収穫――2
約束の一件目は『聖喪女修道院』への訪問だ。
発注していた衣服類――サーコートとマントが完成したとの連絡を受け、それを受領しに行く。珍しく日時を指定、それも取りに来いとは高飛車にも思えるが……これは目的があるんじゃないかと睨んでいる。
指定された場所は『聖喪』のギルドホールだったから、完成したのだろう。
しかし、ギルドの性格上、そう来客なんて無いはすだ。
当たり前ではある。いわば秘密の花園へ遊びに行こうなんて男は、よほどの強心臓で厚顔無恥に違いない。そんなことが出来る奴がいたら、ぜひとも顔を拝んでみたいくらいだ。
わざわざ呼びだしたのは、完成したギルドホールを見せびらかしたいのだろう。リシアさん達だって、誰かに自慢したいだろうし……その程度ならお安い御用ではある。
訪れてみれば、やはり『聖喪』のギルドホールは完成していた。
なかなか小洒落ている。石造りで、館とでも言うべき外観だ。それを茨が伝っている。古式の伝統、茨が装う拒絶。まるで童話『いばら姫』の城みたいだ。
すぐには気が付かなかったが、一階部分には全く窓の類が見当たらない。窓は全て二階部分のみだ。
覗きに来るような不心得者はいないと思うが……茨といい、窓への配慮といい……それが『聖喪』の人達には必要なことなのか。
贅沢なことに正門前には、小じんまりとした庭まであった。しかし、庭なんて造れば、その分だけ建物は狭くなるが……何かこだわりでもあるのだろうか?
その小さな庭には、さらに小さな……猫の額ほどの花壇が設けられている。そこへは、たくさんの花が植えてあった。
生きている花に見えるが、厳密にはデータで――ギルドホールに備え付けられる家具に分類されている。一本につき金貨十枚は必要だ。それが綺麗に……ざっと百本は植えてあるから、花壇だけで金貨千枚の計算になる。なかなか豪勢だ。
まあ、『聖喪』は借金を作ったが、逆に言えば資金を投入してギルドホールを買ったわけではない。多少は現金に余裕があるのだろう。
だから、べつにそれは良かった。問題を感じたのは、そこに居る人物の方だ。
「わざわざ呼び出して留守番してろとか……お姉様たちは横暴だよねー」
などと花壇の前にしゃがみ込んで……花に話しかけている!
間違いなく『聖喪』のメンバーだ。制服ともいえる白い修道女服姿だし、敷地内に居るのだから間違いないだろう。
花に話しかけるのも突飛だが……花の方も劣らず奇妙だった。
なぜか顔があったし、話しかけられて……踊るようにくねくねと動いている。まるで受け答えをするかのようだ。
「ふふ……お花さんは知らないだろうけど、私はこれでも偉いんだよ? 本当はお留守番なんて、誰か他の人に頼めるの。本当だよ? いばりんぼで命令できちゃうんだから!」
その台詞に、また花が踊って答える。間違いない。あの花は音か何かに反応して、動くように設定されているのだろう。
どうみても大人――色々な意味でだ――の女性がやるのは変だが……あのように心の中にいる友人と話すのは、見たことがある。妹が小さい頃によくやっていた。……さすがに、最近はやらなくなったが。
……わざとらしいが、咳払いをしてこちらに気づいて貰うことにした。
「ひっ! タ、タケル? な、なんで?」
しゃがみ込んだままそう叫び、頭を何かから守るように両手で庇う仕草をする。声は完全に裏返ってしまっていた。
まずいな……男に恐怖を覚えるタイプの人か? 驚かすつもりは無かったのだが……。
「『RSS騎士団』より、依頼してあった品物を受け取りに来ました」
努めて平静に話しかける。
「みっ……みてたの? いえっ! ……みてただろ?」
なぜか雑に言い直したが……なんでだ? それに声も聞き覚えがあるような?
「何のことです? それより……どこかでお会いしたことあります?」
見なかったことにするのが、武士の情けというものだろうが……これじゃナンパしているみたいだ。
「な、何でもないんだよ! えっと……それに……それなら! タ、タケルのことは……し、知らないよ! しょ、初対面だよ!」
後半はわざとらしく裏声になっていて……まるで浦安のネズミみたいだ。馬鹿にされているのか?
さらにしゃがみ込んだままそっぽを向いて、なにやらブツブツと独り言も言い出す始末だ。よく聞こえないが「あっ……お姉様たち…………よ、余計なことを……」などと言っている。
放置されたこちらは、どうすりゃ良いんだ?
あまりやりたくなかったが、頭上に焦点を合わせ、プレイヤーネームを調べる。
予想通り判らない。鼻の辺りまで顔を隠している修道女のベールが原因だろう。あれに『隠蔽』の『タレント』が付与してあるはずだ。その能力でプレイヤーネームや所属ギルドの公開範囲を設定することができる。
『聖喪』メンバーの大半が頼るアイテムで、無事入手できたようでなにより。そう胸を撫で下ろしたいところだが……話は進みそうもない。
それでも所属ギルドだけは判明した。間違いなく『聖喪』メンバーだ。ただ、珍しいことに二つ目まで公開している。
どうやら『不落の砦』と掛け持ちしているらしい。同盟を結ぶくらいだし、人材の交流もあるのだろう。羨ましい限りだ。
しかし、二つ目の所属ギルドまで公開しているのは、ちょっと理由が解らない。二つ目以降は、誰だろうと非公開にできるのに。
「……品物を受け取りに来たんです。誰か事情の分かる人に取り次いでもらえると……それに、中へ入る許可を頂いても?」
早いところ中へ入れてもらいたかった。……注目を引きだしている。
宅地分譲地のように何も無いだだっ広い区画に、ポツンと立っている茨の館。そして、その門前で問答をする男。……人目を集めないはずがなかった。
「そ、それ私! あと……庭までは制限なしで入れるんだよ」
庭のある理由が解った。ここは言わば……客間なのだ。例え正式な使者であろうと、館の中へは入れないつもりなのだろう。徹底している。
また、「留守番」という言葉から、面倒臭いことになりそうな予感もしたが……注文をつけられる立場でもないか。
とにかく許可は貰えたのだから、敷地内に入ってしまうことにした。すると――
「お客だ!」
「お客だ!」
「お客の人だ!」
と、先ほど踊った花が喋りだした。
どうやら顔のある花は、『警報機』を改変した物だったのだろう。不審者が侵入したとしても、たちどころに発覚というわけだ。
「しーっ……タケルは本当にお客さんだから、良いんだよ」
『聖喪』の女性にそう言われて、花たちは合唱を止めた。
ただ、そのまま嬉しそうに花を眺めだす。楽しそうだし邪魔をしたくないが……このまま放置されても困る。
促すように、助け起こそうと手を差し出した。
「それで……品物は? ここで受け取れば良いんですか?」
このゲームを初めてから、この程度のことは自然とできるようになった。環境が人を作るとは、良く言ったものだ。しかし――
たったそれだけのことで、顔を真っ赤に染め上げてしまった!
ベールで顔の半分しか見えないし、まだしゃがみ込んだままだし、さらに俯いてしまったが……それでも判る。真っ赤っかだ。
まずいな、気安かったかと反省していたら……おずおずと指先だけで摘むようにして、俺の手を取った。
それでようやく立ち上がってくれたが……俯いたままの顔はまだ赤いし、なんとも微妙な空気になる。こっちの顔まで赤くなりそうだ。
さらにはこんな礼まで言われる。
「今日は……優しいんだね、タケル……ありがとう」
……やはり変だ。照れさせてしまったことがじゃない。初対面じゃない気がする。
「……どこかでお会いしてますよね?」
「そんなことないよ! 今日が初対面だよ!」
例のわざとらしい裏声で即答された。……どこで会ったんだっけかな。




