攻略分析チーム――2
「グーカとリンクスだとか……他の連中は何してんだ? ログインはしてるよな?」
「『第四小隊』の連中はパトロール中です。隊長はご存知のはずですが?」
話題を変えようと何の気なしに言ったのだが、猛烈な嫌味で返された。薮蛇だったか。
現在、『RSS騎士団』では第三小隊までしか編成されていない。カイの言う第四小隊とは、パトロール当番が無いはずの情報部が駆り出されたことを意味している。
ただでさえ忙しいのに、他所の部署に人員を取られたらたまらない。それがカイには我慢ならないのだ。
「パ、パトロールは大事な任務だよ? それに狩りも兼ねてるから! やっぱ偶には身体を動かさないと!」
「情報部の任務だって大事です!」
パトロールとは『RSS騎士団』が自主的に行っている狩場などの巡回だ。
我々の敵であるリア充どもがいちゃいちゃしていれば天誅を下す。それはとても崇高な任務だ。大目的と言ってもいい。いかなる犠牲を払ってでも為さねばならない。
リア充の中には催してきたら場所など構わない馬鹿者すらいる。リア獣という当て字は間違っていないんじゃないかと思うくらいだ。
それに仕様変更で現在は不可能だが……相手に同意を得ずに色々としようとする奴らすらいた。俺達が『セクロスのできるVRMMO』の世界を清浄化してなければどうなったことか。一般のプレイヤー達が俺達の尊い献身に、まるで敬意を払わないのが不思議でならない。
「ふ、副団長に泣きつかれると――」
「隊長がパトロール編成会議にも顔を出すからでしょうが!」
どうにも旗色が悪い。助けを求めてアリサの方を見てみるが、曖昧な苦笑いで応じられる。どうやら独力でこのピンチを切り抜けるしかなさそうだ。
「しょ、しょうがないだろ! 目を離すと第一小隊の奴らが無茶苦茶に……それに第三小隊の人達はログインの時間帯が合わないんだから、誰かが配慮してやらんと……」
「その為に副団長の仕切りなんです! だいたい第一小隊の隊長より、タケル隊長の方が階級は上じゃないですか! 面倒臭かったら階級を盾に、ゴリ押しすれば良いんです!」
「……我々は有志の集いなんだし、そういうのは……軍隊じゃないんだから……」
「階級制度導入に熱心だった幹部は、ハンバルテウスとあの腰巾着と聞いてます。自業自得でしょうが!」
どうして幹部会議の顛末まで知っているのか不思議だが、カイの言う通りではある。
そして第一小隊隊長ことハンバルテウスが未だ少尉で、階級制度導入に反対だった俺がいまや大尉なのは皮肉にしか思えない。
「か、階級といえば! 俺とあわせてカイも昇進だ! 少尉だからこれからは士官だな! その代わりに俺の副官として一緒に情報部を切り盛りしてもらうけど――」
思いつきの様な感じで言ってしまったが、前もって決めていたことだ。仕事が増えるなら副官の任命権くらい貰わねば割に合わない。これでカイも少しは俺の苦労を、と思ったところで――
「隊長にしては悪くない考えです。そうですね、少尉になるなら……これからは私がパトロール編成会議に出席して、直接ハンバルテウスの奴を――」
などと物騒なことを言い出す。まずい! これじゃまるで……けしかけているみたいだ。カイが乗り込んでいったら絶対に揉める!
「そ、そうだ! なにか話があるって言ってなかったか?」
一発逆転を狙って話題を変えることにしてみたが……なんとか成功した。まだ文句があったようだが、不機嫌な顔のままカイは書類を差し出してきた。
しかし、その書類の表書きにはとんでもない文字があった。それにとてもぶ厚い。
「……『三十レベル到達計画』? これオープンβテスト中に検討している計画か? もう残り時間は十日も無いだろ。いけんのか?」
思わずそんな感想が漏れた。カイが計画書を出す以上、勝算はあるに決まっているが……それでも無茶に思える計画だ。
「……正直、微妙かと。それでも三十レベル到達時の結果を知ってから正式サービスに行くのと、知らないで行くのは天と地の差があります」
パラパラと計画書を流し見をしていくが、残された日時の細かなタイムスケジュールなども添えられてある。……はっきり言って殺人的なスケジュールだ。メインとなる被験者はβテストが終わる瞬間まで、可能な限り経験点を稼ぎ続けることとなる。
「……こんなスケジュールをこなせる奴いないだろ。これじゃ寝る以外は全部ゲームしてることになるぞ。サポートメンバーは交代制で良いとしても……かなり厳しいだろう?」
そう言いつつも、俺には一人心当たりがあった。リルフィーだ。奴ならこの殺人的スケジュールを嬉々としてこなすだろう。正にうってつけの人材ではあるが、残念ながら『RSS騎士団』のメンバーではない。
「シドウさんに打診はしてあります。サポートメンバーも総動員でやればギリギリいけるでしょう」
「……なんて言ってた?」
「タケルのところはいつも面白いことを考える、と。計画立案に問題が無ければオーケーだそうです」
つまりは俺の判断次第ということだろうか。
話に出てきた第二小隊隊長ことシドウさんであれば、この計画を遂行できるだろう。やると言ったらやり遂げる人だ。才能的にも申し分が無い。
「その間、第二小隊はどうすんだ?」
「あそこは結束が固いですし、隊長不在でもきちんと回るところです」
人材面ではギリギリ可能には思えた。あとは計画そのものの実現性、物資などが足りるかどうかだろう。なおも計画書を読み進めると――
「って、『トロル』狩りでやんのかよ? あんな化物を数多く倒せるのか? 消耗も半端じゃないぞ?」
計画書にしれっと書かれている「『トロル』狩り」に思わずわめいてしまった。
これは俺が弱気というわけではない。『トロル』はファンタジーRPGでは定番のモンスターではあるが、この『セクロスのできるVRMMO』では強敵だ。少なくとも十五レベル平均以上のパーティ……それも連携や装備が十分なパーティで挑みたい脅威だ。
「『トロル・スレイ』の『タレント』がいくつか手に入ったので……使ってしまうのは惜しくはありますが、飾っていても仕方が無いでしょう。それとも正式サービスへ持ち込みますか?」
『タレント』とは『セクロスのできるVRMMO』に実装されているアイテムで、武器や防具、アクセサリーなどを強化するための材料だ。
話に出てきた『トロル・スレイ』であれば、武器に付与することで『トロル・スレイヤー』にすることができる。『トロル』限定ではあるが、与えるダメージは激増だ。
「『トロル・スレイ』が出回っていたのか……市場では見なかったな。いくらした?」
「四つでざっと金貨五十万枚で済みました。どれも正式サービス移行の発表前に取引でしたから、いまごろ取引相手達は悔しがっていることでしょう」
カイの報告には力が抜けた。
なんせ金貨五十万枚だ。その程度で破産する『RSS騎士団』ではないが、さすがに大金ではある。
「なんで四つも買うんだよ! この計画だって一つあれば良いだろうが!」
「残り三つは被験者の……シドウさんの新調する防具に付与しようかと。盾、鎧、アクセサリーと全ての防具を『アンチ・トロル』にするのが計画の肝です。武器だって『火』の『エッセンス』を二つ重ねて『トロル・スレイ』を加えれば、十分以上の火力になるはずです」
「盾は要らないだろう! シドウさんは両手剣を使うんだから! 臨時ならともかく、長時間は慣れている武器じゃないと逆に辛いだろうが!」
「そう言うものなんですか? それは……シドウさんとも相談する必要がありますね」
そう答えるカイは、すでに計画を実施するものと考えてやがる。
確かに重要な情報に違いなかったし、計画は胸を躍らせるものだろう。俺が資金調達の責任者で無ければ。
「隊長は資金繰りを気にして? 何か他の計画があるのなら……入手した『トロル・スレイ』を市場に流すのもありかと。しかし、計画を断念するにしても、『トロル・スレイ』は正式サービスに持ち込んだほうが有益だと思いますが?」
「……それはどうかな。いや、確かに『トロル・スレイ』を正式サービスに持ち込むのは悪手ではないけど……最善でもないと思うんだよな。ああ、先にこれの方針を決めちまおう。『三十レベル到達計画』は実施の方向で進める。すぐに動かなきゃならないことも多いんだろ? ただ、先に俺の相談にのって……それも動いてくれ」
結局、俺は計画に賛成した。
くだらない事ではあるが、オープンβテストでの三十レベル到達は成果ともいえる。それは解析チームと分析チームの……日のあたらない者達の勲章になるんじゃないかと思ってしまったからだ。
「わかりました。相談というのは?」
「……正式サービス移行時の条件聞いて……どう思った?」
「そうですね……甘い、ですかね。このゲームのデザイナーは……痛い目に遭ったほうが後々のためかもしれません」
「だよな! そう思うよな!」
少し不安だった俺は、カイの賛同を得られてかなり安心した。これなら俺の感覚は間違っていないはずだ。
だが、そんな俺達の様子にアリサは驚いているようだった。
「いや、なんだ……その……この程度の縛りだと、いくらでもつけ込む隙があるんだよ。もう、罠なんじゃないかと疑うレベルでさ」
そうアリサに説明していると――
「その発想は無かったですね。さすが隊長です」
「なんだよ、それ! ……カイの方は何かプランを考えたか?」
「いえ。創造性のある作戦では……悪知恵の利いた作戦では隊長には敵いませんから」
どうしてうちの連中は、仮にも隊長である俺に敬意を払わないんだ?
「……俺はちゃんと考えてきたぞ、このポンコツブレインが。そうだな……コンセプトは『開幕一週間でクソゲーにする』だ。まずは数の優位を最大限にだな――」




