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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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『アキバ堂』見聞録――5

 すぐに誰もいない理由がわかった。品揃えが実用的過ぎる。それに通路じみた狭さだ。店内とは繋がってないかもしれない。

「こっちは紙類みたいっすね」

「だな……すいませーん、タケルです! 挨拶に来ました!」

 念のために声を掛けてみると――

「おーっ、坊主か。入れ、入れ」

 と奥の方から返事がした。どうやら繋がって入るようだ。許可も貰えたのだし、大手を振って中へと進む。

 俺たちが入った辺りは、まるで文房具屋のようだ。多種多様な紙類や、実用的な筆記用具が並んでいる。覚えている魔法を忘れるためのアイテム……空白(ブランク)の魔法書とペンを流用して作っているのだろう。

 しかし、少し奥に進んだだけで、馴染み深い文房具はなくなり……使い道の判らないものだらけになっていた。この一面に模様が描かれた薄い紙はなんなんだろう? 折り紙にしては地味すぎるし。

「……この付け爪みたいの何ですかね?」

 リルフィーが奇妙な代物を摘んで、不思議そうに首を捻っている。

 俺にもよく判らない。敢えていうならば、万年筆とかいうレトロな筆記用具の先っぽだ。

「この大きなパネルは…………あっ……光った」

 リルフィーが奇妙な板を弄っているのを見て、唐突に思い出した。

「あっ! その爪みたいのは筆記用具だ。凄い昔の漫画で見たことがある! 漫画を描くのに使うんだ!」

「へっ? 漫画? 漫画ってのはパソコンで描くんですよ」

「いや、そうだけどよ。パソコンがなかった昔は、それを使ったらしいぜ? 『G』だとか『丸』だとかいうんだ。こんな爪みたいの……どう使ってたんだ?」

「パソコンがない? どんだけ昔の話なんすかっ! ……どれくらい前でしたっけ? 歴史の成績はいまいち……」

 俺だって自信はない。答えず誤魔化して先へ進む。しかし、本当に狭い。

 ついに奥まで突き当たりると、道は二手に分かれるようだった。

 正面には扉。右手には扉はないが……膝の辺りまでの長さのある、奇妙な暖簾のような物で目隠しされている。それには「ここより『イケブクロ道』臨時店舗」と書いてあった。

 なんだろう? 先生方の別ブランドだろうか? 『道』なのは、『堂』の誤字か?

 とにかく、どっちに先生方が居るのか確かめないと。そう思って、まずは暖簾の方へ手を伸ばすと――

 その手をアリサに掴まれた! 

「タケルさん! その道へ行かないでください! そちらへ行かれるのなら……私は舌を噛んで死にます!」

 三人とも、ようやく追いついて来たんだろうが……とんでもないことを口走っている。

 ネリウムもニコニコとリルフィーの耳を掴みながら宣言した。

「私もアリサを支持します。リーくん? この先へ進むのなら……折檻しますよ?」

「い、痛いよ、ネリー。それって、いつも通りに理不尽というか……はい、解りました! この先へは行きません!」

 触れんばかりにネリウムが、リルフィーに顔を近づけたので……どんな顔をしていたのか見えなかった。ただ、なぜかクロが、驚くべき俊敏さで安全なアリサの影の中へ逃げ込む。……逃げ足の速い護衛ってどうなんだろう?

「な、なんだ……大げさだな。正しい道を知っているなら、そう言ってくれれば……」

 そう誤魔化しながら、扉の方をあけた。……たぶん、追求しないほうがいい。


 扉を開けると、先生方の白熱した議論に出迎えられた。

「くそっ! 運営の奴ら、全く解ってねぇ!」

「がっかりでござる……失望したでござる」

「……そうだ! 署名運動を始めよう!」

 そこは店員用のスペースだった。店舗とはカウンターで区切られており、その向こうでは客が商品を物色しているのも見える。

 特に仕事もない先生方はカウンター内で待機していたのだろうが……なぜかメイド服を着たマネキンを前に、数人で議論していた。

「……どうしたんです?」

 議論に加わってない先生に聞いてみた。

「なに……当てが外れてがっかりしてるのさ。NPC店員を雇用できると思ってたからな。用意した服も無駄になっちまったし……。『嫁』をホイホイ変えようとするから、こんな目に遭う」

 そう説明してくれたが、この先生は確か……βテスト中は『MMO(もも)子』に熱中していたのに、正式サービスが開始したら「『MMO(もも)タン』は俺の嫁」と言い出していたはずだ。

「そ、そうなんですか。……それより、盛況ですね! おめでとうございます!」

 深く突っ込まないことにしておく。

「おう、ありがとうよ! ……坊主、手ぶらか?」

「……大家が引っ越し祝いって変じゃないですか?」

 言い返しておくが、さすがに小声でだ。それは秘密にしておきたい。

「気が利かねぇなぁ……少しはアリサを見習え。ちゃんと差し入れ持ってきている。ありがとうな、アリサ」

 慌ててアリサが差し出した箱――おそらく菓子折りか何かだろう――を嬉しそうに受け取りながら、悪態も忘れない。

「おい、お前ら! 差し入れが届いたぞ! とりあえずコレ食って頭を冷やせ!」

 そう言いながら仲間に配りだした。俺達のことは、ほったらかしだ。なんというか……相変わらず自由だなぁ。

「それじゃあ……俺は『上』が気になるんで」

 暇を告げても、面倒臭そうに手を振られるだけだった。


「あれ? もう行っちゃうの? ちゃんと挨拶したほうが……」

「うん? 今日見せたいのは別の……」

 不思議そうなカエデに答えつつ、入ってきたのとは別のドアを開ける。予想通りに外へ、店の裏手へ出られるようだ。そのまま全員を引き連れ、裏手へと回る

 そこは狭苦しい路地裏だった。

 理想的だ。こちらからは大通りの様子が、ほとんど窺えない。それは大通りの方からも同様だろう。出入りを見られないで済む。

 二階へと続く幅の狭い階段へ、皆を誘う。

「こっちだ」

「あー……このお店、二階もあるんだ?」

 そのカエデの感想に、大事なことを思い出した。

「アリサは理解してるよな。三人とも、これから見るものは他言無用だ。秘密は守ってくれ」

 やや大げさだが、機密情報だ。解ってもらう必要がある。

 慣れていないカエデだけが、緊張した面持ちで肯く。

「……まあ、詳しくは中で」


 階段を上りきった先は、短い廊下になっていた。五人全員が上ると狭いくらいだ。扉が突き当たりに一つ、辺の部分に一つある。

「前もって登録してある――あるはずだ。皆が開けれるのはこっちの扉だけな」

 そういって辺の部分にある方の扉を指し示す。

 この説明は正確ではない。俺は俺自身に許可していないが、アリサは突き当たりにある扉を開けられる。だが、そこまで説明しなくても良いと思っただけだ。

「あっ……私、取ってくる物があったのです」

 なぜかネリウムがそんなことを言って、『突き当たり』の扉を開けて入っていってしまう。……どういうことだ?

 扉の先も廊下が続いているのが見える。

 ちょうど廊下に出ていたのか、ニカーブで顔を隠した『HT部隊』の隊員と眼が合った。お互いにビックリしながら、なんとなく会釈を交わす。

 その微妙に気まずい沈黙の中をネリウムはスタスタと進み、どこかの部屋への扉を開けて入ってしまった。

「ど、どういうことだ?」

「その……ネリーは……私達の協力者と言いますか……」

 俺の問いかけに、アリサがしどろもどろに答えた。

 機密的な何かか? 黒幕がジェネラルなのか、まだ見ぬ『HT部隊』の隊長なのか知らないが……なかなか侮れない。協力者のネリウムは許可を貰っていた。そういうことなんだろう。

 そんなことを考えているうちに、ネリウムが戻ってきた。

「お待たせしました」

 思いっきり出鼻は挫かれたし、考えるべき宿題も残ったが……後回しだ。

「……よし、それじゃ入ってくれ。見せたかったのは、この部屋なんだ」

 そう言って、俺は扉を開けた。

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