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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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罪と暴力――3

 地道な聞き込みで、男の行動範囲や時間帯を絞り込めつつあった。

 男が好む狩場は『ゴブリンの森』で決まりのようだ。

 理詰めで絞っていけば、ここが最有力候補になる。聞き込みでも、裏付けとなる情報は多かった。

 なにより初期の狩場だ。訪れるプレイヤーのレベルも低い――弱い獲物を期待できる。

 そしてプレイヤーが初期に行ける狩場のうち、最も視界が開けていない――物陰が多く、待ち伏せるのにもってこいだ。

 狩場の難易度が低ければソロプレイヤーも多い。男も目立たないし、独りで行動している獲物を狙いやすくなる。

 単独行動の獲物という縛りは、男も単独行動と推測できたからだ。

 この結論に裏付けはあった。俺が捜査を続けた理由でもある。

 男は何度か失敗していた。それも事件から何日も後にだ。

 ペアで『ゴブリンの森』に入ったプレイヤーが襲われていた。被害者の話を総合すると……どうやら男は、ペアのプレイヤーをソロと誤認したらしい。

 相手が二人と判ってすぐ、男は逃げを打ったそうだ。用心深いのか?

 新たな収穫は、男の背格好や装備などの目撃証言……同じものが増えただけだ。

 別の日には、ソロのプレイヤーが襲われていた。

 こちらは被害者の方が、すぐに逃げを打ったらしい。練度の高いプレイヤーだったのだろう。襲撃されてすぐ、反射的に『翼の護符』を使ったそうだ。

 被害が無くて何よりだったが、新しく情報も増えない。

 そして最悪の予想だけが残った。

 男は再び同じことを目論んでいる!


 ここまでの情報を整理すると――

 男は二十台前半。特徴的なアバターではない。

 事件と二件の未遂事件は、同一人物の犯行と思われる。

 装備から考えて、『盗賊』の可能性が高い。いまのところ魔法使用の目撃証言なし。

 ペア誤認から、探知系のスキルは修得していない。

 失敗で即時に撤退する程度の、判断力と用心深さはある。

 『翼の護符』で逃げられたところをみると、ゲームセンスは低い。


 これが捜査の進展状況だったが、俺は内心、かなり焦っていた。

 俺が知っているのは、未遂を含めて三件だ。それだけだが、しかし……その間隔が徐々に狭まっている気がした。

 明確に男は懲りていない。もしかしたら男は、この反吐が出ることを……楽しんでいる。少なくとも最後の未遂事件の段階で、躊躇いを感じさせない。

 この手のことはエスカレートするものだという。歯止めが利かなくなって、自滅するなら問題ない。

 気懸かりなのは男の学習能力が不明なことだ。下手に経験を積まれたくない。

 粗がありすぎる。だが、それは現段階の評価に過ぎない。

 このままなら、俺だけでも捕捉できる。

 しかし、経験を積んで賢くなられたり……協力者を獲得されたら最悪だ。人数が増えたら、一気に可能なことが増える。

 『ゴブリンの森』を見下ろしながら、臍を噛む。

 他人事の様に言っている場合じゃない。俺だって独りで出来ることは、高が知れてる。誰か仲間を募るべきだ。情報提供程度でなく、行動もしてくれる仲間を。

 だが、確証がない。

 事件といえるものは正式には一回だけ。二つの未遂事件には、俺だけが勝手に関連性を見い出しているとも言えた。男は俺の想像の中だけの存在なのかもしれない。

 ……駄目だ。

 この程度で一緒に行動してくれそうなのは、リルフィーくらいしか心当たりがない。奴なら何もかもが見当外れだったとしても、笑い話にしてくれそうな気がする。

 アリサやネリウム、カエデも手伝ってくれそうだけど……なぜかこれは、男がけじめをつける問題に思えた。……何故だろう?

 よし! 次にリルフィーに会った時、恥を忍んで協力を頼むことにするか! もし嫌がったとしても、取引に使える奴の黒歴史は一つや二つじゃない。

 そんなことを考えていたら、『ゴブリンの森』へ入るカエデの姿を目にした。

 遠く目だが見間違いじゃない。あれはカエデだった。


 猛烈に嫌な胸騒ぎがする。

 なんで俺はこんなところで……わざわざ城壁によじ登ってまで『ゴブリンの森』を監視してたんだ?

 そろそろ危ない、可能性がありそうだと『思った』からだ。

 なぜだ?

 解らない。とにかく相手のやりそうなことを考えていて……「そろそろだな」となぜか『感じた』からだ。

 こんなのは勘に過ぎない。

 それでも急いでカエデを『ゴブリンの森』から逃がすべきだ!

 間違っていたら、笑われればいい。それだけで済む。それに――

 俺は走り出すべきときに、また走り出さないつもりなのか?


 城壁から飛び降りかけて、慌てて思いとどまる。

 そんなことをしたら落下ダメージを喰らう。下手したら死亡だ。死んでる暇なんて無い!

 急ぐことと慌てるのは別のことだ。まずは落ち着け!

 城壁を降りながら考える。

 ……走り回って『ゴブリンの森』を探すようなことをしては駄目だ。

 可能な限りモンスターに関わらず、それでいて処理しながら進まなくてはいけない。万が一の場合、すぐに武力がいる。そのときにモンスターとじゃれてる余裕は無いだろう。

 『戦士』ができることは、計算可能な戦闘結果を得ることだけだ。一発逆転だとか、必殺技だとか……そんな便利な方法は持っていない。

 メニューウィンドウを開き、カエデに個別メッセージを送る。すぐに――

「いまボクは狩り中なんだ! あとで連絡してね!」

 という応答メッセージが流れる。最悪だ! 個別メッセージは切らない様、口を酸っぱくして言ってあったのに!

 そのままログインしている知り合いを探す。

 ……駄目だ。事情の説明無しで、すぐに動いてくれるような奴がいない。最も簡単なのは、『ゴブリンの森』をプレイヤーだらけにすることなのに。

 リルフィーは、こんなときに限って居やがらない。八つ当たりし過ぎたツケか?

 『RSS騎士団』は……もっと駄目だ。団体行動の概念が無い。下手したら集めている間に、手遅れになってるだろう。

 最善手は……襲い掛かる『ゴブリン』を最短ペースで斬り捨てながら、誰よりも先にカエデを見つけることか? もちろん、無理して死亡など、以っての外だ。

 覚悟を決め、『ゴブリンの森』へ入った。


 できるはずだ。

 最短時間で倒すことはもちろん、最小限の被害で切り抜け続ければいい。

 手短に『回復薬』の手持ちを確認しておく。幸いにも重量制限ぎりぎりまで、限度一杯の数だ。

 日頃の習慣に感謝した。これはいわば酸素ボンベだ。尽きてしまう前に、カエデを探し出さねばならない。

 いつもの回避や守りを最優先、安全なときだけ反撃でちんたらやってられない。

 やはり、ここは……相手の攻撃のモーションに合わせて、その隙を狙って反撃しながら避ける……つまり回避と攻撃を同時にやるしかないか?

 口で言うのは簡単だが、実は剣術などの究極理念に近い。

 時代劇では数人相手に連続して披露してくれるが……そんなことが出来れば誰も苦労しないだろう。実際は一人相手にやるのも大変だ。

 だが、MMOでは……特に『戦士』ソロなら必須テクニックとなる。MMO特有の逃げ方、誤魔化し方もなくもない。『ゴブリン』程度の雑魚なら俺にでも――

「カエデ、いるか? 聞こえたら返事をしてくれ!」

 しかし、俺の呼びかけに応えたのは……『ゴブリン』だった。

 森への潜水が始まる。

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