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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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ギルドホールをデザインしよう! ――2

「言うまでもありませんが、予算がありません。これは最も安いプランになります。本部建設で精一杯とは申しませんが……緊縮財政をお願いしている手前、無駄な贅沢は慎むべきと情報部では考えています」

「なにをっ! 我ら騎士団の誇りある本部を、その規模に合わせるのは無駄ではない! むしろ必要なことだ!」

 俺の説明に、威勢よくハンバルテウスが噛み付いてきた。

 ムッとしたのか、カイの奴が噛み付き返す。

「そちらこそ、良く考えるべきだ。単純に考えて、団員一人当たり一畳あるかどうかなんです。そもそも、この時点で――」

「黙れ! いまは私が話しているのだ! 私は先任だぞ! 無礼だとは――」

「黙るのはハンバルテウス少尉だ。私は発言を制限する決まりを作っていない。続けてくれ、カイ少尉」

 団長がハンバルテウスに釘を刺した。

 こうなるから二人を鉢合わせにしたくないのだが……今回の様な大事な話し合いから、カイを外す訳にもいかない。

「……続けます。この時点で本格的な本部建設は必要ないのです。とにかく、今回入手した土地は狭すぎます」

「ふん、こんな狭い土地を購入するからだ!」

 腹立ち紛れなのか、ハンバルテウスが吐き捨てるように言う。しかし――

「この土地にしたのは……ハンバルテウスが強く主張したからと、俺は聞いたぜ?」

 アレックスに指摘されてしまう。

 実利的な意味はないが、ギルドホールのナンバリングで一番になっている。栄誉ある一番は、誇りある騎士団が占めるべきという考えだ。

 その考えには、俺も異存はない。示威行為として戦略的な意味もあるし、プロパガンダにも役に立つ。ただ、固執する必要はないと思う。

「ハンバルテウス君、少しお黙んなさい。本格的な本部建設は……隣り合う土地を二つなり、四つなりくっつけてから――まるで地上げ屋みたいだね――ということかな?」

 副団長に窘められ、ハンバルテウスは悔しそうだ。生え抜きの『RSS騎士団』たる自分が、元リア充な背教者に……なんてところか? ……俺達は仲間だろうに。

「はい、その予定です。すでに第二回の競売が開始してます。いまのところ、問題なくコントロールしてますが……第三回、第四回を睨むと……かといって、これ以上の緊縮財政もお願いしたくはありません。ここは可能な限り質素にするべきでしょう」

 予定していた説明をしてみるが、どうにもやり難い。

 面白そうに俺を見るヤマモトさんの顔付きには、覚えがある。憎めないが人の悪い教師が、意地悪に生徒の回答を待つような感じ。

「それは了解したよ。でも、このプランには賛成できないかな。今回のギルドホール確保はいわば……全団員の努力の結晶なんだよ? また、せっかく一番を取ったのだから……ちゃんとした本部完成までは、所持するべきだよ。それこそトロフィー的な感じにね。しばらく使うのに適当に作りすぎたら……それこそ士気に関わるし、不便でもあるだろう?」

 副団長の噛み砕いた説明で、出席者は納得したかのように肯いたりしている。

 問題の提示「さて、タケル君? どう答えるね?」といったところか。そんなことは承知の上だが、俺の用意した答えは期待に沿うかな?

 だが、ハンバルテウスが唐突に声を張り上げた。

「私は別案を用意してある! それを諸兄に見てもらいたい。ディクアールブ軍曹、用意をしたまえ!」

 言われたディクさんは複雑な顔をしている。

 それで薄っすらと事情が読めた。細かな話の流れは判らないが、ディクさんはヴァルさんに対抗して……コンペでもするつもりだったのだろう。

「いや、でも……タケル――もとい、タケル隊長……その……」

「あー……俺のことは気にしないで」

 気にしないでくれと、顔の前で手を振ったが……やや投げやりになったか?

 隣に座るカイはカンカンに怒っている。「情報部にいながら、ハンバルテウスに与するとは!」みたいな考えなのだろうが……正直、面倒臭い。無駄に仲たがいしなくてもと思うのだが……これは後始末が大変になりそうだ。

「すまないな、タケル……大尉。ディクアールブ軍曹とは古くからの友人でね。今回は友人として依頼したんだよ」

 自慢げなハンバルテウスには、さすがにイラッとくる。

 そりゃ『RSS騎士団』は、このゲームに移住してくる前からあったんだし、その頃からの友人関係だってあるだろう。俺とリルフィーの腐れ縁も似たようなもんだ。

 そんなのは単なる事実に過ぎないが……あたかも自分の優位であるような振舞いは、はっきり言って癪にくる。

 そんな会話をしていた間に、ディクさんが自分の図面を壁に張り出し終えた。

「……これはまた……なんというか……豪華だね」

 ヤマモトさんだけが感想を口にする。

 アレックスとシドウさんは考え込む風だし、カイの奴はあからさまに見下していた。

「私のプランでは団長の執務室はもちろん、会議室や士官用の個室、二人部屋ですが全兵士にも部屋を用意します!」

 自信満々だが……そりゃお前のプランじゃなくて、ディクさんのアイデアだろうが。それから、同じギルドのメンバーを『兵士』呼ばわりするな!

 また予想通りの問題点もあった。

 だが、俺が反論する前に、カイが静かに手を挙げる。

「発言を許可する。あー……別にいちいち許可を求めんでもよろしい。私は礼儀正しければ、誰の発言でも歓迎するつもりだ」

 団長に言われ、カイが軽く会釈をする。

 ……わざわざ挙手しなくても良かろうに。嫌味だし……相当に頭にきてやがんな。

「お聞きしたいことは『多過ぎる』くらいですが……それは『時間の無駄』でしょう。率直にお聞きします。このビルを建てるのに……いくら必要なんですか?」

「そ、それは計算中だ!」

「では、手間を省いてさし上げます。五階建てですから……上物だけで金貨二十万枚、細かな部分を含めて三十万枚はしますね」

 カイの査定に、さすがのハンバルテウスですら言い返さなかった。全員が思わず黙り込んでしまっている。

「……そんなに掛かるのか、タケル?」

 シドウさんが問い質すが……これは信憑性が無いというより、あまりの金額にビックリしたからだろう。

「そうですね……カイの試算はざっくりしてますけど……これでも控えめですね。色々と改善点はありますが……なによりも高層建築なのが良くない。三階から値段が跳ね上がるんですよ」

 これは少し考えれば判ることだ。高さが無制限だったら……百階建ての塔にでもして、好きなだけスペースを確保すればいい。

「一応、色々な改善点ってのを聞いときてえな」

 アレックスも説明を求めてきた。集中しているせいか、砕けた言葉使いになっている。

「とにかく、個室の概念が無駄かな。贅沢だとか、予算の問題とかじゃなくて……不要なんだ。俺達はこの世界で生活するわけじゃない。もし一人になりたいなら……ログアウトすれば良いんだ。同じ理由でベッドも要らない。この世界で寝る奴はいない――ほとんどいない」

 言い直したのは居眠りの達人、ヤマモトさんが同席しているからだ。

「さらに言うなら、俺達は滅多に全団員が同時にログインしない。だから……各部署専用のちょっとした小部屋と、ラウンジみたいな共有スペースがあればいい。ああ、ディクさん、落ち込まないでくれ。このビルは良くできてる。『RSS騎士団』の『家』なら、このデザインが正解だ」

 ハンバルテウスにはいい薬だが、ディクさんまで凹ませる気はない。

 おそらくディクさんは中世の砦などを参考に、現実的な建物をデザインしたのだろう。良いものだと俺にも判るが……発注が間違っているんだから、どうにもならない。

 それに俺がヴァルさんに頼んだのも、ごく単純な理由だ。『プレハブに毛が生えた程度の図面』を、作ってくれそうな方に頼んだに過ぎない。

「あー……じゃあ、まあ……もう一つ用意した案もあるんで……それを見てもらいましょう」

 気の抜けた言い方になってしまった。

 まあ、勘弁してもらおう。もっと紛糾すると思ってたが、すんなり情報部案が通りそうではある。

 ……ハンバルテウスのお陰とも言えるが、いまいち釈然しなかった。

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