決闘――5
結局、再戦することになった。
お互いのルールでやってみるのが公平というものだし、今回の狙い――ゲーム的な『勝ち方』を教えていないからだそうだ。
俺としては手抜きをする余裕など全く無かったし、一戦目で出し尽くした……訳でもないか。それをサトウさんは見抜いたのだろう。
「本気で……いや違うな……全力で……とにかく、持っているものを全部出しますから……怒るのは無しですよ?」
メニューウィンドウを操作しながら念を押しておく。
「……タケル、なにをしているんだ?」
そんな俺を不審に思ったのか、シドウさんが問い質してくる。
「いえ……決闘向きにショートカットの変更を……」
そう答えながら、イメージアイテムの手袋も脱いでおく。これで素手の攻撃でもダメージが出せる。
「ショートカット? 『回復薬』なしの勝負で、ショートカットなんて使わないだろ? 判定は心配するな。全員でパーティを組んだのだから、HPはちゃんと見といてやる」
「いや、まあ……使わないこともないんですけど……それじゃ判定はお願いします」
再戦のルールは簡単なものだった。HPが半分減ったら負け、『回復薬』は使用禁止。この二つだけだ。
俺としてはもう少し細かくルールを制定して欲しかったが……今回は『何でもあり』寄りを知りたいんだと思う。勝ち負けより、それを見せれば良いはずだ。
「隊長……そうむきらならなくても……情報部は武力担当でもないですし……」
なぜかカイが見当はずれの慰めを言い出しやがった。
「う、うるさい! お前だってこっち側だろうが! 確かにサトウさんはあっち側の人だけどな……こっち側の奴でも創意工夫でなんとかできるってのを……少なくとも希望ぐらいは教えてやる! よく見とけ!」
ちなみにあっち側とはシドウさんやリルフィーを筆頭にサトウさん達の、才能に恵まれている人種のことだ。たぶん、ジェネラルもだろう。
こっち側の俺達は……地道にコツコツと一つずつ学んでいくしかない。
「どちらかというと、僕もタケル君側なんだけどね。支度はもう良いのかい?」
「お待たせしました。もう始めでいいですよ」
そう言いながら、さりげなく距離を取る。
そんな姑息な誤魔化しはすぐにばれたが、嬉しそうにサトウさんは笑った。何が面白かったのか解らないが、この分なら怒り出すことは無いかな?
今回は先手を取らせてもらう。
「『リロード』」
発動のキーワードに応えて、右手に『スローイングダガー』が出現した。
実はショートカットに武器の装備も登録できる。普段はショートカットに余裕が無くて使っていないが……身体のあちこちから『スローイングダガー』を抜くより、ショートカットで呼び出したほうが早い。数も際限なく……とはいかないが、尋常じゃない量を扱える。
「えっ? 決闘って飛び道具ありなんですか?」
「反則……なのか? いや、でも……特に決めてなかったし……」
「でも、俺……決闘で投げナイフ使う奴、初めて見ましたよ……」
などとギャラリーが騒ぎ出す。
……こうなるから細かくルールを決めておいて欲しかったんだけどな。問いかけるようにサトウさんを見てみれば――
「真剣勝負の最中だよ! 見ててもいいけど、余計なことは言わない! ……続けよう、タケル君」
と言ってくれた。その間も視線は俺から外さない。それに凄く楽しそうな顔をしている。
「中佐がこう言っている以上、外野がとやかく言うものでもあるまい」
ジェネラルが裁定を下す。それで議論にはならないで済んだ。
お許しがでたのだから、遠慮なく使わせてもらう。狙うのは身体の中心だ。
現実ではきちんと急所を狙うべきらしいが、このゲームではどこに当たっても似たような結果が得られる。それなら相手が最も避け難い身体の中心を狙うべきだろう。
手投げ武器の間合いはそんなに広くないが、槍よりは長い。相手の間合いの一歩外から可能だ。
相手の間合いの外から、一方的に攻撃を続けた。
だが、槍で次々と弾かれていく。
それでも俺は構わなかった。盾で受けたときと同じように、武器で受けてもHPは減っていく。
「これは……ハマっているのか?」
「武器で受けたのにHPが減るって……変じゃないですか?」
「身内との決闘で躊躇い無くハメ……大尉はおっかねぇなぁ……」
ギャラリーが不満を呈する。
「これで正しいんです! 武器で受ければ無傷なら……いかに武器で受けるかってゲームになっちまうでしょうが!」
言い返したのは煽りに反応したからではない。今回の先生役であるのを思い出しただけだ。
「レクチャーはありがたいけど……目線を切るのは感心しないよ、タケル君」
そう言いながらサトウさんが間合いをつめてくる。このままでは槍の間合いだ。
しかし、合わせて俺も距離をつめる。これで剣の間合いにもなった。
サトウさんの突きがくる。なんとか受け流せそうだが――
ダメージを覚悟して、反撃を優先させた。
お互いに同じくらいHPが減る。上出来だ。
その証拠にサトウさんはビックリしているし、こちらの狙いに気が付いたのか苦い顔にもなっていた。
「いい勝負……なんですか? 実は隊長、それなりに強かったんですか?」
「いや……これはタケルが……守りを捨てて相打ちにしているからだな」
「一転して泥臭くなってきた……これどっちが有利なんだろ」
ギャラリーは判断しかねているが、これは武術家のもう一つの盲点をついている。
武術に相打ちや捨て身の技が無いとは言わないが、基本戦術には絶対に採用されない。当たり前ではある。肉を斬らせて骨を断つような技は、生涯を通じて一回使うかどうかだ。俺のように連発する相手は想定していないだろう。
もう三回ほど相打ちに持ち込んだが……現実なら俺は三回死んで、一回だけサトウさんを道連れにできた程度か? だが、お互いのHPの減り具合は同じようなものだ。
このまま削りあいで構わなかった。俺には最初に『スローイングダガー』で稼いだアドバンテージがある。続けるなら俺の勝ちだ。
それを嫌ったサトウさんが間合いを取り直しに来た。狙いは槍は攻撃できるが、剣では届かない距離だろう。
合わせて俺も動く。槍の間合いの外――手投げ武器の間合いへだ。
「『リロード』」
キーワードで俺の右手に新しい『スローイングダガー』が出現する。
あのまま剣の間合いを固持でも良かった。だが、ここは『下手に距離を取ろうとすると不利になる』と印象付けたほうが良い。
「……ふりだしに戻しましたね」
「えぐいなぁ……一連の作戦だったのか……」
「面白いな……それにタケルらしい戦い方だな」
「かっこう良くは無いですけどね。まあ、隊長らしさはでてます」
ギャラリーは無責任な感想を言うし、やや不満なようだ。……こっちは真剣だし、ぎりぎり限界までがんばってんだよ!
だが外野に構ってはいられない。目の前のサトウさんに集中しなければ。そう思ったところで――
「参った。降参する。僕の負けだね」
とサトウさんは言って、構えを解いてしまった。




