エピローグ――6
そんな疑念も――
サービス再開の告知で吹き飛ばされた!
ニュースによれば国会が空転するほどVRマシーンの新安全基準では揉めたというし、連日のようにVR系企業の倒産やサービスの中止も報道されている。
やはり不具合の間に収入が途絶えたのは痛かったのだろうし、その後のケアにも人件費等は嵩んだはずだ。営利企業としては、致し方のない選択でもあるのだろう。
しかし、それでも俺達ユーザーとしては何とか頑張って欲しく、誰もがサービスの継続を祈るように願っていた。
そこへサービス再開の告知だ!
俺達の興奮と盛り上がりといったら――
滅多にメールなんて送ってこないリルフィですら、大騒ぎで連絡を寄越したといったら……少しは伝わるだろうか?
絶賛喧嘩中なカエデからだって――
「喧嘩の最中だけど! まだタケルとは口を聞いてあげないんだけど! ゲームが再開だよ、タケル! ちょうビックリしたし、嬉しい! 楽しみ!」
と短いメールが届いている。……やはりカワイイ!
ただ、世間では――
「人死にすら出たのに営業再開なんて、反省していない。こんなことでは、また問題を起こす」
などと訝る向きもあった。
しかし、俺に言わせれば、酷い勘違いだ。よくある創作のパターンと混同してしまっている。
このテロが運営内部――例えばゲームデザイナーその人による犯行だったのなら、営業再開は認められるべきではない。
会社とゲームデザイナーは自らの罪を償うべきだし、営業再開を許さないのは社会的制裁として適当ですらある。
だが、今回のケースでは各運営会社も同じく被害者で、責められる謂れはない。
例えるのならテロリストに旅客機を墜落させられたからといって、その航空会社に廃業を求めたらおかしいのと一緒だ。
……残念ながら実際には、顧客への損害賠償などで倒産もあるらしいけれど。
そして運良く贔屓のゲームがサービス停止を免れたとしても、まだ重大な問題は残っていた。
……俺達プレイヤー側の方にだ。
ほとんど全ての犠牲者が大なり小なりの精神的打撃も受けていたけれど、それとは別にPTSDを発症していることがあった。
考えてみれば当たり前ではある。
VRマシーンを使ったから、俺達は約二か月もゲームに閉じ込められた。そして再び使って――
また閉じ込められないという保証はない。
それどころか、今度は帰ってこれない可能性すらあった。
普通の想像力であれば、誰でも思い付ける。その上、完全には否定もできない。
どうしてもVRマシーンで横になれない、寝そべれてもスイッチを入れられない……そんなPTSDの発症も散見されている。
確かに俺だって帰還後、初めてVRマシーンを使った時には緊張した。軽いパニック状態にすらなっている。
VR空間へ移動してからも落ち着かなくて、何度もログアウトが出来るか試してみたり……明らかに平静ではいられなかった。
それでも回を重ねるごとに慣れていく。良いことなのか悪いことなのか、徐々に事件の時に感じた恐怖は薄れていった。
しかし、全員がそうではない。
どうしてもトラウマを乗り越えられない人だっているだろうし……それが一生続くことだってあり得る。
考えてみれば……もう再会できない理由の方が、思いつき易いぐらいだった。
まだ入院中でゲームどころではないかもしれない。
激変したリアルに、時間的余裕を奪われた可能性だってある。
どうしてもPTSDを克服できないかもしれない。
メールで連絡すら取れないのは、現実への帰還で事故を?
それでも俺達は、数えきれないほど再会とその後の約束をした。
もちろん全員が全員、本気だったと思う。
たぶん、それは何か大きなものに――運命だとか皮肉な悲劇だとかの……そういった人間には太刀打ちのできないものに負けてしまわないためだ。
俺達は大切な人を喪った。もう取り返せないことも多い。酷い目にも遭わされた。
でも、だからといって負けを認めなくてもいい。
貪欲に幸福を追い求めるべきだ。
まあ、いくつかの約束では、調子に乗り過ぎた。でも、景気づけにはなった……と思う。
そんな風に冬を過ごし、春が訪れ――
いよいよ本日の正午、通称『セクロスのできるVRMMO』のサービスが再開される。
VRマシーンに座って、これまでのことに思いを巡らす。
……皆は大丈夫だろうか?
待ち時間に苛々しつつ、何とはなしに本棚の一角へ目を向ける。……ここ最近からの習慣だ。
そこにはギルドホール落成式で撮った集合写真ならぬSSが飾ってある。
苦労してサルベージしたSSには、仏頂面な俺を中心にギルドメンバーがぎゅうぎゅうに写り込んでいた。
その隣には形見分けとして頂いたオブジェが置いてある。リアルではアーティストであられた先生の遺作だ。
残念ながら俺には、美術品は解らない。まさに猫に小判だろう。
それでもオブジェを見る度に、いつでも先生からの叱咤激励が聞こえるような気がする。それだけで俺には十分だ。
……まずは落ち着けと叱られそうだけど。
しかし、それでもソワソワしてしまう。心配でジッとしていられない。
皆、無事にログインできるだろうか?
どうやら俺は、やっとMMOの本質を理解したらしい。
本拠地が仲間と会える場所だったのと同じく、MMOも仲間との再会を約束した場所だ。
ログインすれば皆がいる。ただそれだけの事実が尊かった。
もう皆に会えるのが嬉しいのと、再開できないかもで悲しいのと……表裏真逆なテンションで満たされていく。
大丈夫。きっと皆はログインしてくる。
今日は駄目だった奴だって、数日もすればひょっこり顔を出すに決まっていた。
なぜなら俺達は、あのテロをすら生き延びたベテランMMOプレイヤーなのだから!
ちょっとやそっとの障害なんて、物ともしないはずだ!
何度となく自分に言い聞かせても、また叫びだしたくなる。不安と期待とで圧し潰されてしまいそうだ。
我慢も限界になりそうな寸前、やっと定刻が訪れる! そして俺は――
仲間の待つ世界へと、ログインを開始した!
【『セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編』・完】
ヘロヘロなので、あとがきは後日に!




