PvP――7
「俺はお前をリスペクトしているって言っただろうが、タケルぅっ! それは嘘じゃねえぜ? 俺がお前にぶっ殺されたように……ぶっ殺され続けたように……お前は、これからぶっ殺されんだよぅっ!」
感極まったかのように『甲冑野郎』が叫ぶ。
それは肝の冷える光景だった。
明らかに常軌を逸している。これこそ狂った――俺ヘの復讐を、奴の中で正当化した証か。
……呑まれるな。相手に耳を傾けるのもいけない。ただ、何を隠しているのか考えろ!
そもそもこいつらは、ここで何を?
おそらくカガチを餌にルキフェルを釣り上げたか、もしくは逆、あるいは両者共に利用して呼び寄せた。
そこまでは判明している。細部はともかく大筋では、まず間違いない。
つまり、何らかの目的で人質に? おそらくは俺を縛るのにか?
『甲冑野郎』も「招待状を送る」などと嘯いていた。そう間違った見立てでもないだろう。
しかし、そこからどう動く? 奴らの立場になって……俺なら――
まず、すぐ行動へ移す必要がある。
カガチの迷子が長引けば――少なくとも日付が変わる時間までに戻らなければ、大騒ぎになってしまう。
ギルド『ラフュージュ』総出の捜索へ発展は、絶対に上手くない。自分から圧倒的多数に戦いを挑むようなものだ。
やはりカガチを捕まえた時点で俺へメッセンジャーを送るべきか?
「いますぐ付いて来い。でなければカガチの安全は保障しない」とでも脅して?
さすがに単独行動はしてないだろうが多くて数名程度、下手したらリルフィーだけの二人っきりだ。『ラフュージュ』全員に比べれば、遥かに少ない。
そうして首尾よく誘導出来たら、四名対数名の形に持ち込む?
俺が無視するようなら……人質を永久に帰さないことで、報復に代える?
色々と抜けているし、上手い作戦とも思えない。方向性は間違ってない感じだが、もう少し煮詰めるべきな気もする。
なにより手間暇かけてリスクを冒し、結果として得られるのが『四名対数名の形』では無意味に近い。
それに、なぜこのタイミングなんだ?
確かに捜査の手は、意外なほど真実の近くまで迫っていた。奴らが仕掛けなくとも、いずれは到達したと思う。
そして俺が『RSS騎士団』へ『ギルド外部監査官』として復帰したのも、非常に都合は悪かった。
隠れ蓑として『第一小隊』を使っているのに、細かく調べられたらバレてしまう。かといって逃げだす当てもない。
それで自暴自棄という訳でもないけれど……苦境を脱するには、もう動く他に手はなかった?
いや、俺が『RSS』所属へ戻ったのは、好都合と見做せるか? 『同族殺し』の対象となるのだし?
またクピドさんに強姦犯人として、世界最大手の勢力から探し始められ――
俺も『ギルド外部監査官』として、隠れ蓑を調べだす。
絶体絶命のピンチではある。なりふりも構っていられない。動くのなら今しかなく、これが最後のチャンスかもしれなかった。
しかし、だからといって最終ステージが――
いまと大して変わらない数人対四名?
それも納得いかなかった。俺なら絶対にそんな作戦を選ばない。
最終的にカガチを人質に脅しつつ、俺と随員数名を倒すつもりなら……少なくとも二桁の戦力を――
「拙い、リルフィー! 急げ! 増援が来る!」
「え? そんな……相手は前衛ばかりっスよ? 勝ち負けはともかく……急いで倒すなんて――」
……リルフィーの言う通りか。
いま俺達は、奴らの『回復薬』を削っている段階だ。
そのうち使い果たすだろうし、消耗ペースも向こうの方が早そうでも……やはり時間が掛かる。
しかし、援軍の当てがあるのなら、奴らはそれで及第点だ。
無理しないで粘っていればいい。そうしていれば味方が到着して、一気に戦況も引っくり返せる。
……ここへ来るのは『第一小隊』か?
いや、違う。それなら俺達にも平等なチャンスというか……おそらく『第一小隊』のメンバーなら、とりあえず仲裁してくると思う。
そして話し合いに持ち込めれるのなら、もう危険はない。俺達にだけメリットとすらいえる。
いくら隊長のハンバルテウスと対立したからといっても、そう道理から外れた決断はしないからだ。
となると増援は『第一小隊』ではなく、不具合が起きてから『RSS』にすり寄ってきた奴らか。
俺のBANと入れ替わるように、ハンバルテウスの配下として潜り込んだようだが……それは正しい見解ではなかったらしい。
目の前の三人が――『甲冑野郎』や『偽団員』、『盗賊』が『RSS』へ紛れ込む為に、あいつらも加入を許した……のか?
もしかしたら中には、御同類な屑もいるだろうし……それどころか俺を憎む奴すら?
……その可能性は否定できない。
ゲームでとはいえ、俺は敵を作り過ぎた。こんな不具合に巻き込まれたら、そいつらに牙を剥かれてもおかしくはない。
ほんの数人、そんな奴らがいれば……俺達は破滅する。
……どうする? このままでは座して死を待つも同然だ。
しかし、何か手はあるか?
いますぐ奴らを倒すか、援軍を来なくさせるか、どこからか援軍を呼び寄せるか――
必死に考える俺をあざ笑うかのように、『甲冑野郎』が狂喜の声を上げた。
「やっとだ! やっと絶望したな、タケル! その顔が……その絶望に歪む顔が見たかった! さあ、泣き喚け! あの女は――お前の女は、いい声で泣き叫んだぞ! お前も絶望の呻きを聞かせろ!」




