表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/511

『アキバ堂』見聞録――4

「ところで『指輪』は? 剣ばかりじゃない、この辺」

 カエデはショーケースへ注意を戻し、俺達に問いかけてくる。

 それを聞いたリルフィーは、我が意を得たりとばかりの満面の笑みとなった。

「違いますよ。『ゆびわ』と言ってもアクセサリーの方じゃなくて――」

「カエデは『指輪』が見たいのですか? それなら、あちらですよ」

 ネリウムがカエデを誘って、連れて行ってしまう。

 わざわざ剣を抜き、顔の前で掲げたリルフィーには、ほとんど注意を払われなかった。リルフィーは言葉を続けられず……そのポーズのまま固まってしまう。

「あ、あの……か、かっこよいと思います! ……よく解らないですけど」

 気を使うようにアリサも言い残してから、カエデとネリウムに合流しに行った。

 優しさが……気配りが痛い。

 細かな武器の違いとか、女はまるで興味を持たないもんなぁ。さすがに哀れに感じたので、剣を持った手を下ろしてやる。

「……ほら。とりあえず、剣を収めろよ」

「……はい」

「俺はいいと思うぜ? 武器に拘り持つの」

 リルフィーは何ともいえない情けない顔をしていた。

 装備の自慢も、MMOの楽しみの一つだ。だから女性陣の振る舞いは、少し人情味に欠けるといえた。お義理でも称えてやるべきだろう。

 だが、三人とも――

「色んな指輪があるんだね!」

「凄い……こんな大きな石が……これルビーですよね? しかも綺麗な赤……」

「この日の為に仕入れていたのでしょう。使い道の無い宝石類を、このように使ってくるとは……」

 と、指輪に夢中になってしまっている。

 相手が悪かった。あれじゃ『おニューの剣』なんて、単なる鉄の棒でしかない。

「しかし、なんでこのゲームは『指輪』の装備カテゴリーが無いんですかね? いや『指輪』に限らず、何もかもがアクセサリー扱い。それに一種類だけって……変じゃないですか?」

 リルフィーは早くも立ち直った。意外とタフなところを見せる。

 それに奴の言うように、装備の少なさはプレイヤー達の不満の種だった。鎧とアクセサリーだけなのは、相当に少ない部類だろう。

「これは狙った戦略らしいぞ? そのうち……例えば『指輪』カテゴリー追加とかに、仕様変更するらしい。それだけでゲームバランスをかき回せるし、イベントになるからな」

「ありがちなのでも……『ヘルメット』や『グローブ』、『ブーツ』、『マント』……しばらくネタ切れの心配ないですね!」

 無邪気にリルフィーは喜んでいるが……運営の目論見通りだろう。

 常に目先を変えて客を喜ばせる。その為に先々を見据えた計画だ。

 ゲームとしての観点でも、常にバランスを変化させるのは重要らしい。

 理詰めなら最強の手法が、必ず発見される。しかし、最善手が確定すれば、ゲームは徐々に死んでいく。それを最も簡単に防ぐ方法は、定期的に大前提を覆すこと……新仕様の導入だ。

 逆説的にゲームは――MMOは未完成であるのが望ましい。

 ……すべて『教授』の受け売りだ。

「まあ、しばらくはアクセサリー一つで我慢だ。どのみち、入れる『タレント』もないしな」

「そうだ! こんど『オーガ』か『トロル』を狩りに行きません? レアを当ててがっぽり一攫千金を――」

「まだ無理だろ? 少なくとも俺とお前の防具強化が終わらなきゃ」

「じゃあ、『魔』の『エッセンス』狙いします? なにが手頃かな……」

「いやいや……レアを狙うより、レアを買えるだけ稼ぐ方が早いだろうが。『出ないからレア』ってよく言うだろ?」

 これは昔からMMOプレイヤーに伝わる格言だ。レア狙いを戒める言葉でもある。レア狙いで成功した奴を、俺も見たことが無い。

「うぇ……でも、『スライム』狩りは飽きましたよ……」

 それに、こんな会話も定番でしかない。

 運営やシステムの悪口で盛り上がり、今後の計画に頭を悩ませる。それは標準的なMMOプレイヤーの姿だろう。

「うーっ……この指輪……ちょっと欲しいかも」

「私はこっちのが……石は小さいですけど……誕生石ですし……」

「こちらの『一つの指輪』には、興味がそそられますね……」

 三人の切なげな会話が聞こえてきた。

 物欲を刺激され、欲しい物に焦がれる。これもMMOプレイヤーの正しい姿だ。

 それにしても微笑ましい。欲しい物が完全なファッションアイテムとは。

「が、我慢! 我慢する! まだローンあるし」

「……カエデは何を愚かなことを言っているのです」

「へっ?」

「古来より、指輪だけは買っていただくものです」

「私も聞いたことが……誕生石の指輪を贈っていただくと……幸運が訪れると……」

「そもそも指輪を贈るというのは、『俺の全財産は貴女のもの』という誓いなのです。これは必ず、買っていただかなければ――」

 ……まずい話の流れだな。

 貴金属や宝石とはいえ、ゲームの中での話だ。高いことは高いが、買えなくもない値段に違いない。しかし……。

「おい、リルフィー……お前、どうすんだよ!」

「へっ? 何がです?」

「このままだと……三人に指輪を買ってやる流れになるぞ」

「そうなんですか? ……お、俺はべ、別に……ネ、ネリーに贈り物をするくらい……」

 この野郎、裏切るつもりか? 恥ずかしそうだが、満更でもない顔をしやがって!

 それにお前は良いかもしれないけどな、俺は困るんだよ!

「お前、剣を買って素寒貧って言ってただろうが。……俺は貸さないからな」

「あっ……そうだった! ど、どうしましょう?」

 やっと誤魔化すのに成功した。最近、余計な知恵ばかりつけやがって。

「決まってんだろ! 逃げるんだよ! ぐずぐずしてると、置いていくからな!」

「ま、待ってくださいよ!」

 俺達男二人は、仲良くその場を逃げ出すことにした。


 今日の目的は買い物ではなく、挨拶にきただけだ。

 だから行列に並ぶ必要は無いだろうが、無視して入っていけるほど肝は太くない。

 それに『北東西南(ニュース)社』の奴らも出張ってきていて、行列風景を撮影してやがる。今日中には奴らのホームページに流されることだろう。

 ……レポーター役は亜梨子だ。テレビでタレントがやるような妙なハイテンションで、なにか捲くし立ててる。お前は女子アナか! ……いや、一応はそうだった。

 俺を見つけたのか、なぜか亜梨子は手を振ってくる。やめろ! 目立つだろうが!

 とにかく、絡むと目立ってしまうし、何かしらのドジにも巻き込まれそうだ。どうしたものか……。

「タケルさん、あっちの入り口は人がいませんよ?」

 リルフィーが指し示す方には、確かに誰も居ない。

「あっちから入らせてもらうか」

 それで俺達は脇の方から入ることにした。女性陣とはぐれてしまうが、そのうち追いついてくるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ