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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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パトロール――1

 ギルドホールや店舗にばかり感けてはいなかった。もっと地味で、日課とでも言うべき任務もある。パトロールも、そのうちの一つだ。俺達『RSS騎士団』の尊い献身があるからこそ、この世界は清浄に保たれている。

 ……パトロールは情報部の任務ではないが。

 狩場を回るついでにモンスターを狩りながら、リア充どもを発見したら退治。それがパトロールの内訳となる。結局は暇な奴で、狩場に繰り出しているだけだから……他のギルドで言うところのギルドハントに相当するのかもしれない。


 『ゴブリンの森』を進む俺達の前の方では、グーカがハイセンツに説教をしていた。

「お前は絶対、人の話を聞かないで大失敗するタイプだ。間違いない。俺には判る」

「えー……でも軍曹……タミィラスさんは絶対、俺のことをオモチャにして遊んでいるんです!」

「それが話を聞いてない証拠だってんだ。タミィの姉御に遊ばれているうちが華なんだよ。あの人はな、とても一筋縄でいくような――」

 男は歳をとると説教好きになるというが……そんなに熱心に後進の指導をするなら、最初から担当して欲しかった。

 というのも、ハイセンツは微妙な問題を、俺に持ち込むかもしれないからだ。

 タミィラスさんはガイアさんのお弟子さんでもあるが……『組合』の幹部メンバーでもある。いや、『組合』の内部事情までは掴みきれていないが……少なくとも『組合』に入る条件は満たす。それは俺の『眼』でなら、一目瞭然だ。

 もしハイセンツが『鑑定士』としての俺に依頼をしてきたら、どうすればいいのだろう? ……板挟みになりそうな予感がする。

「どうかしたの、隊長?」

「いや、なんでもないよ。話を続けて」

 隣りにいるリンクスは俺の話し相手になりながら、先行している斥候役に忙しく指示を出していた。

 器用にもハンドサインだけで連絡を取り合っている。俺には半分も理解できない。これはいまや失われていく、まだVRMMOが便利じゃない頃のプレイテクニックだ。


 リンクスは……いや、グーカも、それなりにキャリアの長いMMOプレイヤーなのは間違いない。なんせ俺より年上だ。その可能性の方が高い。

 ……しかし、二人とも俺やカイなんかに――年下の若造に「隊長だ」「その副官だ」などと威張られて、気にしてないのだろうか? いや、二人に限らず、年上のメンバー全員もだ。

 年上のほとんどは社会人で、学生とは違う。

 俺なんかが情報部を仕切っているのも、長時間ログイン可能なのが大きい。社会人は技量や才覚以前で、圧倒的にログイン時間が足りな過ぎだ。

 その辺りの……いわばリアルとゲームの都合を、何かで――例えば『年下のリーダーを容認する』だ――折り合いをつける。社会人プレイヤーには、それが求められるのだろうか?

 色々と考えさせられること、悩むことは多い。

 ……年上だが役職で下になったメンバーに、フランクな言葉遣いは失敗だったかもしれない。役目での上下など無視して、普通に敬語の方が良かったんじゃないだろうか?

 しかし、現状でお互いに助かる場面も多い。

 階級制度を導入する前から、立場上、『指示』や『命令』をしていた。例えば「突撃しろ」を敬語にしてしまうと、「申し訳ありませんが、敵軍に向けて進軍していただきたい」となる。……言う方も、言われる方も興ざめもいいところだ。

 標準的な礼儀作法を重視するべきか、お互いの快適さや楽しさを優先するべきか……俺の中で答えは出ていない。


「――で、一時的に宿屋の封鎖が破られたみたいなんだよ。その『モーホー』とかいう奴らに」

「封鎖が解かれた? どうやって? ……でも、いまは封鎖できているような……取り返したのかな?」

 事実だとしたら大問題だ。『RSS騎士団』と対立する集団がいることになる。

「それと隊長が気にしている……うーん……隊内部での予算配分?も……うちとは大きく違うみたいなんだよね」

 言い辛そうにリンクスは話を続けた。

 古参の――このゲームより前からの伝を頼って調べたのだろう。つまりは友人を疑うわけだから、後ろめたく感じているのも理解できる。

「その『モーホー』っていうのは……カイから聞いたことがあるかも。要注意ギルドリストに入れるか、検討中だったような?」

 ハンバルテウスの奴め……負けたのなら負けたで、報告すればいいものを。変に隠すから、事実確認が全くできやしない。

「しかし……変な名前だよね。ウケ狙いなのかな? そういえばカイは?」

「奴は『詰め所』でふて腐れてる。変に頑固だから」

 カイは情報部のパトロールに否定的だ。いくら楽しそうだからといって、自分が反対したことに参加は出来ないのだろう。損な性格をしている。

「『詰め所』と言えば、あそこにあった変な人形。あれは隊長の――」

 そこまで言いかけて、リンクスは無駄話を止めた。

「……隊長、全員に警戒態勢を。斥候が『事案』を発見……いや、『敵勢力と遭遇』? どっちなんだ? 進軍も要請してる」

「各員、警戒。突撃体勢へ」

 その報告を聞いて、俺はパーティメッセージで全員に指示を飛ばす。


 『事案』とは俺達『RSS騎士団』の符丁で、狩場でリア充を発見したことを意味する。

 男女二人が一緒程度なら見逃さなくも無いが……リア充がよくやる類のことをしていれば、正義の鉄槌を振り下ろす。

 リア充が交尾か、交尾前の諸々をしているくらい見逃せ?

 それが許せないから、俺達は『RSS騎士団』なのだ!

 『敵勢力と遭遇』は久し振りに聞く。

 いま現在、『RSS騎士団』に敵対勢力は存在しない。βテストまでに敵と認定した集団は、全て滅ぼした。つまり、正体不明の敵か?

 手勢は情報部の暇な奴だけだから、戦力の判らない勢力の相手には不十分だろう。

 しかし、敵に背中を見せる訳にもいかない。

 これは意気込みなどではなく、単なる実利的判断だ。

 暴力を看板に掲げる以上、その振り下ろす場合は選んではいけない。『振り下ろさない理由』を作ってしまえば……それは必ず敵に利用される。


 早くもグーカは臨戦態勢に入っていた。

 その名前の由来どおり、恐ろしげな『グルカナイフ』を抜き放つ。

 『グルカナイフ』は根強く接近戦最上の武器と支持されている。日本にあるもので一番近いものは、鉈だ。それも戦闘用の。

 確かゲーム的には『片手斧』を改変だったか。しかし、その独特なシルエットの凶器を、各々の手に持っている姿は……見慣れている俺でも恐怖を覚えてしまう。

 やや散開していた前衛陣がグーカの周りに集まり、壁を作った。……可哀想にハイセンツは前衛の壁から弾き出されている。いかに戦闘力に重点を置いた『僧侶』でも、本職には敵わない。

「こっち! ハイセンツはこっち!」

 ちゃっかり俺の近くまできていたハチが、ハイセンツを含む『僧侶』を集合させていた。

 ……ハチは青い顔をしてやがる。

 おそらく「平和な時にパトロールへ参加し、ノルマを果たそう」とでも考えていたのだろう。あてが外れてガッカリなのだろうが……こいつ、なんで『RSS騎士団』に入ったんだ? 抗争が激しいときの方が、みんなは喜んでパトロールに参加したがるのに。全くもって謎だ。

 俺も前衛として壁に参加したいところだが……指揮官としてはそうもいかない。現場により上位の指揮官がいないのだから、万が一でも俺が殺されれば……それは戦術的敗北とも受け取られる。

 カイの代わりに『魔法使い』を統率している団員の報告があった。

「隊長、『魔法使い』は準備できてます」

「とりあえず、MP切れは一人に集中させないで。あとは任せるよ」

 隣にいたリンクスが俺へ肯く。弓兵の再配置が済んだのだろう。

 戦力不十分の評価は失礼だったかもしれない。十分にやれそうだ。情報部の頭脳であるカイがいないのは心許無いが……両腕たるグーカとリンクスは揃っている。

 不謹慎だが、少し笑みが漏れた。

「それじゃ……いくか。全軍前進」

 そして俺達は戦場へ向かった。

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