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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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……の世界――4

「自分のことは棚に上げて、偉そうに! ここにいるってことは、カエデだって――」

 ……拙い。

 死亡時の状況については、濁すべきだった!

 『甲冑野郎』が不吉なことを口にしている。おそらくは俺を陥れるための嘘だろうが……もし本当だったら気まずい思いをすることになる。

 が、意外なことに屈託もなくカエデは説明を始めてくれた。

「うーっ! ボクだって好きで一番乗りした訳じゃ……。あの日、タケルは遊んでくれないし、次の日はログインできないって分かってたから……ちょっとだけ冒険したんだよね。それで……その……オーガ狙いソロを……」

 例の両手を小動物のように合わせ、クルクルと親指同士を回しあう癖をしながら答えてくれた。

 軽く不貞腐れ、頬を膨らませ、バツが悪いのか少し顔を赤くしていて……とてもカワイイ!

 この生き物を抱きしめたら罰せられるのか? なんて不条理なんだ!

 それに『甲冑野郎(やつ)』の言葉は出まかせで、カエデに関する色々は、やっぱり嘘だったんだろう。


「オーガ狙い? カエデ単独で?」

「うん。どこかで無理になって、それこそ死亡(エンド)するとは思ったけど……腕試しによいかなって。ちゃんと二匹目までは倒せたんだよ! だけど三匹目で痛恨の一撃(クリティカルヒット)を貰っちゃって……えへへっ」

 ……叱り飛ばしたいのを必死で堪える。

 MMOは現実ではないから許されるというか……とても敵わないような相手に挑むのも、ゲームとして正しい取り組み方ではあるからだ。

 成長とは『それ以前には出来なかったことができるようになること』であり、それは『いま出来ないこと』を知ってなければ分からない。

 強敵に返り討ちにされるのもゲームの醍醐味というか……負けるから勝てるのが道理というものだろう。

 しかし、カエデの運の悪さも相当なものだ。

 この不具合がテンプレートなデスゲームだとして、よくある主催者からの犯行声明代わりの開始宣言があったとしても……その瞬間に死にかけ、もしくは数十秒後の死亡が確定しているプレイヤーも一定数はいるはずで……なんというか、つくづくデスゲームとは競技として不完全といわざるを得ない。

「で、目出度く死亡プレイヤー第一号になった訳だ?」

「……チ、チガウヨ。ぼくハソンナどじフンデナイヨ。ホントダヨ」

 やっと失言したことに気づいたのか、妙な片言で胡麻化しだした。……ホント、愛でたい!

「『死亡待機所(ここ)』も大変だったんだなぁ」

「……まあね。いまでは平和?というか……ルールもできて落ち着いたけど、最初の頃は大変だった。増える人は、ほとんどが最初は半狂乱だし。なんだってこんな仕様なんだろ? 天国?なのかな? あるのが普通なの、MMOって?」

「冒険の舞台として天界や地獄がテーマになるのは定番だし……死んだら落とされる場所として、『地獄』のあるタイトルも珍しくないぞ。いわゆる既出ネタの類だな」

「そうなの? そんなの……なんの意義が?」

「主にペナルティの一環かな。死んだら罰として地獄の超強いモンスターに、何分間か追い立てられる……らしい」

 追徴罰として地獄行きのあるシステムは、実在したりする。

 死亡ペナルティを重くしたかったり、望ましくない行動に対する罰として予約されたり……その理由も様々だ。

 しかし、結局はゲーム的な懲罰でしかないので、雰囲気だし(フレイバー)止まりだったりもする。


 そんな無駄話をしながらも、カエデと『死亡待機所』を進む。

 辺りは雑然としているというか、『砦の街』を再生産したかのような佇まいだ。

 生活の拠点としての小屋かテント、変わらずの『食料品』類の販売、より真剣な暇つぶし関係の出店も並ぶ。

 『死亡待機所(ここ)』での手持無沙汰は、あっちでより深刻かもしれなかった。むこうでなら最悪、狩りにでも出れば時間は潰せるし、金貨だって稼げるからだ。

「あっ! カエデ! 手持ちは十分か? 生活費……足りてるか?」

「大丈夫だよ。全くない人はGMさんに支給して貰えるから。タケルこそ平気? それに金貨より現物の方が不足しやすいんだよね。ここには『食料品店』がないから。GMさんにお願いするとしても、その作業だってあるし」

 ……なるほど。むこうとは違う形で大変らしい。

 それに前もって教えて貰って助かった。

 いまアイテムイベントリには、いつもアリサに貰っているコーヒーが一杯きりだから……これから『食料品』は買い求めなきゃならない訳だ。

「あっ! シロクマ! シロクマ買っといてくれた?」

「そういえば最後に話題にしたの、アレだったな。もちろん、持って無いぜ? あと、意外と美味かった」

 八つ当たりなのか、脇腹をポカポカと突き始めてくる。

 ……あまりに久しぶり過ぎて、鼻血が出そうだ。なんなんだ、この可愛い生物は?

「だいたい、タケルはズルい! なんなの、ギルド『ラフュージュ』って! タケルは――ギルドマスターとか柄じゃないぜ、『RSS』騎士団もあるし――なんて言ってた癖に!」

「色々とあったんだよ、そう怒るなよ」

「ギルド作ったのは、べつに良いの! ボクが言いたいのは……ギルドにはアリサ入ってる?」

「ああ、もちろんだ。ギルドを作るところから手伝ってくれたぜ」

「あーっ! いいなぁっ……ギルドの立ち上げかぁ……面白そう! リーくんとネリーも?」

「うん。というか……まあ……よーく考えてみると、俺にギルド作るよう勧めたのはリルフィーの奴だな。あいつが言い出しっぺだ」

「うーっ! みんなズルい! どうしてボクだけ仲間外れなのさ! ボクだって最初からの仲間なのに!」

 そう叫ぶや、顔を真ん丸にして膨れてしまった。

 不満も尤もなだけに、「いや、それはカエデがいち早く死亡(エンド)したから」とも返し難い。

 ……こっそりメニューウィンドウを弄るも、ギルド加入関係の項目は暗く反転されたままだ。『死亡待機所(ここ)』では変更できない仕様なのだろう。


「と、ところで! さっきから歩いてるけど……どこへ向かってるんだ? カエデの家か?」

「もーっ! そうやってタケルは、いつも誤魔化すんだから! ――ボクん()じゃないよ。タケルに会いたいと思うはずな人の家」

 そう言って、ポツンと一軒だけ建っている小屋を指さす。

 さらに偶然なのか、中から住人も姿を見せる。

「うん? 誰かと思えば、タケル君じゃないか! ……なんだって落ちてきちゃったのさ?」

 そう仰るのは、『バスタードソード』をお預けになられた先生だ。


 ……重大なことを見落としていた! 俺は馬鹿だ!


 死んでも死なない――『死亡待機所』へ移動するのであれば……自殺も同じ結果ということだ。

 つまり、先生方お二人は、目論見を達成しておられない!

 でも、どうして……お一人だけで?

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