俺を憎む『X』の考察――1
とにかく、いつまでも秋桜やウリクセスの相手はしてられなかった。
猛烈に忙しくというか……考えるべきことが山積みになり始めている。このままでは処理能力を超えてしまいそうだ。
しかし、それはそれとして一向に発見されない不良娘も気になる。
これで最後、見つからなかったらギルド総動員の捜索へ切り替えよう。そんな決定を下しつつ、皆を――アリサにネリウム、リルフィーの三人を促す。
そのついでに閃いた妙案も試した。例の「いっそのこと逆にルキフェルを探してみる」作戦だ。
………………これが馬鹿々々しくなるほどに大当たりした。
ルキフェルの白備えは余程に目立つのか、目撃情報だらけだ!
しばらくは部外者だったが、いまは『ギルド外部監査官』という肩書も得ている。その権限で以て辞めさせるべきか? あのデメリットしかない偏執的な白への拘りを?
……いや、見逃しておくか。
まだ致命的な事故は起きてないし、ゲームでの装備を他人にとやかく言われたくないだろう。それに今回に限っては役にも立っている。
「そ、そのー……タ、タケルさん?」
「どした? 見つかった?」
「いえ、でも……やっぱり止めませんか? どうやらカガチちゃんは……ルキフェルさんを探しているみたいですし……」
なんだろう? アリサは言外にナニカを察して欲しいようだ。
わざとらしく目線を合わせないようにしたりで、軽く高揚しているのか頬も赤い。ひどく既視感を感じさせる。
そして答えを知らなかった時のジェスチャーゲームみたいなもどかしさも、強く覚えさせられた。
ようするに俺では共感を持てそうもない。当然に空気など読めないし。
「待つのです、アリサ! これはタケルさんのような高尚な人物にしか発想しえない方法かもしれません。例えるのであれば、そう……今宵ひっそりと華開かんとする月下美人を、一晩懸けて愛でるかのような風流!」
ややイっちゃってる感のあるネリウムは語るが、もちろん寸毫たりとも理解できない。というか、ちょっとコワイ。
そして唐突に違和感の正体にも思い当たった。
『聖喪』の姐さん達だ。同じ表情を、アリサとネリウムはしている!
つまりはアリサや秋桜、リリー……そして偶にネリウムを肴して楽しむ顔とそっくりだ!
嗚呼、ナニカの連鎖は続く! 姐さん達はアリサ達へ、そしてアリサ達はカガチへと! これが人の業といふものなのか!
「月下美人も……カガチちゃんも……それにルキフェル君だって……放って置いて欲しいんじゃないかと――いや、なんでもないよ、ネリー?」
ルキフェルとの友情からか、リルフィーは意見を述べようとしていたが……キジも鳴かずば撃たれまい、だ。
リルフィー! お前の犠牲は無駄にしないぜ!
「と、とにかく! 全ては発見してから考えよう! なっ? それでアレなら……アレすりゃ言い訳だし?」
「それなら……まあ……」
「そうですね。ここは致し方がありません。色々と考えるに……タケルさんの案が一番でしょう!」
などとアリサは折れる体だけれど、それでいて捜索は止めようとはしない。
ネリウムの方は耳触りの良いことを口にするが……その目は爛々と輝いていて、なんというか色々と台無しだろう。
……どうして女の子って、こうなんだ?
そんな訳で無言で――少なくとも俺とリルフィーは――捜索に取り掛かっていた。
アリサとネリウムは興が乗ったのか――
「おお、ルキフェル様! 貴方は何故、『RSS』の騎士なのですか! ――は、どうでしょう?」
「個人的には『RSSの騎士は誓いを守る!』と誓いのベーゼを」
などとおしゃべりに夢中だけれど、その意味は不明のままが良いだろう。
……というか元ネタである『「聖堂騎士は誓いを守る!」といいながらヒロインにズキューン』が理解できる人は、どれだけいるのだろうか?
もちろん『RSS騎士団』の一員であるルキフェルには、『非モテの誓い』を守って貰わなきゃいけない。誓いだろうが遠いだろうが、接吻なんて以ての外だ。
当然に俺だって、奴が正しい道を歩むのに協力する。それは神聖にして崇高な義務といってもよいだろう。
しかし、そんな話を神妙な顔で祈るリルフィーとする訳にもいかなかった。……どうやら盟友たるルキフェルを案じているらしい。
……後のことは、後で考えよう。おそらく心配しても無駄だ。
切り替えるように頭を振ると、自然と蓋をしていた問題と向き合う羽目となる。
……全て余計なことを口にしたリルフィーのせいだ。あとで折檻してやる!
しかし、着想としては切り捨て難い。万が一まで考えたら、とても笑い飛ばせなかった。
なぜなら――
本当に『統一された悪意』――つまりは俺を殺したいほど憎む『X』がいるのだろうか?
という疑問は残る。
不具合が起こる前であれば、一笑に付したに決まっていた。いかにVRといえど、ゲームで人殺しなど不可能だ。もう発想する時点で、どこか狂っている。
だが、それが現実みを帯びてしまった。
実際問題として、俺の命を狙っているのが――殺したいと思っているのが四名もいるぐらいだ。
その四名ですら『X』による誘導だった可能性もある。
さらに――
そうだとしても、いつから悪意は投げつけられていたのか?
と更なる疑問も追加だ。
最低最悪にして最も強力で凶悪な敵の人物像を考えたら……それは『この不具合を引き起こした犯人』となる。
つまり悪意を投げつけられたのは、不具合が発生した瞬間から。
そしておそらくはシステムを支配している人物と敵対ということで……ようするに負けは確定している。
しかし、そんな些細なことよりも、心臓を鷲掴みにする恐怖があった。
その予想が正しいとしたら――
万単位もの人が不具合に巻き込まれたのは、『俺のとばっちりだった』ことになる!




