女性用品店――1
結局、決闘は負けなしで済んだ。
優勢勝ち、判定勝ち、ドローにノーコンテンストと……はっきりしない結果ばかりだったが、負けではない。それで満足だ。
調子に乗って隠しておきたい技まで披露してしまったが……まあ、何もかもを見せた訳じゃない。それに、あの場に居たメンバーは敵ではないのだし……吹聴するような人たちでもないだろう。
結果としては仲間が経験を積めたんだから、良しとするべきだ。
俺にだって収穫が無かったわけじゃない。
懐に入られたときに「回避か一撃もらっての間合いの取り直し」と二択に思わせてからの、「『マインゴーシュ』で奇襲の三択目」を見せての、「四択目の『格闘術』」があっさり避けられたからだ。
どうも技が甘かったらしい。その辺をジェネラルやサトウさんに教えてもらえたのだから、貴重な収穫だ。
もう少し練習したら、リルフィーとの決闘で使って……念願の勝ち越しを決めても良いかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は行列を眺めていた。
並んでいるのは女性プレイヤーばかりだ。こんなに女性プレイヤーがいたのかと驚くばかりだし、何人か知った顔も見掛ける。
……少し退屈だ。行列なんて、眺めていて楽しいものじゃない。
こんなことをしているのは訳があった。暇だからではない。
第二回のギルドホール開放は、予定通りに事が運んでいた。『RSS騎士団』、『不落の砦』、『ヴァルハラ』で仲良く一つずつだ。
世界統制は着実に進んでいる。
街を行くプレイヤー達はまだ、何も気づいていないだろう。状況を理解できるようになった時には……もう手遅れだ。
優れた将棋指しは、重要な一手を誰にも悟られないように指すという。俺もその境地の……入り口ぐらいには立てたということか?
駄目だ。笑いがこみ上げてきてしまう。まだ我慢、まだ我慢しなくては――
「うわ、きめぇ……あいつ、行列を見てニタニタ笑ってやがる……」
「おいっ! 目を合わせんなよ! あいつ『RSS』だぞ! 因縁つけられたら面倒臭いだろうが」
……不思議なことを通行人に言われていた。どうも『微笑』が漏れていたらしい。
気を引き締めねば!
いくら勝ったとはいえ、いや、勝ったからこそ、油断は禁物のはずだ。
それで話を戻せば、ギルドホールの落札先には問題無かった。調べておきたかったのは、第一回と同じく開放された店舗の方だ。
『不落の砦』と『聖喪女修道院』の連名でされた要請で、『RSS騎士団』は店舗の落札には参加しなかった。
どうも先生方の『アキバ堂』を真似して、何人かの商売人で共同購入にしたらしいのだが……どんな集団なんだ?
まあ、秋桜やリリーだけならともかく、リシアさんも連名だ。引っ掛けてくるようなことは無いだろう。そう思って同意したが、事実確認は必要だ。
しかし、開店した店舗は、遠く目からでも特性が理解できた。この世界で二軒目のプレイヤーが経営する店は……明らかに男子禁制だ。少なくとも俺に入店する度胸はない。
まず最初に目に入るのが、色とりどりの綺麗な布だ。
こんなにも種類があるのかと驚くほど……ブラジャーとパンツがならんでいる。なんなのだか判らないが、下着に分類されるのだろう何かもあるようだ。
だが、おそらく下着専門店ではない。他にも……男が一生行かないような店で扱う、知りもしない神秘の商品を売っているんじゃないかと思う。
要するに『女性用品店』といった趣旨か?
もう、おおよそのところは判った。軽く調査しておけば、あとは放置でいいだろう。……軽く調査さえしておけば。
しかし、まだ手詰まりじゃない。こんなときの為に、我が『RSS騎士団』には女性団員がいる。厳密には支配下組織というべきだが、協力を仰げる仲間だ。
急遽、予定を変更してアリサを呼び出す……なぜかネリウムも引っ付いてきている。
アリサに事情を説明し、調査を一任する……なぜか『必要経費』の名目で、ネリウムに金貨をふんだくられた。
……とにかく、そんな流れで、いまは二人が調査を終えるのを待っている。
すでに行列に二人の姿は無く、店内に潜入しているはずなのだが……遅い。何をしているんだろう?
……普通に買い物を楽しんじゃっているのか。
まあ、それくらいの余禄はあっても良いが……どうして女は買い物が長いんだ?
俺の母親や妹も同じなんだから、これは女性への偏見でもないだろう。まあ、何度もあるようなことじゃないし、こちらから頼んだ訳だから我慢するべきだが……長い。
手持ち無沙汰に行列を眺めながら、全体メッセージも見て時間を潰す。
ちょうど全体メッセージでは、ギルド『北東西南社』製作による報道番組が流れていた。画面にはインタビューアーの亜梨子が映っているが、これは録画したものだろう。その当の本人はいま、『女性用品店』の前で騒がしく撮影中だ。
目敏く俺の視線に気づいて手を振ってきたりするし……亜梨子はいまいち緊張感に欠けるところがある。お世辞にも『RSS騎士団』と『北東西南社』は友好的とは言い難いのだが。
いや、逆に考えればチャンスか?
亜梨子を上手いこと唆して、『北東西南社』に内部干渉も手のはずだ。
幹部メンバーを脅すなり、買収してしまうなりして……それとなく俺達に都合の良い番組を流させる。悪くない。手が空いたらマスコミ対策の一環として着手してみよう。
そこまで考えて、軽く手を振り返しておく。……大喜びだ。撮影が無ければこちらに突進でもしてきそうな感じ。うん、取っ掛かりとしては十分だな。
新しく発表されたイベントの対応が先だが……見込みのある作戦に思える。
だが、全体メッセージで流れている番組の方は、看過できる内容ではなかった。
途中から観ているので断言できないが、テーマはどうやら『迷惑プレイヤー』のようだ。そんなのは俺達『RSS騎士団』特集と大差ない。
先ほどからインタビューに答える『闇の剣・シャイニングなんとか』――グーカに何度も制裁されたPKKのあいつだ――の主張が続く。
内容そのものは、まあ中立的といえた。……俺達のホームページに晒された奴の『あへ顔ダブルピース』まで転載してしまうのは意地悪に思えたが、虚偽の報道は無い。
大丈夫なのか、『闇の剣・なんとかダーク』……客観的に見て、インタビューを受けて大火傷をしているぞ?
続いてインタビュー相手は中年女性に変わった。
MMOは若者だけに人気のあるゲームではない。おじさんやおばさんと言われる年代のプレイヤーもいる。常に新しい刺激を欲しがる若年層よりも、大人のプレイヤーの方が安住するくらいだ。
少し商売に熱心なタイプらしく、毎日決まった時間に『噴水広場』で露店を商う。そんな説明があっただけなのだが――
『なんとか通り商店街で、雑貨商を営む女性経営者・Aさん』にインタビューを受けてもらいました。
なんてテロップが幻視できてしまう。これこそ偏見の極みか。
しかし、とにかく賑やかな女性だ。姦しさでは亜梨子も引けを取らないはずなのだが……勝るとも劣らない。どころか、相乗効果でうるさいくらいだ。
まあ、それでも慣れているからなのか、亜梨子はあっちこっちへ話が飛ぶインタビュー相手を誘導し、無難に取材を進めている。
その中年女性の話は要約すると――
「性質の悪いプレイヤーに絡まれていたら、『RSS騎士団』の子達がやってきて追い払ってくれた。以後もそれとなく注意してくれているらしく、『噴水広場』の治安が守られている」
だろう。これで取りこぼしていないはずだ……たぶん。
そんなことしたっけかな? 俺の記憶には無い。
となるとシドウさんの第二小隊か、アレックスの第三小隊のところか?
まあ、ありそうな話だ。色々な偶然が重なって、たまたま善行となっていた。そんな話を拾い上げたのだろう。
報道としては基本に忠実といえた。
取材対象の色々な側面を、作為無く取り上げて……最終的な判断は視聴者に委ねる。そんな狙いのはずだ。無報酬なのにご苦労なことだし、意外とギルド運営陣は真面目なのか? 買収を狙うと厄介かもしれない。
また、正式にクレームするべき内容でもないし、この程度なら十分に情報操作が効く範囲だな。
そんな風に思いながら、ぼんやりと観ていた。待つ間の暇つぶしだ。責められる筋合いでもないだろう。
だが、最後にインタビューへ出てきた人物は良くなかった。




