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『砦』

 リルフィーの相手をしているうちに、北側にある『砦』の区域まで到着していた。

 この『砦』はオープンβテスト末期に実装されたもので、その用途は公表されていない。

 外観はこじんまりとしたただの砦……街の規模に対して小さすぎる避難所だ。ぎゅうぎゅうに詰めても百人収容できるかどうか、生活する前提ならその半分でも多すぎるだろう。

 一応のバックストーリーは「元々は小さな砦だけがあったのだが、砦を頼るように人々が集まって村ができ、ついには街へと発展した」だ。NPCからの情報を要約するとそうなる。

 だが、まあ……全て後付けだ。

 街のできた発端が中心部にないのはおかし過ぎるし、砦自体も小さすぎる。唐突に「俺達『砦の街』の住人の誇りが――」などと言い出し始めたNPCに至っては、呆れるしかない。「おいおい、この街は『砦の街』って名前だったのかよ!」と思ったプレイヤーも多いはずだ。

 それに用途は公表されていないものの、MMOに慣れているものならすぐに理解できる。この『砦』は戦争用の娯楽施設だろう。

 戦争用の娯楽施設などと言うと意味不明だが、文字通り、プレイヤーが戦争をテーマに集団戦を楽しむためのものだ。ルールや報酬などはまだ不明だが、武力によってこの『砦』を制圧でもすればいいのだろう。

 戦争に関しては今後の発表待ちだが……問題は『砦』周辺が自己責任の区域になっていることだ。この地域で他のプレイヤーから攻撃を受けたとしても、衛兵は守ってはくれない。攻撃した側も排除されないし、犯罪者認定もされないで済む。

 まあ、戦争のための区域なんだろうから、そうでなければ困るのだが……その特徴のせいでトラブルの原因となっている。

 和やかに決闘を楽しむ者達から、迂闊な犠牲者を狙う辻斬りまで……色んな問題児御用達の区域となってしまったのだ。一般のプレイヤーの常識は「用が無いなら『砦』の近くへ行くな」となっている。

 そんなわけで普段なら近づかないのだが、いまは背に腹は代えられない。こっちが集合場所への近道だ。

 空中に浮かんでいる「危険、ここより自己責任」と書いてある赤い光を無視して進入する。

 誰からも襲い掛かられなかったし、人影もほとんど無い。当たり前か。いくら問題児だらけのβプレイヤーでも、いまは忙しいはずだ。

 そのまま北の城門へ移動すると――

「ちぇっ。こっちはハズレだったみたいだ」

「だな。でも、こっち側は危険なのかな? そのうち行ってみよう!」

 などと近づいてくる話し声があった。

 急いで物陰に隠れてやり過ごす。会話の内容から素人――新規プレイヤーなのが丸解りだし、親切な奴らだったら色々と面倒臭いことになる。これからの行動を見られるのも上手くない。……わざわざ他人に不幸を振りまくことはないはずだ。

 時間は惜しいが、十分にやり過ごしてから北の城門へ向かう。

 『砦の街』では北側へ出る城門は特殊だ。二人がようやく並んで歩けるかくらいの幅しかないし、街側に衛兵が二人立っていて――

「北側は妖魔がでて危険だ!」

 と言って槍を交差させ、通せんぼをされてしまう。

 普通なら「通れないんだな」と理解するだろうが、実は違う。衛兵は槍を交差させるだけなので……槍をくぐれば通れば何の問題も無く通過できる。

 これがバグ技だとか、裏技だとかに当たるかは微妙に思えるが……これで新規プレイヤーがいきなり『ゴブリンの森』に行って死亡するのは防げるし、解っているプレイヤーは真っ直ぐ北側に出れるので便利だ。ときどき、このゲームは不親切に親切な気がする。

 無事に街の北側へ出ると、目の前には『ゴブリンの森』が広がっていた。

 知識のない新規プレイヤーは回り込んで来なければならないし、βプレイヤーが森の攻略を開始するのもまだ先だろう。

 単独行になるので慎重に……と思っていたら、前方に先客が居るのに気がついた。

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