パトロール――2
現場は少し開けていて、ちょっとした広場になっていた。
その広場に二つのグループがいる。
一組はカップルだった。男が一人、女が一人……実に良く見かけるリア充の番だ。
もう一組は……なんというか……説明に苦しむ感じの集団だった。
いや、説明はできる。それも恐ろしく簡単にできそうだ。
一言で言うと、野盗だろう。
しかし、これで山賊だとか盗賊なんかをイメージしてもらっては困る。そうじゃない。もっとなんと言うか……近未来的だ。……細かく言うのであれば、最終戦争の後で荒廃した感じか?
なぜか全員がモヒカン刈りだ。
さらに武装や防具も一種独特だった。
とにかくトゲが好きで好きでたまらない。そんな主義主張が聞こえてくる。
斧がお気に入りのようだが、刃先の反対側――斧頭には必ずトゲがついていた。
トゲは鎧にも施されている。皮鎧だろうと、鉄鎧だろうと、とにかくトゲトゲだ。
そしてクロスボウ。なぜか標準装備とばかりにクロスボウを持っていた。そして一様にボウガン形式――握りの位置がピストル状のもの――になっている。
数人の名前を調べてみれば、全員が同じギルド――『モホーク』に所属していた。
広場まで進軍したものの、気勢は殺がれている。何か色々と間違えてないだろうか? もちろん、『モホーク』の奴らがだ。
やや白けた空気の中、グーカがハイセンツにポツリと言う。
「ハイセンツ……お仲間だぞ」
「止してくださいよ! お、俺の髪型はアレとは違います! 『モホーク』という立派な名前があります!」
……なるほど。
そういえばモヒカン刈りのことを、モホークとも呼ぶのだった。そんなことをタミィラスさんが言ってた気がする。
「ヒャッハー! 堅物の騎士団がお出ましだぜぇ!」
一人が奇声を上げた。
非常に甲高い声で、少し気に触る。内容よりも、声だけで煽られている気分になりそうだ。さらに――
「ヒャッハー!」
と他の『モホーク』の奴らも唱和する。
なぜかその様子は……ちょっと楽しそうだ。……ちょっと意味が解らない。
ただ、説明されなくても、事情の方は把握できた。これは恐らく……カップルがこいつらに絡まれていたのだろう。そこへ俺達が到着という訳だ。
そして、さらに事態は複雑なのかもしれない。
『モホーク』……『モーホー』……もしかして、リンクスの情報にあったギルドは、こいつらののことか?
確定情報じゃないのが悔やまれる。俺達に敵対行動をしていたのなら、問答無用で対処すれば済む。
しかし、こいつらはどう見てもリア充じゃない。特に何もしないうちから、力ずくともいかないだろう。
かといって、過去に敵対していたのなら……ここで見逃すわけにもいかない。
「あー……お前ら……なんだ? そして何してたんだ?」
「俺達は、お前らの手伝いをしてやっただけだぜぇ! ヒャッハー!」
先ほどの甲高い声の男が、雄たけび付き答える。
再び唱和するように、他の『モホーク』の奴らも追従した。
……やっぱり、楽しそうにしか見えない。こいつらは、もしかして……『全日本ヒャッハー愛好会』とかその類なのか?
とにかく、こいつが『モホーク』のリーダーなのだろう。
名前を確認しておく……モヒカンという名前だ。……よくそんな名前が確保できたなあ。もしかしてβテストからのプレイヤーか?
「う、嘘だ! この森で狩りをするなら税金を払えって……」
カップルの男は、殊勝にも女を庇いながら反論したが――あれ? この女……灯じゃないか? 真っ赤な髪に、長いツインテール……俯いてて顔が良く見れないが、間違いない。灯だ。
「お前らがイチャついてたのがムカついたからだよ! ……別に文句はねえだろ、騎士団様よぅ?」
再びモヒカンが煽るように主張する。
「うーん……お前達は……俺達と同じ意見を持っているということで……つまり、入団希望者か?」
とりあえず意表を突いてみたら、なぜかモヒカンの動きが止まった。
非常に珍しいが、通信ラグか? 通信機器の不具合で、稀に動きが止まってしまうことがある。年に一回もない事故だが。しかし――
「す、すげえなアイツ……俺、お頭が黙るところを初めて見たぜ」
「奴が『RSS』のタケルだ……噂以上だな……」
などと、『モホーク』の奴らはザワザワしだす。……なんとなく失礼な奴らだな!
ようやく通信ラグが収まったのか、モヒカンが言い返してきた。
「規律、規律とうるせえ『RSS騎士団』なんぞに入りたかねぇ! 俺達は自由を愛してるんだよ!」
「……自由? なら『自由の翼』系列なのか?」
「俺達は良い子ちゃんじゃねぇ! 自由だ! 何にも縛られず、自由に生きてんだよ!」
解ってきた。こいつら、いわゆる完全ノーマナープレイヤーだ。ギルドにまで発展するのは珍しいが、見ないこともない。
この手のタイプは相手にすると厄介だ。
完全な自由の中には当然、『約束を守らない自由』も含まれる。いかなる約束を引き出しても、全く当てにならない。つまりは交渉するだけ無駄だ。
「あー……面倒臭くせえ。とりあえず、この場に居る全員を殺すか。それが良いな。よし、各員せんと――」
「ちょっと待てぇ! なんでその結論になる! まだ話は始まったばかりだろうが!」
「……なんだよ。俺達にだって、お前らを皆殺しにする自由があるだろうが」
再びモヒカンの動きが止まった。
こんどは通信ラグではない。完全自由のルールは穴がありすぎる。この理屈を覆せないだろう。
「あ、ありえない……アイツ……出会って一分もしない内に、皆殺し宣言したぜ?」
「クレイジー過ぎる……戦争になることを、屁とも思ってねぇ……」
『モホーク』の奴らも再びざわめいている。そして――
「凄え……やっぱ凄えぜ……。タケル、あんたは別格だ……」
と言いいながら、大男が進み出てきた。
なんというか……気持ち悪い。眼は熱病に浮かされたようだし、口からは涎を垂らさんばかりだ。その視線から感じるのは……興味? いや、怒りか? そのどちらでもなく、焦燥かもしれない。
こんな風に見られる心当たりはなかった。そもそも、全く知らない奴だ。
また、優に二メートルを超える巨漢だが……どことなくアバターが嘘くさい。これは改造して大きくしているのか?
「おい、誰かデクを抑えてろ! まだ話の途中だ!」
モヒカンが大男――デクを下がらせるように命じる。そして――
「俺達を皆殺しにして……間違いだったらどうすんだ?」
と、俺に向かって話を続けた。
「そん時は……『悪かった』で終わりだな。それ以上のフォローいるか? いいんだぜ? 文句があるなら力でかかってきても。相手になる」
相手がクレイジーなら……それよりクレイジーに振舞えばいい。多少強引だが、これで大人しく交渉のテーブルに着くだろう。
思ったより簡単に片付きそうだ。あとは宿屋の一件の裏を取れば……そう思ったところで、軽妙な音楽が森に響き渡る。そして――
「まてぇい! お前達っ!」
と大声がした。




