決闘――6
……怒らせてしまったのだろうか?
「あの……怒ってます?」
「えっ? なんで?」
意外そうな顔で逆に聞き返されてしまった。
「いや、その……飛び道具は卑怯だとか……システムを悪用しているだとか……」
「えっ? そんなことないよ? タケル君が見せてくれたのは……感心したし、凄く参考になったよ。負けたのも……僕の心得違いだね。タケル君は真剣に勝つ方法を考えてた。僕はぜんぜん考えてなかった。だから負けたんだ」
そうサトウさんは言うが、負け惜しみだとか虚勢には思えなかった。
なぜか本当に負けを受け入れていて、感銘も受けているらしい。武術家の考え方というやつなんだろうか?
「……まだやり様はあったんじゃないですか?」
「悪足掻きはできたと思うよ。でも……まるでなってなかったからね。それは相手に失礼だと僕は思うな」
シドウさんの指摘に、サトウさんはそんな風に答えた。
スポーツマンの考え方だと、例え勝負がついたとしても最後までがんばるべき。そんな感じなんだろうか? 二人の違いはなんだか面白く思えた。
「しかし……決闘で飛び道具というのは、どうなんですかね?」
納得いっていないのか、カイが主張した。だが――
「問題ないよ? なんと言っても……知っていたからね。ああ……タケル君の戦術までは予想外だったよ? でも、タケル君が手裏剣を使うのは何度も見ていたから。このゲーム――世界に手裏剣があるのも、使い手なのも知っていたんだ。それなのに全く想定してなかったんだから……完全に僕の心得違いだね」
ずるいだとか卑怯と言われるぐらいは覚悟していたが、サトウさんは誰よりも自分に厳しい人のようだった。その考え方はなんだか……かっこいい。
「いや……でも……なんというか……剣士同士――サトウ中佐は槍ですけど――の戦いにあの作戦は……」
珍しくカイが食い下がる。なにか剣士だとかに拘りがあるのか?
ただ、サトウさんはニコニコと笑うだけで取り合わなかった。
「お、俺は……け、剣士じゃないしな」
言い訳のように口を挟んだら、無言で睨まれた。これでも形の上では上司なんだけどなぁ……。
「まあ、再戦までに色々と考えておくよ。ありがとうね、タケル君。凄く参考になったよ」
この流れできちんとお礼までされてしまった。なんと言うか……大人だ。
それに再戦……再戦は再戦でやる気なんだなぁ……。それに色々と考えておくか……再戦では勝てる気がしない。
「よし、次は俺が相手になるぞ! タケルが一対一でも強いとは知らなかったからな! 腕試しをしよう!」
気がつけばそんなことを言いながら、シドウさんが愛用の大剣を振り回していた。
別に卑怯な俺に制裁などという感じではない。本当に、ただ比べてみたくての行動だろう。流れ的に……断れないだろうなぁ。負けるのは好きじゃないんだが。
「いや、待てよ? タケルの『スローイングダガー』はどうすんだ? ……ま、いいか! 動いていれば何か思いつくだろうしな」
なんてことも独りごちている。楽しそうだし、やる気満々だ。
仕方がない、お相手を務めさせてもらおう。どのみち勝ち負けは重要でもないはずだ。そう思ったところで――
「こらこら、横入りはいかんぞ、シドウ中尉。次は私と言ってあっただろうが?」
なんてことを言いながら、ジェネラルが権利を主張した。……そんな話になってたっけ?
シドウさんは大人しくジェネラルに順番を譲った。「それじゃ、俺は次で!」と言いながらだが。
やる気のある二人がいるなら、その二人で決闘でも良いんじゃないだろうか?
なぜかカイまで「あ、それじゃ、その次は私で」などと言い出すし、触発されたのか第二小隊の面々からまで立候補が続く。……モテモテだな、俺は!
そしてジェネラルはとんでもないことを言い出した。
「しかし……大尉の投げナイフは厄介だな。ふーむ……対抗策は後日に考えておくことにして――今回は禁止だ!」
その要請には全員が唖然とした。
「団長命令だぞ、大尉?」
ニヤニヤと面白そうに笑いながら、ジェネラルは念を押す。
「だ、団長? さすがにそれはずるいんじゃ?」
「何を言う、シドウ中尉。持ってる力を全て使う――これは立派な兵法だ。権力だって、力には違いあるまい?」
異論を挟んだシドウさんを切り捨てるジェネラル。
自説を主張する間も楽しそうだから、本気では無さそう――いや、半分くらいは本気か? とにかく面白がっているんだろう。
「あー……団長はどちらかというと……隊長側の人でしたね」
カイも呆れたような感想を漏らす。なんなんだよ、その区分けは! 一度、カイとは真剣に話し合う必要があるな。
「……了解しました。じゃ、今回は『スローイングダガー』無しということで。どのみち使うつもりは無かったんですよ? 欠点もある戦術ですし……相手が自分より長い武器だった時の妥協案ですから」
そう言って議論を治めておく。
実際、ジェネラルが用意しているのは最も標準的な装備――片手剣に盾の組み合わせだ。俺の方が間合いが広い。
それに俺の言葉に、サトウさんとカイは考え込む風だった。
カイは俺が『スローイングダガー』を使った理由に初めて思い当たったんだろうし……サトウさんは早くも再戦への準備を始めているんだろう。うん、次は勝てる気が全くしない。
「よし、快く大尉が承諾したことだし、始めるとしよう!」
そうジェネラルが宣言し、ルール変更はとなった。
こんな言動を面白いと感じるか、胡散臭いと思うかは人それぞれだろう。ただ、俺は面白いと感じる方だ。これが人徳だとか、人間的魅力にも思える。
おそらく俺が提案を断っても良かっただろうし……それでも意外と何らかの作戦は持っていたんじゃないだろうか。
とにかく、決闘は開始された。
盾を持っている相手の場合、大まかに言って二つの戦術がある。
相手が持っている盾の方へ回り込む方法と、剣を持っている方へ回り込む方法だ。
盾を持っている方へ回り込めば相手は剣を使いにくくなるし、逆なら盾を使いにくくなる。つまり、守りを意識するなら盾側へ、攻めを重視するなら剣側だ。
そして半端ではあるが、俺の『バスタードソード』は両手持ちでもある。片手剣よりは長い。その分だけ間合いも長くなる。
相手より半歩かそこらだろうか? それだけでかなり有利だし、今回も先手が取れるということだ。
左回りに……ジェネラルが盾を持っている方へ回り込む。
そして俺の間合いより半歩、ジェネラルの間合いで言えば一歩手前で斬りかかる。
当然、そんな攻撃は盾で受けられてしまう。……目論見通りだ。
そして何度も同じこと繰り返す。
最初は不思議そうにしていたジェネラルだが、すぐに俺の狙いに気がついたようだった。慌てて盾での受け方を試行錯誤しだす。……残念だがそういうことじゃない。
「……うん? これ……またハマっている?」
「盾で受けても無傷じゃないから……盾を狙っている?」
「なるほどね……踏み込みが浅いと思ったけど……最初から盾を狙ってたんだね。タケル君はよく考えているなぁ」
「盾に当てても相手のHPが減るなら……盾狙いでも良い。そりゃそうですが……何というか……これまた姑息な……」
「流れるようにハメ……大尉はおっかないぜ……」
などとギャラリーも騒ぎ出した。なんだか否定的な意見ばかりだな!
しかし、どうしたものか。このままジェネラルが負けを認めるまで繰り返してもいいのだが……さすがにそこまで冷える結果というのも……。だが、悩んでいるうちに――
「よし、『待った』だ! 『タイム』だな!」
とジェネラルが言い出した。
ちなみに決闘に『タイムアウト』なんてものはない。普通ならそれで負けとなるんだろうが……自由な人だなぁ。




