だったな」

 少し前を行くシドウさんが、事の顛末を教えてくれる。

 ……率先して雑談なんてしちゃっているんだから、行進にケチをつける資格はないかもしれない。

「……PKKのリア充なのか? いつだかの……『闇の剣・なんとか』みたいな?」

「女連れでPKKしますかね?」

 俺の言葉にカイが疑問を呈する。

 それもそうか。集団でPKKというのもあるが、どうもそれとは違う感じがする。

 話題になっているのは奇妙なリア充の(つがい)――なぜか向こうからパトロールしていたシドウさんに近づいてきて、これまたなぜか決闘を申し込んできた奴らだ。

 いままで追い回したことはあっても、向こうから挑まれたことはない。どうしたことだろう?

「それで女の方はどうしたんです?」

「それは……喧嘩は嫌だというから……その……いや、ちゃんと反省はさせたぞ?」

 珍しく歯切れ悪くシドウさんが答える。

 なんとなく事情が解った。武力行使はせずに済ましたのだろう。

 俺はゲームの世界では男女差なんてないと思っているが、さすがに相手が無抵抗の場合は躊躇することもある。それが男だろうと、女だろうとだ。

 逃げもせず、かといって抗いもせず……それでいて素直に会話を応じる。そんな相手には特にだ。そんなのは説教で済ますしかない。

「いえ、そっちの方は心配してません。でも……うーん……なんだか意味不明ですね」

「深く考えることはないと思うぞ? 俺なんて奴らの考えが理解できた例がない!」

 そう言ってシドウさんは豪快に笑った。

 ……まあ、シドウさんの言う通りか。相手は頭の中がお花畑な上に、恋愛などという架空概念を信奉する輩だ。俺達と理解し会えるはずもない。

 ちょうどそう結論付けたところで、砦の区画へ到着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ