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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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収穫――5

 秋桜が席に着くなり、ウリクセスは切り出した。

「単刀直入に言おう。ギルドホールを買いたい」

 ……想像以上の爆弾だった。

 だが、ここは落ち着いて対処するべきだ。欲しいものこそ、取りこぼさないように慎重に絡め取る。それが正しいやり方だろう。

「ギルドホール? そんなの私達に話を持ち掛けないで……勝手に買えば良いだろう?」

 秋桜がのほほんと応じる。

 ……本心からの言葉に違いない。隠された意図を読み取ろうともしていないが、これはこれでナイスか?

「……腹芸は止してくれ。得意じゃないんだ」

 ウリクセスは憮然とした感じで答える。

 秋桜が韜晦していると勘違いしたのだろう。こいつはそんな複雑なことはしないが……先に手の内を晒させることができる。この流れに乗るべきだ。

「そのようなこと仰られましても……私共も、第二回のギルドホール解放はどうしたものか……検討中だったのです」

 リリーもそつなくかわした。……今日のところは共闘できるか?

 それでウリクセスは降参だと言うように、両の手の平をこちらへ見せる。

「腹芸は苦手って言っただろ? それに……俺はこれでも……お前達を認めているんだ。『RSS』の規律も……『不落』の抑止力もな。仲良くやろうぜ? ……というか、仲良くしてくれよ」

 頭は悪くない奴と思っていたが、外交力は低かったようだ。

 しかし、それを考慮して手加減する筋合いでもない。

「俺は……お前ら『ヴァルハラ』が、ギルドホールに興味を持つとは思ってなかった。どうしたんだ? あれは捗るアイテムでもないだろう。もしかして仲間が集まる場所が欲しくなったのか? だとしたら……トップ廃人ギルドの名が泣くぞ?」

 軽い探り程度のつもりで言ったら、ウリクセスは不思議そうな顔をしていた。

「そうか? ギルドホール区画へのNPC……あれは第二の街にも居ただろ? それはつまり……ギルドホールはテレポーター代わりに使えるってことだ。第三の街が実装してから手配じゃ……出遅れると思ったからな」

 なかなか面白い、そして廃人らしい発想だった。

 各街間の移動はテレポートでも可能ではある。ただ、各街毎にいるテレポーター役のNPCと契約を済ませてればで、さらに代金も必要だ。

 ギルドホールを持っていれば、支払いは不要にはなるだろう。しかし、その為に金貨十数万を費やすというのも……頭のネジが数本ぶっ飛んでいる。

「お前のところ、確か十人だよな? 十人で減価償却するのに、どれだけ掛かると思ってんだ? ……気の長い財テクだな」

「二人増えて、いまは十二人だ。βテストの抽選に漏れたドジがいたからな。元を取るのに数年もかからんだろ。二年もすれば得になる計算だ。それに俺達だって、たまり場が無くても平気とまでは思ってないぜ?」

 二年も先のことまで考えるなんて……やはり、発想が狂っている。また、いつのまに人員が増えていたのだろう? これはカイの奴に、調査させないと……。

「なるほどな。じゃあ、まあ……手間を省いてやろう。我が『RSS騎士団』は第二回ギルドホール解放にも参加する。いくつか競り落とす予定だが……予定数を教えることはできんな」

 つれないとも言える俺の言葉に、ウリクセスは何度か肯いている。

 ……おかしい。奴にとって歓迎のはずがないのだが……折込済みで呼び出したのか?

「すでに申し上げました通り、私共は検討中でして……正直、お値段次第ですわね」

「だよなー。第二回はアレなんだよ……あまり良い立地じゃなくて」

 リリーはウリクセスに、そして俺へも……カードを伏せたまま進む腹づもりか。偶然なのか、秋桜の感想も援護射撃になっている。

 『不落』の二人の言葉にも、ウリクセスは何度も肯く。

「うん、結局は値段次第だよな。……って、だからっ! 腹を割って話そうぜ!」

 途中で気がついたのか、喚きだす。

 ……そんなこと言われてもな。

 俺はリリーが手を緩めない限り、温い発言をする気はない。リリーも同じだろう。つまり、二人とも止める気はない。

「これでもこっちは、色々と気を遣ってんだぜ? あと何を言えば、真面目に話を聞いてくれんだ?」

 ……悪くない選択だ。相手が格上と判っているのなら……同じ土俵で争わないのも手ではある。

「それは……そちらが何を知りたいかだな。問題なければ、俺は答える。秋桜やリリーも……まあ、同じようなもんだろう」

「勝手にこちらの方針まで決めないで下さいまし。でも、まあ……礼儀正しい質問には、いつでも答えるつもりです」

 すかさずリリーは牽制してくる。その隣りの秋桜は……もの凄く暇そうにしていた。……いつもながら気楽な奴だ。

「よし。俺が聞きたいのは二つ。お前達が作ったギルドホールクラブへ、俺達『ヴァルハラ』も仲間に入れてもらえるのか。それと、これは最初の答え次第だが……第二回の予定価格だ。……クラブの仲間と合わせるには、それは教えて貰わないとな?」

 勝った!

 そのウリクセスの言葉を聞いて、最初に思った素直な感想だ。

 ギルドホールクラブなどを作るつもりは無かったが……それでもべつに構わなかった。

 問題にしていたのはただ一つ。意思決定に俺の考えが――『RSS騎士団』の思惑が反映されるかどうかだ。それさえクリアしていれば、形式など些事に過ぎない。

 いや、まだ駄目だ! 油断していい場面じゃない。

 勝つのはこれから……上手くウリクセスを取り込んで、初めて勝利したといえる。

「私達は……その……仲良くしようとする相手なら、こっちも仲良くしようとするぞ?」

 難しいことを考えている顔で、秋桜が威信表明をした。

 建前論過ぎるが、ギルドマスターの答えとしては及第点をあげてもいい。ギルドマスターが先陣を切って、あちこちへ喧嘩を売って歩くようでは……そのギルドの先行きは暗いだろう。

「……お姉様の仰る通りですわ。そのギルドホールクラブというものがあったとして、私共も参加しているのであれば……仲良くしている方に便宜を図るのは、吝かではありませんわね。……私共が参加しているのであれば、ですが」

 虫も殺さぬように笑顔でリリーが補足するが……どうとでも取れる返事だ。

 意訳するならば「ギルドホールクラブの一員として返事をして欲しいなら、手土産が足りないのでは?」といったところか?

 さて、ウリクセスにこの謎掛けが解けるだろうか? ……何か微妙なものを食べた人の顔をしている。リリーは少し上品過ぎる陰険さだから、理解されないことも多い。

「……助けてやろうか?」

「た、頼む! 思ってたのと違って……なんて言えばいいんだ? 戸惑うぜ……」

「タダじゃないぞ? お前らが金策をしていたのは知っている。いくら用意できたんだ? それを教えろ」

 意外な質問に、少し驚いているようだった。

 監視の結果で得た情報ではない。偶々、リルフィー経由で知っただけだが……その事情まで教えることはないだろう。

 そしてポーカーフェイスを装ってはいるが……この金額は大事だった。素直に答えることも、ある程度の額になっていることもだ。

「流石だな。目立たないようにしたつもりなんだが……現金で三十万枚用意した」

 多少、誇らしげに提示してきた。

 だが、秋桜は首を捻っている。それで買えるか微妙に思ったのだろう。それは正しい予想でもあるし、間違ってもいる。

「お姉様、失礼ですわよ!」

 わざとらしくリリーが窘める。……なんだかんだ言って、この二人は良いコンビだ。

「十分じゃないか?」

 俺の答えに、リリーは驚いていた。こんなにあっさり認めるものとは、思ってもいなかったのだろう。警戒対象を俺に変えてくるか?

「そ、そうか? 『RSS』がそう言ってくれるなら、安心――」

「そのギルドホールクラブというのがあって、『ヴァルハラ』も参加するんだったらな。俺の読みじゃ……次の落札価格は、金貨十五万になるんじゃないかと思う。だから、ギルドホールクラブとやらに参加するなら、十分に落札できる資金のはずだ。……参加さえしていればな。問題はそこだと思うぞ?」

 外交の素人相手なら、これくらい露骨に要求したほうがいい。リリーは言質を取られまいとしたのと……上品さに欠けるとも思ったのだろう。その点で俺は、自分の品格なんぞに興味がないから有利だ。

「もちろん、手ぶらで入会するつもりは無かったぜ? 『RSS』に五万、『不落』にも同じく五万でどうだ?」

 百点満点の答えだ。

 俺が欲しかったのは金貨ではない。金を支払ったという事実の方だ。それでも小額過ぎれば軽く見られるから……五万という数字は妥当だろう。

 これは今後の指針となる。ギルドホールクラブに――『RSS騎士団』に話を通せばギルドホールは買える。その認識が確立さえしてしまえばいい。

 勝った!

 これで勝ったといえる! いままで頑張ってきた陰謀は全て、この瞬間を成就させるためだったのだ!

 多くの苦労があった……だが、それは全て報われたのだ!

 俺は――我が『RSS騎士団』は征服者となった! 世界は統制される。『RSS騎士団』の手によってだ!

 興奮のあまり叫びだしそうになるのを、ぐっと堪える。我慢が心地よくすらあった。

「……それでは計算が合わないのでは? 私、算数は苦手なのですけど……合計で金貨二十五万枚になる気がしますわ」

 無邪気そうにリリーが小首を傾げる。うん、えぐいな。

 三十万から十五万を引いた残りを等分すれば、七万五千だと言いたいのだろう。上品そうな顔をしているが……絞れるときには、とことん絞りつくすつもりか?

 看過はできない。

 金貨が五万枚だろうが、七万五千枚だろうが、どっちでも構いやしなかった。大事なのはシステムとして成立させることだ。

 どう言い包めようかと思っていたら、ウリクセスは自力で窮地を脱した。

「おいおい……多少は加減してくれよ。それに、完全に公平だぜ? 『RSS』に五万、『不落』にも同じだけ。最後の五万は……俺達『ヴァルハラ』にだ。もうギルドホールクラブの会員なんだからよ?」

 その屁理屈に、思わず笑ってしまった。外交下手かもしれないが、やはり抜け目が無い。

「ああ、それでいい。……ギルドホールクラブへようこそ、『ヴァルハラ』さん」

 勝者の余裕をもって、そう俺は答えた。

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