表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

81/511

収穫――4

 とりあえず受け取った品物は、『RSS騎士団』のギルドホールまで運んだ。

 しかし、そこでゆっくりする時間は無い。二つ目の約束に遅れそうになっている。なんだって今日に限って忙しいんだ?

 二件目の約束は、ギルド『ヴァルハラ』との会合だ。

 話があるというなら、聞きにいかねばなるまい。あの廃人集団が改まって話など……なにか協定でも持ち掛けたいのか?

 そんなことを思いながら指定された場所へ急いでいると……先ほど会ったばかりの『聖喪』の女性――やはり背中を丸めながら歩いている――が目の前に見えた。進む先は同じようだ。

 どうしたものか。

 知り合いとして挨拶をしてもいいし、『聖喪』が求めている無関心を提供してもいい。

 気が付かなかったフリは簡単だし……ようするにギルド単位で匿名希望なのだから、むしろ希望に沿ってもいる。ここは見なかったことにしよう。

「ふぎゃっ!」

 が、こけた。俺が気を遣うことに決めたとたん、目の前で転ばれてしまった。

 しかし、酷いずっこけ方だ。顔面から地面に飛び込んでいた。ベールの裾から綺麗な金髪が見えてしまっているし、修道服の裾も捲れ上がってて……目に毒なほど白い生足まで見えてしまっている。

 ……ぶかぶかの服で俯いて歩くから、裾を踏んづける羽目になるのだ。

 目の前まで滑ってきたサンダルを拾い、助け起こすべく近寄る。これを無視できるほど、俺の精神は強靭じゃない。

「はい、サンダル。……あと、その……スカートが捲れてますよ」

「ひゃっ……って……タ、タケル? どうしてここに?」

 慌てて裾を直しながら、女性は驚いている。俺に気がついてなかったみたいだ。

 ……驚かれても困る。俺だって用があれば街を歩く。再会は単なる偶然なのだ。

「……見た?」

 相変わらず顔はほとんど見えないが、非難している印象を受けた。

 ……街を歩いていたら、突然に絶体絶命のピンチだ。このクソゲー仕様はどこへ文句を言えばいいんだ?

 正直に言えば、見た。太ももの辺りまでバッチリだ。

 ただそれだけで男の目を釘付けにする、それはもう立派な造形でございました。残念ながら重要機密は拝見できなかったが……「ありがとうございました!」と叫びたかったほどだ。

 いや、一瞬……チラリと見えた……肌色でないナニか……。あれはひょっとして?

 ……とにかく、それを見なかったなんて説得力に欠ける。

 かといって、見たと正直に言う訳にもいくまい!

「たまたま、こっちの方に用がありまして――」

「見たんだぁー……」

 地べたに座り込んだまま、頭を抱えてしまった。誤魔化すのは失敗か?

 その後、片足で立ち上がろうと、無謀な試みを始める。素足で地面を踏むのが嫌なのだろうが……ちょっと無理があるだろう。

 諦めるよう促すのに、差し出した手をさらに伸ばす。

 癪に感じたのかそっぽを向いて……それでも大人しく俺の手につかまって立ち上がる。こっちが助けたというのに腹を立ててるのか、その顔――といっても口元しか見えないが――は真っ赤だ。

 この人は会うたびに座り込んでる。俺も毎度のように助け起こす。習慣になってしまいそうだ。お互いの巡り会わせでも悪いのか?

「あ、ありがとう。……タケルも、こっちの方へ用事なの?」

 一応は感謝されているようだ。サンダルを履き直した途端、慌てたように俺の手を離したが……まあ、他意はないと思う。

「ええ、まあ……ちょっと『食料品店』の前で人と会う約束が……」

「えっ? もしかして……タケルも――」

 後半がよく聞き取れなかったが、なぜか驚いている。そして――

「あ、ありがとうね! あの……私……急用を思いついたから!」

 などと言って……先ほどとは逆の方向へ走り出した。どうかしたのか?

 引き止める筋合いでもないし、そのまま黙って見送ることにしたら……またこけた。

 こんどは独りで、驚くべき早さで立ち上がる。相当に慌ててるようだが、どうしたのだろう?


 『食料品店』の前にいくつもあるテーブルの一つで、待ち合わせ相手だった『ヴァルハラ』のギルドマスター――ウリクセスは待機していた。

「おう、こっちこっち!」

 陽気に笑いながら、俺へ手を振って誘う。

 身に着けている実用一点張りの鎧は、趣が無かったが……立場が違えば俺も似たような選択をしたかもしれない。それにまだ珍しい『鋼』グレードなのも一目瞭然だ。

 そこまでは予想通りだった。だが、もう一人の人物は完全に想定外だ。

 つまらなそうな顔をしているリリーが、同席していた。

 黒い皮鎧を着ている。なかなか良いデザインだ。カエデが着る先生方の力作には一歩及ばないが、悪くない。似合っている。というより、黒のゴシック調『レザーアーマー』なんて着こなせる女は、そうそういないだろう。

「なんだ……リリーもこの話に噛んでいるのか?」

「……いきなりのご挨拶ですわね、タケル様。私も……呼び出された方です」

 とりあえず席に着く俺へ、不機嫌を隠そうともせずリリーは答えてくれた。

 それで周囲がざわつく。……無理もない。

 意味不明な『ヴァルハラ』のギルドマスターと『不落の砦』ナンバーツーの会席に、『RSS騎士団』の参謀格が登場だ。何かあると思わない方が不自然だろう。

 予め想定しておいた内容は、全て見当外れになったか。取り越し苦労に終わってしまったわけだが……面白くなってきた。

 それに秋桜とリリーを呼び出した時に酷似している。……わざとだろう。俺にできる方法は、他の誰かにもできる。ゲームの鉄則だ。

 ウリクセスの口から何が飛び出すのか、楽しみになってきた。

「いいのか、こんなところで油を売ってて? 俺と遊んでいても経験点は入らないぞ?」

 挨拶代わりの揶揄に、ウリクセスは笑う。

 ……態度に余裕がある。切羽詰った用件ではないのか?

「俺達だって、狩りばかりしている訳じゃないさ。それ以外のことも、たまにはな」

「お二方は、お暇のようですが……私はそれほど。それに……こうも気軽に呼び出されるなんて……愉快と思ってはいませんのよ?」

 嘘を吐け。気のない素振りだが……その目は爛々と輝いていた。好物の陰謀を前に、舌なめずりせんばかりにしている。やはり、この世界でトップクラスに危険な女だ。油断すると足元をすくわれる。

 「で? 用件は?」とばかりに、ウリクセスを見ると……なぜか奴は「いいのか?」とばかりにリリーに視線を投げかけた。……すでに前哨戦が始まっているのか?

「その……お姉さまが……そろそろいらっしゃるはずなのですが……」

 恥ずかしそうに言うリリー。それを見計らっていた訳でもないだろうが――

「待たせたか? ちょ、ちょっと急が用事だったんだ!」

 と、意味不明なことを言いながら秋桜がやってきた。

 真紅の『プレートメイル』を着ている。この前の会見で見たドレスと同じ色だ。その赤は、秋桜によく似合っていた。

 秋桜に色々と言いたいことは多いが……とにかく背筋を伸ばし、顔をあげている。それだけは満足だ。秋桜はこの方がいい。

「うん、今日も元気だな」

「な、なんだよ、いきなり!」

 馬鹿にされたと思ったのか、秋桜が噛み付いてくる。

「いや、褒めているんだぜ? その鎧の赤も……まあ、悪くないしな」

 褒めたら俯いてしまった。俯かなくなったと褒めたのに、なんで元に戻るんだ? 照れるようなことを言ったわけでもないのに、なぜか顔も赤くしているし!

 それに……その俯いてる感じは、今日『聖喪』で会った女性そっくりだ。どういうことだ?

「な、なんだよ!」

 訝しげに見る俺を、秋桜は不審そうに見た。……少し裏返った声は、どこかで聞いたような気がする。

「なあ……秋桜? お前……姉妹とかいるか?」

「……へっ?」

「いや、だから姉妹。実は今日、お前によく似た人と――」

「いるぞ! 超いるぞ!」

 なぜか必死の形相で秋桜が力説する。……変な地雷でも踏んでしまったか?

「……えっ? お姉さまは確か……一人っ――」

 不思議そうに何かを言うリリーの肩を、なぜか秋桜は抱き寄せ――

「馬鹿だな、リリー……私には姉妹が沢山いるだろ? お姉様も沢山いるし……リリーのことだって、妹みたいに思っているんだぞ?」

「お、お姉様ったら……私だって、お姉様のことを、本当の姉妹のように――」

 などと意味不明の会話を始めやがった。リリーも嬉しそうだし……なんなんだ、こいつらは!

 しかし、それで色々な謎が解けた。

 あの『聖喪』の女性は、秋桜の姉妹なのだろう。どうりで似ていると感じるわけだ。また、それで会ったことがないのに、どこかで会った感じが拭えなかったのだろう。

「あー……そろそろ始めてもいいか? 『不落』の……あんたも良ければ座ってくれ」

 呆れ顔のウリクセスが話を脱線から引き戻した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ