俺を憎む『X』の考察――3
全てはハンバルテウスによって行われた?
つまり、何らかの理由によってヴァルさんを。次にジェネラル団長。最後にはモヒカンの口も塞ぐために?
さらに団長殺しと俺を襲った全身甲冑野郎は、ほぼ同一人物で決まりだから……あのふざけたフルプレートアーマーの中身はハンバルテウスだった?
……そこで初めて事実へと行き当たる。
もし甲冑の中身が奴だった場合、『鑑定士』の力でも見破れない……と思う。
試してみなくては判らないけれど、おそらく無理だ。あんなキグルミも同然な鎧を装備されてたら、骨格から判別なんて不可能に近い。
逆にいえば――
『鑑定士』の目から免れたかったら、その類を身に付ければよい
とも言い換えられる。
つまり、馬鹿々々しいほどに厚着したり、キグルミや宇宙服、そして……全身甲冑などをだ。
そこから発展して考えれば――
あの全身甲冑は、最初から俺と対峙するために用意された武具で……その中身は知り合いだった
といえるのか?
……例えばハンバルテウスのような?
様々な状況証拠が、奴を示し始めている。しかし、それでも疑念が残った。
これは俺の甘さなのか?
それとも……かつて仲間だった奴への友情。その残り香が残っている?
確かにお互いウマは合わなかった。
ちょっとした好みや趣味までもが違い過ぎて、本来なら知り合いにもなれなかったかもしれない。もう住んでる世界や話す言葉からが異なる。
それでも同じ「リア充をぶっ飛ばそう!」の旗の下に集った。
素晴らしいことだ。そして輝かしいギルドだった。
いまや『RSS騎士団』を名乗れないけれど、郷愁にも似た感情すら抱いている。きっと俺は、いつまでも大切な場所として記憶するはずだ。
それに主義主張なんて、最後にはどうでもよくなっていた。
……こんなことを言うから、俺は道を違えることになったのか?
でも、ただ一つの目的に集まった仲間と懸命になる。それこそ心を燃やし尽くすほど一心不乱に。
ゲームであろうと、スポーツであろうと……時には純粋な闘争であろうと、それは強く仲間を結びつけてくれる。
BANになったギルドではあるけれど、胸を張って誇りたい。
あの栄えある『RSS騎士団』の一員であったし、そのメンバーは今でも俺の仲間であると!
なのにハンバルテウスが………………裏切った?
正直、肯けないでいる自分を感じる。
未だ理由は分からないけれど、仲間であるヴァルさんを?
さらに俺たち全員の旗印だったジェネラル団長も?
その上、何らかの都合でモヒカンまで?
……全く納得できない。
ジェネラルの凶報に際し、幹部で一番に動揺していたのがハンバルテウスだ。
衝撃的だったせいではある。
しかし、奴が認めて欲しい先達として、団長を考えていたから……やや歪であろうと、誰よりも団長を敬愛していたからでもあるはずだ。
なのに『甲冑野郎』に扮して正体を隠し、反則も同然な武器を使って弑逆して……アリバイ工作とばかりに偽りの涙を?
違う! それはハンバルテウスを侮辱している!
そもそも『甲冑野郎』とハンバルテウスは別人だ。
根拠の薄い勘に過ぎないけれど、べつに希望的観測でもない。
なぜなら『甲冑野郎』から向けられた殺意とハンバルテウスからのは、別物にしか思えないからだ。
俺のような素人でも判る狂気が、『甲冑野郎』のものには混じっていた。誰より悪意に曝された本人がいうのだから間違いないだろう。
それに今更と思われるかもしれないが……ハンバルテウスから殺意を向けられたところからして、いまだに信じられない。
確かに『悪意の種』はあった。俺と奴との間には、不運な確執が生じ過ぎている。
だが、それは殺意を抱くようなことだろうか?
それに自然と育まれていくような感情でもない。誰もが納得する確執を、さらに積み重ねるか……偶然や他の悪意を持つ者が『水』を注ぐ必要がある。
なぜ俺は、ここまでハンバルテウスに恨まれて?
そしてモヒカン殺し――モヒカンが殺されたとしてだが――も腑に落ちない。
いやヴァルさん――こちらも他殺と断定してしまっている――や団長暗殺も納得はいかないけれど……冷徹な目で考えると疑問点だらけだ、特にモヒカンの場合は。
『X』がハンバルテウスであり、すでに奴が邪魔者であれば誰であろうと殺す怪物へ成り下がっていたとして……その目的は?
モヒカンであれば口封じか?
確かにスパイ絡みの処理は失点とはいえるけれど、それが人を殺すほどの理由には思えない。
もし露見したところで、軽い叱責とペナルティを受ける程度で精々のはずだ。
また、逆にその程度の理由でも動く狂人であったのなら、ウリクセスの生存で辻褄が合わなくなる。
おそらくモヒカンは、問われるまで沈黙を保ったと思う。
ゲームと不具合の違いぐらいは、理解している奴だったけれど……だからといって告解する理由にもならない。
むしろ『いなくなった』から、一件が明るみになった向きすらある。つまり隠蔽工作としては、全くの逆効果だった。
そして露見の可能性をいえば、ウリクセスの方が遥かに高い。
あいつは口に気を付けてる人間じゃないし、事実として勝手にポロリと暴露しかけている。口封じの必要性を感じてもおかしくない。
馬鹿な前提での考察と思っていたけれど、思わぬ収穫が得られたかもしれなかった。
おそらくハンバルテウスは『X』ではない。
もう確定だ。最悪で協力関係ぐらいにあるかもしれないが……あの全身甲冑の中身ではない。
しかし、逆に『甲冑野郎』の方は、残念ながら顔見知り。少なくとも『鑑定士』の目でなら判別がつく個人だ。
また、あの狂的な憎しみの目こそ、特徴的な――
そこまで考えた瞬間、女の子の悲鳴が俺を現実へと引き戻した!




