決闘――8
盾狙いは盾狙いで、削りとして繰り返しておく。
狙いがばれていようと有効ではあるし、こちらの長所を相手に押し付けるのは重要だ。
このまま相手が焦れたり、回避するときの隙に合わせてクリーンヒットを狙う。それで更なる隙ができるようなら、そこから一気に畳み込む。相手が手詰まりで、このまま決着でも――削り殺すのでも構わない。
ジェネラルはジェネラルで、俺の懐に入る隙を伺っていた。
その相手に削りを狙うのは問題がある――こちらから隙を作りかねないが、やらなければ利点も失う。
フェイントが何度もやり取りされる。
浅い一撃は、盾や剣で払いあう。
二人とも削れるように、僅かずつHPが減っていく。
……まずいな、予想以上にジェネラルは盾の扱いが上手い。いずれ踏み込まれてしまいそうだ。
そう思った矢先に踏み込んでくる。
俺の攻撃はクリーンヒット気味で、ジェネラルのHPは大きく減ったが……代わりに懐に入られた。学習能力が高い!
さらに俺の剣は、盾で押し退けられた。ジェネラルの剣戟を阻む手が無い。
避けるか?
それとも一撃を覚悟して、間合いを取り直すか?
だが、どちらも選ばない。
剣の保持を片手に変え、空いた手で『マインゴーシュ』を抜き放つ。相手に二択と思わせておいて、三択目で狩る。思考誘導は駆け引きの基本だ。
狙いはジェネラルの攻撃を避けながら、反撃だが――
そこまではできなかった。妥協して攻撃を受け止める。
「そういえば……大尉は『トゥハンド』の異名を持っていたな」
ニヤリとジェネラルが笑う。
……通り名なんて付けられると、手の内がばれるだけだな。
一見、膠着状態になった。
しかし、ここまでは狙いの半分でしかない。布石は十分だ。悪いとは思うが……ミスマッチな部分をつかせてもらう。
『マインゴーシュ』でジェネラルの剣と鍔迫り合いながら……『バスタードソード』でも押す。盾ごとだ。
ジェネラルにはバランスを崩したり、転んではいけないと忠告してある。俺の狙いは理解できただろう。
ジェネラルは力を逃がして堪えようとするが……俺の『腕力』は初期最高値だ。このまま力ずくでも押し倒せるし……ジェネラルの『腕力』も対抗するには低すぎる。
「剣を使うつもりなら、こちらも動くぞ」とばかりに、『マインゴーシュ』にも注意を惹いておく。
「なるほど……能力値は……このようにも使えるか。実際、私の力は弱いな」
なんとか技術で堪えられる。それはそれで驚きだが、ジェネラルの体勢は徐々に悪くなっていく。
何か手を打ってくるか? このままなら一方的な流れになるのだが。
そこでジェネラルの剣が、『マインゴーシュ』に付けてある『ソードブレイカー』に嵌って音を立てた。
狙ったわけじゃない。鍔迫り合いの結果だ。
ちょっとした悪戯心から、『マインゴーシュ』を捻ってみる。しかし、それで――
ジェネラルは剣を手放し、でんぐり返しをするように後ろへ転がり……素早く起き上がった。起き上がったときには、『ダガー』を抜いている。
見事だし、びっくりだ。実践派の人はこちらを驚かせることが多い。
少し悩んだが、今日の趣旨を優先させることにした。
『マインゴーシュ』を鞘に戻し、空いた手の平を見せる。「待った」のジェスチャーだ。
そのままジェネラルの剣を拾い、渡すべく近寄っていく。
「……うん? このまま続行で構わないのだぞ?」
不思議そうにジェネラルは言うが、今の俺は先生役だ。説明しておいた方が良いだろう。
「いまの勘違いを説明しておこうと……剣を折られるぐらいなら、捨てて……拾えるチャンスを残した……ですよね、いまのは?」
「まあ、そんなところだな。どのみち、あのままではジリ貧だ」
「それは間違いです。団長は勘違いしてますね。この世界では武器を壊す方法がありませんから、あれで剣は折れません。単なるトリックです」
その説明には、全員の反応はまちまちだった。
「……聞いておきたいんだが、どうして鍔迫り合いしていただけで剣が折れるんだ?」
シドウさんなどは、そもそも『ソードブレイカー』を知らなかったようだ。
そこで『ソードブレイカー』の仕組みを説明しておいたが、半信半疑の様子だ。「こんな小さな窪みで剣が折れるのか?」と聞いてくるし……俺自身も、それには自信が持てない。
「仕組みは解りましたが……なんで剣を折れないのに、そんな武器にしてあるんです?」
「……いまみたいに、知っている相手なら引っ掛けられるだろうが」
カイの疑問には、真面目に答えたのだが……呆れられたようだ。
「た、隊長? 意外と良い勝負できるんですから……というか、実は強い方の人なんですから……その……正々堂々と勝負しては……」
なんて甘いことを言い出す始末だ。
「嫌だ。俺は全身全霊で勝ちにいくぞ。大体がだな、一対一の勝負は負けたら駄目なんだよ!」
「……なんでです?」
「負けてもいい時だとかは、本当の勝負じゃないだろうが。そもそも、一対一に持ち込まれた時点で絶体絶命なんだよ。勝たなきゃ駄目な状況だろうが」
「そうとも限らないんじゃ……」
「違う。仲間を呼べるなら、まず仲間を呼ぶのが正解だ。逃げても良いなら、さっさと逃げる。それができない時が、一対一の状況だ」
だが、俺の考えは感銘を与えなかったようだ。カイの野郎は口をあんぐりと開けてしまっている。
こっち側の……俺と同じ側の人間なのに、失礼な奴だな! あっち側の人間と同じことをしたら、どこかで絶対に負けるだろうが! 俺がリルフィーとの通算戦績をタイに持ち込むのに、どれだけ研究と練習をしたと思っているんだ?
「まあ……タケルなりに真面目……ということか?」
などとシドウさんは首を捻っているし、ジェネラルは楽しそうに大笑いしている。
ただ一人、サトウさんだけが――
「僕は悪くないと思うよ? まあ、一般的ではないと思うけど……どんな理由でも考えている方が強くなれる」
と賛同してくれた。久しぶりの賛同者に、手を取って感謝を示したいぐらいだ。
「まあ、大尉の考え方は、ある意味で間違っていない。我等が参謀長として心強いぐらいだ。さっ……そろそろお喋りは止めて、続けようではないか」
とジェネラルは言いながら、剣を構えなおした。
まだ決着はついていないということか? 意外と負けず嫌いなのかも知れない。
それにジェネラルとの決闘が終わっても、次の挑戦者達が順番待ちをしている。……俺との対戦に拘らなくても良い気はするんだが。
……長い一日になりそうだ。
そう思いながら、俺も剣を構えなおした。




