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セクロスのできるVRMMO ~正式サービス開始編  作者: curuss


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アウトからインへ、えぐり込むように取引――4

「じゃあ、お前の役割は何だ?」

「スポンサー……だな。タケルのところにハンバルテウスって奴いるだろ? あいつが『RSS騎士団』の『手引書』を売りに来たから、相応の値段で買い取ってやった。俺達の全財産に近かったな、あの当時の」

 ……眩暈がしてきた。

 俺がウリクセスの立場で、『手引書』を売るといわれたら……おそらくは買う。断る理由なんてない。

「まあ、廃人と陰口を叩かれるような俺達だって、少しは『キン・スレイ』の結末を気にしてた。で、タケルと秋桜が競ってると聞いて……どっちが落札者になろうと、無事に一件落着と思ってたんだぜ?」

「だからハンバルテウスの提案を呑んだ? それじゃ文脈が通じないだろ?」

「……逆なんだよ。タケル達は確実を期するのに、俺達とのトレードへ――金策へ踏み切った。最初は、そう考えてたからな」

 バツの悪そうな顔でウリクセスは肩を竦める。


 それは十分にアリな話だろう。ウリクセスに――ギルド『ヴァルハラ』に取引を持ち掛けるのは妙手だ。

 どのみち『手引書』に記載してある程度の情報なら、廃人のウリクセスなら到達する。同じ結末なら利益のある方を――収益を選ぶのも悪くはない。

 ……自画自賛してるハンバルテウスの顔が目に浮かぶ。馬鹿ではないんだよな、困ったことにあいつは!


「断っておくけどトレードは公正――というより、けっこう張り込んだぜ? 価値を感じたのもあるけど……β終了も間近で、使いどころだったし」

 ……ますます惜しい!

 そういう場合は金銭化せず、貸し借りの形にしておけば良いものを!

「で、全てはハンバルテウスの独断専行と気付いた後も、賢く沈黙を守った訳だ? お前との友情を感じるぞ、さすがに?」

「いや……だって……タケル……お前、そんなこと聞いたら怒るだろ?」

「当たり前だろ! トレードそのものは……まあ、こちらの不手際ともいえるけど……色々と判ってからは、正直に教えろよ!」

「でもよ? 特別、何か問題が起きてる訳でもないみたいだし……俺だって、トレードの秘密は守らないと。ペラペラと口の軽い男は、信用されなくなる」

 まあ、そりゃそうだ!

 取引相手の名前や商品、価格は秘匿が不文律とされてる。マナーといってもよかった。開いた口が塞がらないけれど、筋だけは通ってる!

「だからか! それでルキフェルと初対面のフリしてたのか?」

「おうよ! 俺としてはサービスのつもりだったんだけど……必要なかったみたいだな」

 ……いかん。頭痛がしてきた。頭がズキズキする。


 しかし、どこまでウリクセスを責めたものか?

 究極的には『手引書』を買っただけ。それも代価は十分以上に支払っている。

 また客観的に鑑みても、そこまで悪質な行為とはいえない。

「はあ……とりあえず、今日のトレードはお前の提案を受け入れといてやる。断っておくけど、『俺が折れて』だからな?」

「えーっ! ――ま、まあ……了解!」

 不満を上げかけたウリクセスは、すぐに聞き分けた。……相当に目が据わっていたようだ。

「それでいいな、秋桜? リリー?」

「へ? いや……そんな……タケルに買って貰う訳には――」

「偶には大人しく奢られとけ! ――リリー! いまの貸し借りは?」

「タケル様が、私共へ一つ、です」

「じゃ、それを減らしとけ!」

 ……ご都合で増えたり減ったりする貸し借りといえど、解消している方がいい。というか当てになるのか、その貸し借り帳の記録は?

「『ダガー+2』でなく『フレイル+2』として下さらないと――」

「では、それで! いいな、ウリクセス!」

「お、おう。ま、任せとけ」

 ちゃっかりネリウムは我を通し切ったけれど……支払いはリルフィーにさせよう。数少ない今日の慰めとできる。

 あとは新事実をギルドへ持ち帰り、カイと相談を――


 ――などと考えていたら、顔を真っ赤にした秋桜が話し掛けてきた。

「タ、タケル! そ、その……ご、ごめん!」

「……んあ? 何がだ?」

「オークションのこと! だ、騙したとか……ズルしたとか――」

 そう口にしながら『ダガー+2』を、大事そうに胸にかき抱くようにしていた。

 ……心配しないでも、盗らねえよ! 本当に信用がないな!

 それに謝るのが悔しいのなら、惚けてしまえばよいものを。妙なところで人が良い。『チョロ山チョロ子』たる所以か。

「まあ、お互い様だろ? というか、うちの不始末……になるのか? うーん……」

「でも……わ、私も酷いこと言っちゃったし……そのっ! た、大切にすru――って痛いよ、アリサ? な、なに? なんなの?」

 珍しくしおらしかった秋桜は、何かをアリサから頬へ突き付けられていた。

 ……どうやら鎖を付けた『宿屋』の鍵だ。ぷっくりと顔を丸くしたアリサが、まるで十字架をドラキュラへ押し付けるかのように秋桜へ掲げている。

 ……なんの呪いだろう? 意味不明すぎる。それから、その「うー、うー」いうのは止めなさい!

 かと思えば二人の間に挟まれてリリーが………………頬を高揚させて苦しんで?いた。

 一見、口喧嘩を開始したアリサと秋桜を止めているようだが、違う。そんな生易しいことではない。

 人は長く中間管理職を勤めると、その立場の不条理さを自慢し、あまつさえ悦び始めると聞く。

 つまり、リリーは拗らせ過ぎて、二人のお姉様から板挟みにされる快感を覚えてしまったのだ!

 嗚呼、どう考えても良家の子女なのに! どうしてこんな変態になるまで!


 ………………直ちに俺へ被害は無さそうだし、そっとしておくか。


「悪かったな、タケル。その……黙っていて」

「あん? 言っとくけど貸し一つだからな? 忘れんなよ? それにルキフェルにも裏は取らせて貰う。 ――だぁーっ! もーっ! 話をするべき人間が増える一方で、全然減りやしねえ……」

 姦しいBGMを背に、なおも釈明を続けるウリクセスを一喝しておく。

 これで責任は感じてるらしくて、面倒くさくて仕方ない。

「でも、タケルさん? そうすると……三人目になりますよ?」

 例のジンクスを蒸し返そうとしたリルフィーへ、怖い顔で返しておく。いちいち験なんて担いでいられるか!

 ただ、まあ……今度こそ、急ぐ必要はあるのかもしれない。

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